上 下
42 / 42
最終章「ザマァは未来を変える? ざまぁ!」

エンディング(完)

しおりを挟む
「この世界の日常会話で"ザマァ"って言わないことって、ほぼないよなー」

 ヨシタケが王の座についてから、十年後。
 ヨシタケはザマルタの教会の横で、畑仕事をしていた。前世から持って帰ってきた苗を育て、実った野菜や果物を市場で売り、生計を立てているのだ。
 ……王の給料があるだろうって? そんな金は、

「当たり前でしょ、パパ」

 ヨシタケの隣でトウモロコシを食べていた少女はモシャモシャと口を動かし、ヨシタケを見上げた。

「みんな、名前に"ザマ"や"ザマァ"がついてるし、魔法を使う時は〈ザマァ〉って唱えるんだもん。ザマァを言わないなんて、無理だよ」
「だよなー。ザマリアは賢いなー。さすが、ノストラ塾ナンバーワンの秀才」
「そんな普通のことで褒められても嬉しくなーい」





 ヨシタケは前世から戻った後、ザーマァ王から王位を受け継いだ。仲間もそれぞれ国の要職につき、共に国のために働いた。
 ノースフィールドをはじめとする、ザマンに滅ぼされた街の復興。
 不当な扱いを受けている転生者への補助と、彼らに対する偏見を無くす運動。
 そして……最後に王政を廃止し、国を民主化させた。

「ザーマァ王も王になる前は、ただの一般人だったんだろ? だったら、もう民主制でいいじゃん。選挙管理委員会立ち上げるからさ、トップになりたいやつは誰でも立候補してくれよな」
「延期なさっていた、エリザマス姫様との婚姻はどうなさるのですか?!」
「向こうも乗り気じゃなかったし、白紙でいいだろ。大丈夫! あいつには命をかけてでも守ってくれる、心強ーい元騎士団長様がいるから!」

 王政の廃止により、エリザマスは王族ではなくなった。
 ノースフィールドへ移り住んだザマスロットと結婚し、共に暮らしている。城でのきゅうくつな暮らしより、今の方が肌に合っているらしい。

 ザマスロットはノースフィールドの復興を手伝った縁から、ノースフィールドの市長になった。「エリザマス姫を守った騎士」として、銅像まで建てられている。
 現在は王国の首相となり、ヨシタケに代わって国を治めている。

 部下の二人もそれぞれの道へ進んだ。
 パロザマスは元いた騎士団のコーチ、メルザマァルは各地を回る魔法医師となり、人のために懸命に働いている。

 ヨシタケの仲間も同じように散っていくかと思いきや、「行くところがないから」と王都に居着いた。
 ザマビリーは王都の衛兵。気さくで庶民的な性格から、市民に人気らしい。よくパロザマスと練習試合をするが、だいたい途中からガチの殴り合いになる。それでも、一日の終わりには仲良く酒場で呑んでいるのだから、不思議な関係である。
 故郷のウェスタンタウンは、ザマビリーの評判と特異な街の雰囲気から、遠方からも人が訪れる観光地となった。スタレチマッテル遺跡から歴史的に重要な遺産が出土し、さらに注目が集まっている。

 ノストラは王都に「ノストラ塾」なる魔法学校を作り、子供からお年寄りまで格安で魔法を教えている。ヨシタケの娘、ザマリアも彼の教え子だ。メルザマァルも王都に戻ってくると、教えに行っているらしい。
 結局、ヨシタケが持ち帰ったラノベに一番ハマったのはノストラだった。習得した異世界転移術を使い、世界中のあらゆるラノベを集めている。
 十年経った今でも、ノストラの現在の好きな人は不明なままだ。が、最近メルザマァルが彼から送られた指輪を薬指にはめるようになったらしい。
 ヨシタケが「ノストラと婚約したのか?」と尋ねると、

「……呪いで取れなくなっただけよ」

 と睨まれた。
 実際は指輪は呪われてなどおらず、メルザマァルも嬉しそうに指輪を眺めていた。

 ダザドラは「ヨシタケのそばにいたい」と、一緒に住んでいる。市場へ野菜や果物を売りに行く際の運搬担当だ。
 遠方への配達や移動も請け負っており、毎日忙しく働いている。ちなみに給料は金ではなく、肉で支払ってもらっている。

 仲間とは少し違うが、ザマァーリンはヨシタケをこの世界へ戻した後、姿をくらました。
 ノストラが言うには、「世界の観測者としての責務に戻った」らしい。世界に新たな脅威が迫った時、再び勇者の前に姿を現すだろう。
 ザモーガンは未だ行方不明だ。ザマァーリンの目を盗み、次の魔王になりそうな人間を探しているのかもしれない。





「二人とも、収穫終わった?」

 ヨシタケとザマリアがオヤツにトウモロコシを食べていると、教会からザマルタが出てきた。
 彼女とザマリアの顔は、そっくりだった。

「終わったー」
「ママもトウモロコシ食べる?」
「せっかくだし、もらおうかな」

 ザマルタはヨシタケがエリザマスとの婚約を解消した後、ヨシタケと結婚し、ザマリアを授かった。
 現在も教会のシスターとして、冒険者の治療やモンスターの駆除などを請け負い、森の治安を守っている。盾に変えたエクスザマリバーの鞘が相当気に入ったらしく、剣と共に鞘をザマヴィアンに返した後は、近い重さと性能の盾を購入し、愛用していた。

「そうだ、パパ。この前ノストラ先生に教えてもらったんだけど、"プギャー"の意味って知ってる?」
「え、知らない」
「たしか、ザマンを倒す呪文の一つでしたよね? 知らないままザマンを倒しちゃったんですか?」
「うん。ザマルタさん、知ってた?」
「……そういえば、私も聞いたことないですね。ザマリアちゃん、パパとママに教えてくれる?」

 ザマリアは「あのね、」と得意げに答えた。

「意味は"ない"んだって。よく分かんないけど、"無価値"とか"存在している理由がない"って意味らしいよ。古代ザマァール語において、最大限の"侮辱"を表すんだって。あんまり酷い言葉だから、使うのがダメになって、だんだん忘れられちゃったんだって」
「つまり、ザマァと合わせると"力を抹消する"って意味か? おっかねぇなぁ」
「ザマリアちゃんも、危ないから使わないでね?」
「はーい」

 ザマリアは素直に手を上げる。
 後に、新たな魔王が王国に現れた時、勇者となったザマリアがその呪文を唱えるのだが……まだザマァーリン以外の誰も、その未来を知らなかった。

「今は平和に生きるといい。いずれ、次の災厄が近づいた時に会おう。それまで暫しの別れだ、ヨシタケ君……私がかつて愛した人の、生まれ変わりよ」

 ザマァーリンは幸せそうな三人の顔を見て、寂しげに笑った。





 青年がコンクリートの街をつまらなさそうに歩いていると、奇妙な格好をした女……ザモーガンに話しかけられた。

「ねぇ、君。魔王になってみない?」
「魔王?」

 青年は闇をたたえた瞳を細め、ニタリと笑った。

「面白そうだね。いいよ」
「では……来世で」

 ザモーガンは杖を振り上げると、青年の頭上へトラックを落とした。

(「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界・完)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...