悪夢症候群

緋色刹那

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ミッドデイアパート 第五話『美少女女子高生作家(嘘)』

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 書店は大勢の客であふれ返っていた。今日は歩夢が落選した「トアル新人賞」を受賞した若草美姫子わかくさみきこのサイン会が行われているのだ。
 店内に設けられたサイン会会場には長蛇の列ができ、参加者達は世間で話題になっている「美少女女子高生作家」との対面を今か今かと待ち焦がれていた。
「次の方、どうぞ」
「は、はいぃ」
 列の先頭に並んでいた男性が係員に促され、緊張した面持ちで若草の前へ進み出る。手には若草のデビュー作がしっかりと握られていた。
 椅子に座って待っていた若草は男性を見るとニッコリ微笑み、「こんにちは」と軽く会釈した。「美少女女子高生作家」という肩書き通りの美少女で、何処の学校の物かは定かではないグレーのセーラー服を着ていた。
「本、買って下さったんですね。ありがとうございます」
「デ、デビューする前からファンでした! お会い出来て光栄でふっ! サイン、お願いひます!」
 男性は声を上擦らせながら、若草に本を突き出す。ずっと握りしめていたのか、彼が握っていた部分は汗で濡れて、ふやけていた。
(うわ、キモ。勝手に私の本、汚さないでよ。触りたくないんですけど)
 その本を見て、若草の心中は不快感でいっぱいになった。
 しかしながらサインしないわけには行かず、精一杯の笑顔を浮かべたまま本を受け取った。
(どうせ、アンタも私が書いた本の内容なんかに興味はないんでしょ。あるのは「美少女女子高生作家」の今の私だけ……)
 卑屈な思いを隠し、若草はサイン色紙にペンを走らせる。今まで夢見てきた「サイン会」とやらが、ここまでつまらない物だったとは思わなかった。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございまふ! 次回作も楽しみでひゅ!」
(はいはい。せいぜい、私に貢いでねー)
 男性は渡されたサイン色紙を見つめ、興奮しきった様子でフラフラと会場を後にしていった。
 他の客や係員の目がある手前、若草は笑顔で手を振り、去っていく男性を見送った。
(馬鹿ねぇ。私は本当は美少女でもないし、女子高生でもないのに)
 若草は心の中で、男性を嘲笑した。
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