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最終編『蛍火明滅、〈探し人〉のゆく先』
第六話「未練病院群」⑷
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オサムが同じ小学校に転入してくるまで、青年の主人の手塚には友達がいなかった。
昼間は学校、放課後は塾、休日は家庭教師。来る日も来る日も勉強漬けで、クラスメイトと親しくなる時間はなかった。
そんな手塚の唯一の癒しが漫画だった。漫画の中では手塚が主人公で、たくさんの仲間がいて、いろんなところへ冒険に出かけた。
ある日、お気に入りだった漫画をうっかり学校へ持ってきてしまった。慌てて隠そうとしたが、隣の席のクラスメイトに見つかった。
「それ、エメラルド戦記だろ? 今月の少年アルファについてる、特別号! いいなぁ。俺、雑誌は買ってもらえないから読めねぇんだよ」
クラスメイトは目をキラキラさせていた。
それがオサムと親しくなったキッカケだった。
オサムは一週間前に手塚のクラスに来た、転入生だった。一年かかってもクラスに馴染めない手塚に対し、オサムはたった一日でクラスの人気者になってしまった。
そんな彼が、手塚と同じ漫画が好きなのは意外だった。だから、これは仲良くなるチャンスだと思った。
「か、貸そうか? 僕は何回も読んだし」
「いいの? やった!」
「その代わり、僕が漫画を持って来たこと、誰にも言わないでよ。特に先生」
「分かってるよ。俺だって、取り上げられたくねーし」
オサムは屈託のない笑顔で、手塚の漫画を受け取った。
それ以来、手塚はオサムと好きな漫画の話で盛り上がるようになった。オサムの友達も加わり、みんなで昼休みに遊んだりもした。
だが、いつまで経ってもオサムは手塚に漫画を返そうとしなかった。急かすと嫌われると思い、向こうから返してくるまで待った。
ところが、夏休みが明けて新学期が始まった初日、担任から「オサムが引っ越した」と聞かされた。親の転勤が急に決まったそうで、クラスの誰もオサムの転校を知らなかった。
オサムと仲が良かった友人達は憤った。
「なんだよアイツ。あんなに仲良かったのに、黙って行きやがって」
「俺達のこと、本当はどうでもいいと思ってたんじゃないか?」
「なぁ、手塚もそう思うだろ?」
オサムは頭の中が真っ白になっていた。怒りや悲しみより、どうしたらいいのか分からないという不安の方が大きかった。
「僕……オサムに漫画貸したままなんだけど」
「え」
オサムの友人達は怒りを忘れ、愕然とした。
その後、担任にオサムの連絡先を訊いたが、担任も把握していなかった。当時、携帯電話を持っているのは一部の大人ばかりで、SNSもまだなかった。
手塚はオサムに裏切られたショックと大切な宝物を失った悲しみから、〈探し人〉を生み出した。
〈探し人〉といえど、万能ではない。手塚と同じ子供で、携帯電話も持っていない。地道に他の〈探し人〉に聞き込みし、昼夜問わず日本中を駆け回った。オサムの居場所を突き止めるまで、十年の歳月がかかった。
〈探し人〉は手塚にオサムの居場所を伝え、二人は十年ぶりに再会した。オサムは手塚のいる街から遠く離れた土地に住んでいた。十年という歳月のおかげで、二人は簡単に連絡を取り合うことができた。
「これで僕の役目は終わった」
安堵したのもつかの間、〈探し人〉は再び生み出された。
手塚とオサムは十年ぶりに再会を果たしたものの、あの漫画は返ってこなかった。オサム曰く「失くした」らしい。
「部屋のどこかにあるはずなんだ。次に会う時までに探しておくからさ、もう少し待っててくれない?」
手塚は渋々約束した。が、オサムは突然連絡がつかなくなり、行方も再び分からなくなってしまった。
手塚はもうショックを受けなかった。心のどこかで、そうなるんじゃないかという予感がしていた。
「きっとオサムは漫画を捨てたか、売ってしまったんだ。それで俺に申し訳なくなって、連絡を取りづらくなったんだ」
手塚は漫画を諦め、〈探し人〉を〈未練溜まり〉へ送った。もうオサムを信じる気にはなれなかった。
〈探し人〉も無理に探そうとはせず、未練街での生活を楽しんでいた。
昼間は学校、放課後は塾、休日は家庭教師。来る日も来る日も勉強漬けで、クラスメイトと親しくなる時間はなかった。
そんな手塚の唯一の癒しが漫画だった。漫画の中では手塚が主人公で、たくさんの仲間がいて、いろんなところへ冒険に出かけた。
ある日、お気に入りだった漫画をうっかり学校へ持ってきてしまった。慌てて隠そうとしたが、隣の席のクラスメイトに見つかった。
「それ、エメラルド戦記だろ? 今月の少年アルファについてる、特別号! いいなぁ。俺、雑誌は買ってもらえないから読めねぇんだよ」
クラスメイトは目をキラキラさせていた。
それがオサムと親しくなったキッカケだった。
オサムは一週間前に手塚のクラスに来た、転入生だった。一年かかってもクラスに馴染めない手塚に対し、オサムはたった一日でクラスの人気者になってしまった。
そんな彼が、手塚と同じ漫画が好きなのは意外だった。だから、これは仲良くなるチャンスだと思った。
「か、貸そうか? 僕は何回も読んだし」
「いいの? やった!」
「その代わり、僕が漫画を持って来たこと、誰にも言わないでよ。特に先生」
「分かってるよ。俺だって、取り上げられたくねーし」
オサムは屈託のない笑顔で、手塚の漫画を受け取った。
それ以来、手塚はオサムと好きな漫画の話で盛り上がるようになった。オサムの友達も加わり、みんなで昼休みに遊んだりもした。
だが、いつまで経ってもオサムは手塚に漫画を返そうとしなかった。急かすと嫌われると思い、向こうから返してくるまで待った。
ところが、夏休みが明けて新学期が始まった初日、担任から「オサムが引っ越した」と聞かされた。親の転勤が急に決まったそうで、クラスの誰もオサムの転校を知らなかった。
オサムと仲が良かった友人達は憤った。
「なんだよアイツ。あんなに仲良かったのに、黙って行きやがって」
「俺達のこと、本当はどうでもいいと思ってたんじゃないか?」
「なぁ、手塚もそう思うだろ?」
オサムは頭の中が真っ白になっていた。怒りや悲しみより、どうしたらいいのか分からないという不安の方が大きかった。
「僕……オサムに漫画貸したままなんだけど」
「え」
オサムの友人達は怒りを忘れ、愕然とした。
その後、担任にオサムの連絡先を訊いたが、担任も把握していなかった。当時、携帯電話を持っているのは一部の大人ばかりで、SNSもまだなかった。
手塚はオサムに裏切られたショックと大切な宝物を失った悲しみから、〈探し人〉を生み出した。
〈探し人〉といえど、万能ではない。手塚と同じ子供で、携帯電話も持っていない。地道に他の〈探し人〉に聞き込みし、昼夜問わず日本中を駆け回った。オサムの居場所を突き止めるまで、十年の歳月がかかった。
〈探し人〉は手塚にオサムの居場所を伝え、二人は十年ぶりに再会した。オサムは手塚のいる街から遠く離れた土地に住んでいた。十年という歳月のおかげで、二人は簡単に連絡を取り合うことができた。
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安堵したのもつかの間、〈探し人〉は再び生み出された。
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「部屋のどこかにあるはずなんだ。次に会う時までに探しておくからさ、もう少し待っててくれない?」
手塚は渋々約束した。が、オサムは突然連絡がつかなくなり、行方も再び分からなくなってしまった。
手塚はもうショックを受けなかった。心のどこかで、そうなるんじゃないかという予感がしていた。
「きっとオサムは漫画を捨てたか、売ってしまったんだ。それで俺に申し訳なくなって、連絡を取りづらくなったんだ」
手塚は漫画を諦め、〈探し人〉を〈未練溜まり〉へ送った。もうオサムを信じる気にはなれなかった。
〈探し人〉も無理に探そうとはせず、未練街での生活を楽しんでいた。
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