悪夢症候群

緋色刹那

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ミッドデイアパート 第三話『金喰いレジスター』

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 女性店員が店内に戻ってくると、「すみません」と先程まではいなかった客の青年が話しかけてきた。
「お弁当を温めてもらってもいいですか? レジにいる店員さんに"やりたくない"と拒否されてしまったんです」
「なっ?! も、申し訳ございません! 今すぐ温めて参りますね!」
 女性店員はヨウヘイへの怒りで、頭に血が上りそうになりながら、青年を連れてレジに急いだ。
 するとヨウヘイがレジスターのキャッシュドロアに顔を突っ込み、立ち尽くしていた。
「ちょ、ちょっと! 何やってんの、ヨウヘイさん!」
 女性店員はヨウヘイをキャッシュドロアから力任せに引っこ抜き、床へ落とした。ゆっくり床へ寝かせられるほど、彼の体重は軽くはなかった。
 ヨウヘイは白目を剥いたまま眠っていた。夢でも見ているのか、うわ言のように何か呟いている。肥えた体は床を埋め尽くしており、ハッキリ言って邪魔だった。
「チッ……ほんっとにこのおっさん、迷惑でしかないな」
 女性店員は青年に背を向けたまま、舌打ちした。
 青年には聞こえないよう言ったつもりだったが、「その人、そんなに迷惑なんですか?」と彼は尋ねてきた。
 女性店員は苦笑いしつつ、「えぇ、まぁ」とレジ袋の中からお弁当を取り出し、電子レンジに入れた。
「この人、うちのオーナーの息子なんですよ。ずっとニートの引きこもりだったらしくて、"社会復帰させたいから"ってオーナーが連れて来て、アルバイトとして雇うことになったんです。でも、全然仕事出来ないし、客にも他の店員にも横柄な態度取るもんだから、売り上げが落ちちゃって……辞めさせたいんですけど、オーナーも店長も"そのうち分かってくるだろうから、今は温かい目で見守ってやってくれ"って。このままいったら、店潰れるかもしれないですね」
「それは困りますよ。僕のアパートから一番近いコンビニなのに」
 ふと、青年は「そういえば」と、たった今思い出したかのように、女性店員に言った。
「僕がお店に入ってくる前……その人、レジスターの中からお金を取って、ポケットに入れてましたよ。僕が入ってきたら、やめましたけど。ここは、ずいぶん独特な集金方法ですね」
「……っ?!」
 女性店員は慌ててヨウヘイのポケットに手を突っ込み、中を確認した。
 彼のポケットには大量の小銭や札束、別人の名義のクレジットカードが大量に詰まっていた。
「……病院より先に、警察に来てもらった方が良さそうね」
 女性店員はスマホを取り出し、通報した。
 背後で電子レンジの音が鳴り、中の弁当が温まった。

ミッドデイアパート第三話『金喰いレジスター』終わり
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