悪夢症候群

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
107 / 227
クローズドアパート 第四話『Ideal family』

しおりを挟む
 その後、シキミが手を洗って戻ってくると、優一は「それで、先生」と深刻な顔で追上に尋ねた。
「夢花に関する大事なことって、何ですか? まさか、誰かにいじめられているとか?」
「……過去にもそんなことが?」
 優一は頷いた。
「小学生の頃、クラスメイト達から酷いいじめを受けていたんです。当時、私はそのことを聞かされていなかったので、後から知ったんですが……」
「やはり、そうだったんですか」
 追上は夢花についての「何か」を知っている風を装い、神妙な顔で話した。
「実は夢花さん、一部の女子から陰口を言われているんです。もっぱら、夢花さんへの僻みや、母親がいないことを馬鹿にしているようなんですが、私がいくら注意してもやめなくて……夢花さんも悩んでいるようで、毎日私の元へ泣きついて来るんです」
「そうだったんですね……どうして僕らには何も言ってくれなかったんでしょう?」
「"お父さんには話しにくい"と言っていました。"お父さんはシキミさんのことで頭がいっぱいだから、私のことを邪魔に思っているんです"と。どうやら、お父様がシキミさんとの再婚を決めたことで、疎外感を感じているようです。"シキミさんはお父さんとの間に子供が出来たら、私を追い出すつもりなんだ"、"シキミさんは痩せていて宇宙人みたい。気持ち悪い"、"再婚するなら、追上先生みたいな人と再婚して欲しかった"と泣きじゃくっていましたよ」
 全て、追上のでっち上げだった。相談どころか、今まで夢花と話したことは数えるほどしかない。
 「夢花が言うかもしれない言葉」というよりは、自分がシキミに対して感じた印象を本人にぶつけた。
 案の定、シキミはショックを受けた様子で泣き出した。
「あんなに再婚を喜んでくれていた夢花ちゃんが、本当はそんな風に思っていたなんて……酷いわ。私、優一さんと結婚しない方がいいのかも」
「夢花さんの幸せを考えるなら、身を引くべきだと思いますよ。もうここへも来ない方がいいと思います」
 追上は「あと一押し」とばかりに、畳み掛ける。
 すると、優一がおもむろにシキミの肩を抱き寄せた。
「大丈夫。夢花はそんなこと思っていないよ。先生が勘違いしただけさ」
「い、いえ、夢花さんは本当にそう仰っていたんです」
「私にはそうは思えません。シキミさんを僕に紹介してくれたのは、夢花ですから。それでもあの子がそう言っていたと仰るなら、本人から直接聞き出しましょうか?」
 優一は優しい口調の中に怒りを滲ませ、追上に疑いの目を向けた。
 どうやら追上が思っていた以上に、優一は夢花を信頼していたらしい。優一に睨まれ、追上は青ざめた。
「……そうですね。私の思い過ごしだったのかもしれません。今日は帰らせて頂きます」
 慌てて椅子から立ち上がり、逃げるように家を出て行く。
 シキミは戸惑った様子で追上を引き留めようとしたが、優一に止められた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

禁忌

habatake
ホラー
神社で掃除をしていた神主が、学校帰りの少年に不思議な出来事を語る

実話の体験談につきオチなど無いのでご了承下さい

七地潮
ホラー
心霊体験…と言うか、よくある話ですけど、実際に体験した怖かった話しと、不思議な体験を幾つかアップします。 霊感なんて無いんだから、気のせいや見間違いだと思うんですけどね。 突き当たりの教室なのに、授業中行き止まりに向かって人影が何度も通るとか、誰もいないのに耳元で名前を呼ばれたとか、視界の端に人影が映り、あれ?誰か居るのかな?としっかり見ると、誰も居なかったとか。 よく聞く話だし、よくある事ですよね? まあ、そんなよく聞く話でしょうけど、暇つぶしにでもなればと。 最後の一話は、ホラーでは無いけど、私にとっては恐怖体験なので、番外編みたいな感じで、ついでに載せてみました。 全8話、毎日2時半にアップしていきます。 よろしければご覧ください。 2話目でホラーHOTランキング9位になってました。 読んでいただきありがとうございます。

感染

saijya
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...