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春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第四話「イースター・あの日割れた卵」⑴
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卵が割れた。
粉々に割れた。
僕は震える手で、卵の破片を拾った。
割れた卵は元には戻らない。奇跡でも起きない限りは。
LAMPの冷蔵庫に、見慣れぬ卵が仕舞われていた。濃いピンク色に塗られ、黄色や水色の線や模様などが描かれている。
持ってみると、ずっしり重い。爪で叩くと、コツコツと鈍い音がする。卵というより、卵型の石みたいだった。
「飾りの卵? 誰かが冗談で置いたのかしら?」
由良はさほど驚きはしなかった。
LAMPでは今、春限定でイースターのイベントを行なっている。ウサギの形のオムライスが期間限定で注文できたり、卵を使ったメニューを頼むと、自分で色を塗れる張り子の卵をもらえたりと、子供を中心に賑わっている。
店内もイースター仕様で、「Easter」と書かれたパステルカラーのガーランドや、イースターエッグとかウサギのミニチュアなどが、そこかしこに飾られていた。冷蔵庫から見つかった卵もそのうちのひとつだと思っていた。
その時、下から声が聞こえた。
「ねぇ、それちょうだい」
「?」
視線を向けると、いつのまに忍び込んだのか、頭に白いウサ耳をつけた少年が立っていた。パレードから抜け出してきたような、ビビットピンクの派手な衣装に身を包み、ウサギ型のリュックを背負っている。首には紐をつけた万華鏡を下げていた。
少年は手を差し出し、由良が卵を渡すのを待っていた。
「ちょうだいって……これ、君の?」
「これから僕のものになるんだ。いいから早く渡してよ。狙われているんだ」
「誰に?」
「知らないお兄さん。いや、おじさんか。大人のくせに卵を集めているんだよ。お金持ちなんだから、自分で買えばいいのに」
妙な言い回しだった。いまいち状況が読めない。
それに「狙われている」と言うわりに、少年はとても落ち着いていた。彼を狙っているという、怪しいお兄さんだかおじさんだかも気になる。
ひとつだけ確かなのは、少年が〈探し人〉であることだった。
人目を引く格好にもかかわらず、カウンターに立っている中林も、他の店員も客も、誰ひとりとして少年に気づいていなかった。とすると、この卵は少年の〈心の落とし物〉なのかもしれない。
(よく分からないけど、面倒ごとに巻き込まれるのだけはゴメンだわ)
由良は素直に、少年に卵を渡した。
「じゃあ、はい」
「ありがとう」
直後、店の入口からコレさんが息を切らし駆け込んできた。由良が少年に渡した卵を指差し、「あぁーッ!」と絶叫した。
「それ、ワタクシが狙ってた卵ぉー!」
少年はもらった卵をリュックへ仕舞う。リュックの中には、他にもいろんな色の卵が入っていた。
「イースターイベント? 渡来屋で?」
「えぇ」
コレさんは力なく頷いた。
「毎年この時期になると、イースターエッグの形をした〈心の落とし物〉が街中に散乱するのです。渡来屋さんは『人々のイースターへの憧れから生み出されたんだろう』と、おっしゃっておりました。本来の復活祭としてのイースターというより、日本独自のお祭り的なイースターの方ですね」
「望んだ人の〈探し人〉が拾うんじゃないんですか?」
「それが、〈探し人〉は全ての卵を拾う前に満足して消えてしまうので、放置されたままになっているんです。何か影響が出ると良くないと、去年までは渡来屋さんがおひとりで集めていらっしゃったのですが、イースターの認知度が上がるにつれて、卵も増える一方で……やむなく今年からイベントにして、他の〈探し人〉にも集めてもらうことになったんです」
「それで、二人とも卵を集めていたんですね?」
コレさんは「そうです!」と力説した。
「卵を十二個集めると、好きな〈心の落とし物〉か、次回から使える引き換え券と交換してもらえるんですよ? 欲しいに決まっているじゃないですか! あぁ、こうしちゃいられない……ちょっと、お店の中探させてもらいますよ!」
そう言うと、コレさんはカウンターを飛び越え、店内を物色し始めた。
「……卵を集めているお兄さんだかおじさんだかって、コレさんのことだったんですね」
少年は冷めた目でコレさんを睨み、頷いた。
粉々に割れた。
僕は震える手で、卵の破片を拾った。
割れた卵は元には戻らない。奇跡でも起きない限りは。
LAMPの冷蔵庫に、見慣れぬ卵が仕舞われていた。濃いピンク色に塗られ、黄色や水色の線や模様などが描かれている。
持ってみると、ずっしり重い。爪で叩くと、コツコツと鈍い音がする。卵というより、卵型の石みたいだった。
「飾りの卵? 誰かが冗談で置いたのかしら?」
由良はさほど驚きはしなかった。
LAMPでは今、春限定でイースターのイベントを行なっている。ウサギの形のオムライスが期間限定で注文できたり、卵を使ったメニューを頼むと、自分で色を塗れる張り子の卵をもらえたりと、子供を中心に賑わっている。
店内もイースター仕様で、「Easter」と書かれたパステルカラーのガーランドや、イースターエッグとかウサギのミニチュアなどが、そこかしこに飾られていた。冷蔵庫から見つかった卵もそのうちのひとつだと思っていた。
その時、下から声が聞こえた。
「ねぇ、それちょうだい」
「?」
視線を向けると、いつのまに忍び込んだのか、頭に白いウサ耳をつけた少年が立っていた。パレードから抜け出してきたような、ビビットピンクの派手な衣装に身を包み、ウサギ型のリュックを背負っている。首には紐をつけた万華鏡を下げていた。
少年は手を差し出し、由良が卵を渡すのを待っていた。
「ちょうだいって……これ、君の?」
「これから僕のものになるんだ。いいから早く渡してよ。狙われているんだ」
「誰に?」
「知らないお兄さん。いや、おじさんか。大人のくせに卵を集めているんだよ。お金持ちなんだから、自分で買えばいいのに」
妙な言い回しだった。いまいち状況が読めない。
それに「狙われている」と言うわりに、少年はとても落ち着いていた。彼を狙っているという、怪しいお兄さんだかおじさんだかも気になる。
ひとつだけ確かなのは、少年が〈探し人〉であることだった。
人目を引く格好にもかかわらず、カウンターに立っている中林も、他の店員も客も、誰ひとりとして少年に気づいていなかった。とすると、この卵は少年の〈心の落とし物〉なのかもしれない。
(よく分からないけど、面倒ごとに巻き込まれるのだけはゴメンだわ)
由良は素直に、少年に卵を渡した。
「じゃあ、はい」
「ありがとう」
直後、店の入口からコレさんが息を切らし駆け込んできた。由良が少年に渡した卵を指差し、「あぁーッ!」と絶叫した。
「それ、ワタクシが狙ってた卵ぉー!」
少年はもらった卵をリュックへ仕舞う。リュックの中には、他にもいろんな色の卵が入っていた。
「イースターイベント? 渡来屋で?」
「えぇ」
コレさんは力なく頷いた。
「毎年この時期になると、イースターエッグの形をした〈心の落とし物〉が街中に散乱するのです。渡来屋さんは『人々のイースターへの憧れから生み出されたんだろう』と、おっしゃっておりました。本来の復活祭としてのイースターというより、日本独自のお祭り的なイースターの方ですね」
「望んだ人の〈探し人〉が拾うんじゃないんですか?」
「それが、〈探し人〉は全ての卵を拾う前に満足して消えてしまうので、放置されたままになっているんです。何か影響が出ると良くないと、去年までは渡来屋さんがおひとりで集めていらっしゃったのですが、イースターの認知度が上がるにつれて、卵も増える一方で……やむなく今年からイベントにして、他の〈探し人〉にも集めてもらうことになったんです」
「それで、二人とも卵を集めていたんですね?」
コレさんは「そうです!」と力説した。
「卵を十二個集めると、好きな〈心の落とし物〉か、次回から使える引き換え券と交換してもらえるんですよ? 欲しいに決まっているじゃないですか! あぁ、こうしちゃいられない……ちょっと、お店の中探させてもらいますよ!」
そう言うと、コレさんはカウンターを飛び越え、店内を物色し始めた。
「……卵を集めているお兄さんだかおじさんだかって、コレさんのことだったんですね」
少年は冷めた目でコレさんを睨み、頷いた。
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