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春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第二話「世界にひとつもない人形」⑴
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由良はLAMPの飾りを借りに、玉蟲匣を訪れた。ドアを開いた瞬間、横を子供達がすり抜けていった。
「こら! 勝手に入っちゃダメよ!」
子供達はキャッキャッと楽しそうに階段を上っていく。見かけない子供ばかりだった。
由良も子供達の後を追い、階段を上る。二階の遊技室を通り過ぎ、屋根裏部屋にたどり着いた。
「ということは……」
ノックもなしに、ドアを開け放つ。
屋根裏部屋には大量のミニチュアやジオラマがひとつの街のように飾られていた。棚には着せ替え人形やプラモデルが並び、壁際にはガチャガチャの機械まである。子供にとっては夢のような空間だった。
実際、屋根裏部屋には大勢の子供達が遊んでいた。由良が追っていた子供達も他の子に混じり、遊んでいる。
「おもちゃ屋……いえ、子供部屋かしら?」
「あながち間違いじゃねぇな」
屋根裏部屋を間借りしている商人、渡来屋がフラフラと現れた。くたびれた様子で、目の下には濃いくまができている。
「渡来屋さん。どうしたの、その顔?」
「今季はミニチュア屋だ。あのガキどもに、徹夜で人形遊びに付き合わされたんだよ」
屋根裏部屋の中央にはカラフルなマットが敷かれ、座って遊べるスペースが設けられていた。子供達はそこに集まり、棚から持ってきた人形やオモチャで遊んでいた。
「ここにいるってことは、あの子達みんな〈探し人〉?」
「まぁな。ああやって〈心の落とし物〉で遊んで、未練を解消しているのさ」
棚には、由良も持っていた人形やオモチャも並んでいた。思わず手に取り、眺める。
「懐かしい。私も昔、日向子と珠緒と遊んだなぁ。珠緒はこういうの全然持ってなかったから、仕方なくお家に飾ってあったひな人形をオモチャにして、珠緒のおじいさんにこっぴどく叱られたっけ」
「その後、『飾ってなきゃいいんでしょ?』って、奥から五月人形を引っ張り出して遊んでいたそうだな」
「そうそう……って、誰から聞いたのよ?」
「ん? 忘れた」
その時、外からドアをノックされた。
由良と渡来屋が振り返ると、髪をビビットピンクに染めた、派手な印象の女性がドアの隙間から顔を覗かせていた。
「すみません。ここ、ミニチュア専門店って聞いてきたんですけど……着せ替え人形とかドールハウスとかも置いてます?」
「あぁ、だいたいのメーカーはそろってるぜ。入場料はそこの貯金箱に百円」
渡来屋はドアの横にある巨大なブタの貯金箱を指差す。女性はキラキラにデコった長財布から小銭をつまみ、貯金箱の穴に入れた。
「私も入れたほうがいい?」
「なんだ、気にしてんのか? 優しいねぇ、由良ちゃんは」
渡来屋はニヤニヤと笑う。由良は思わずムッとして、渡来屋の両頬をつねった。
「あの人、うちの店にも来ていたわ。中林さんも見えていたし、たぶん本物のほうだと思う。オモチャのデザイナーさんなんですって。綺麗な色の髪だったから、覚えていたの」
「顔見知りか。なら、あの客はお前に任せた」
「なんでよ?」
「俺は着せ替え人形になんの思い入れもねぇ。お前が一緒に探してやったほうが、向こうも気が楽だろ。本物もあの姿なら、お前と年が近いはずだ。案外、お前も知っている人形を探しているのかもしれない」
「……分かったわよ」
由良は貯金箱に百円を入れるついでに、女性に話しかけに行った。
「こら! 勝手に入っちゃダメよ!」
子供達はキャッキャッと楽しそうに階段を上っていく。見かけない子供ばかりだった。
由良も子供達の後を追い、階段を上る。二階の遊技室を通り過ぎ、屋根裏部屋にたどり着いた。
「ということは……」
ノックもなしに、ドアを開け放つ。
屋根裏部屋には大量のミニチュアやジオラマがひとつの街のように飾られていた。棚には着せ替え人形やプラモデルが並び、壁際にはガチャガチャの機械まである。子供にとっては夢のような空間だった。
実際、屋根裏部屋には大勢の子供達が遊んでいた。由良が追っていた子供達も他の子に混じり、遊んでいる。
「おもちゃ屋……いえ、子供部屋かしら?」
「あながち間違いじゃねぇな」
屋根裏部屋を間借りしている商人、渡来屋がフラフラと現れた。くたびれた様子で、目の下には濃いくまができている。
「渡来屋さん。どうしたの、その顔?」
「今季はミニチュア屋だ。あのガキどもに、徹夜で人形遊びに付き合わされたんだよ」
屋根裏部屋の中央にはカラフルなマットが敷かれ、座って遊べるスペースが設けられていた。子供達はそこに集まり、棚から持ってきた人形やオモチャで遊んでいた。
「ここにいるってことは、あの子達みんな〈探し人〉?」
「まぁな。ああやって〈心の落とし物〉で遊んで、未練を解消しているのさ」
棚には、由良も持っていた人形やオモチャも並んでいた。思わず手に取り、眺める。
「懐かしい。私も昔、日向子と珠緒と遊んだなぁ。珠緒はこういうの全然持ってなかったから、仕方なくお家に飾ってあったひな人形をオモチャにして、珠緒のおじいさんにこっぴどく叱られたっけ」
「その後、『飾ってなきゃいいんでしょ?』って、奥から五月人形を引っ張り出して遊んでいたそうだな」
「そうそう……って、誰から聞いたのよ?」
「ん? 忘れた」
その時、外からドアをノックされた。
由良と渡来屋が振り返ると、髪をビビットピンクに染めた、派手な印象の女性がドアの隙間から顔を覗かせていた。
「すみません。ここ、ミニチュア専門店って聞いてきたんですけど……着せ替え人形とかドールハウスとかも置いてます?」
「あぁ、だいたいのメーカーはそろってるぜ。入場料はそこの貯金箱に百円」
渡来屋はドアの横にある巨大なブタの貯金箱を指差す。女性はキラキラにデコった長財布から小銭をつまみ、貯金箱の穴に入れた。
「私も入れたほうがいい?」
「なんだ、気にしてんのか? 優しいねぇ、由良ちゃんは」
渡来屋はニヤニヤと笑う。由良は思わずムッとして、渡来屋の両頬をつねった。
「あの人、うちの店にも来ていたわ。中林さんも見えていたし、たぶん本物のほうだと思う。オモチャのデザイナーさんなんですって。綺麗な色の髪だったから、覚えていたの」
「顔見知りか。なら、あの客はお前に任せた」
「なんでよ?」
「俺は着せ替え人形になんの思い入れもねぇ。お前が一緒に探してやったほうが、向こうも気が楽だろ。本物もあの姿なら、お前と年が近いはずだ。案外、お前も知っている人形を探しているのかもしれない」
「……分かったわよ」
由良は貯金箱に百円を入れるついでに、女性に話しかけに行った。
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