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春編③『緑涼やか、若竹の囁き』
第二話「憧れのツリーハウス」⑵
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由良は諦めず、少年に話しかけ続けた。
「今日は一人ですか?」
「見れば分かるだろ」
「ゴールデンウィークは何処か遊びに行く予定はないんですか?」
「ねぇよ。親は仕事でいないし、友達はみんな家族と予定があるんだってさ」
少年は吐き捨てるように言う。ゲーム機のボタンを指でカタカタと忙しなく叩き、怒りをぶつける。
やがてゲームオーバーになると、少年は「またダメだった」とセーブもせずに、ゲーム機の電源を切った。
「……いつもそうだ。ゴールデンウィークの思い出なんて、一つもない。どいつもこいつも幸せそうな顔しやがって、ホントムカつく。ゴールデンウィークなんか嫌いだ。夏休みみたいに長かったら、一人くらい暇なやつがいたかもしれないのに」
「……」
他の大人には、彼の主張は幼稚な八つ当たりに聞こえるかもしれない。
だが、由良は違った。由良も少年と同じように親が多忙で、一緒に遊んだ記憶がほとんど無かった。だからこそ少年に共感し、彼が怒りで寂しさを誤魔化そうとしていると気づけた。
「帰る」
少年はゲーム機をウェストポーチに仕舞うと、グラスを傾けてメロンクリームソーダの残りを飲み干した。
椅子から飛び降り、駆け足で店を出て行こうとする。
「待って」
由良はとっさに彼の腕をつかみ、言った。
「そんなに退屈なら、今から思い出作りしに行きませんか?」
「……は?」
由良は「ティータイムまでには戻ってくるから!」と他の従業員に言い残し、少年を渡来屋のもとへ連れて行った。誰も少年の姿が見えていないらしく、子供を連れて出て行く由良を不審に思わなかった。
由良は屋根裏部屋に入るなり、渡来屋にある依頼をした。
「彼、ゴールデンウィークが嫌いになるくらい暇なんだって。だから、ここでしばらく働かせてあげてくれない?」
「……唐突だな。そいつ、〈探し人〉だろう? うちの客じゃないのか?」
渡来屋は霧吹きを使い、棚に並べられた観葉植物に水をやっていた。由良の依頼に面食らった様子で、少年を見下ろす。
今の渡来屋は植物屋だった。
あらゆる〈心の落とし物〉の草花、樹木、種子が、屋根裏部屋を緑で覆い尽くしている。中には本物かどうか怪しい、奇妙な色形をした植物らしきものまで売られていた。
植物のために改装したのか、天井の屋根が全面ガラス張りに変わっている。春の柔らかな日差しが、薄暗かった屋根裏部屋を明るく照らしていた。
「働く? 俺、そんなこと頼んでねーけど」
少年も不満そうに声を荒げる。
由良は「思い出作りですよ、思い出作り」と微笑んだ。
「こんなヘンテコな店で働くんですよ? 良いか悪いかはともかく、一生の思い出になるに決まっているじゃないですか」
「嫌だよ。めんどくせぇ」
そう言いながらも、少年は商品の植物をチラチラと見ている。どうやら興味はあるらしい。
そこで由良はダメ押しとばかりに、こうつけ加えた。
「実は、ここへ来るお客様は人ではありません。〈探し人〉という生き霊……簡単に言えば、お化けなのです」
「お化け?!」
少年はかつてないほど、興味を示した。不満で陰っていた瞳が、年相応に輝く。
そんな自分に恥ずかしくなったのか、少年は顔を真っ赤にし、慌てて取り繕った。
「お……お化けなんているわけないだろ! 子供だからって、からかうな!」
「からかってませんよ。なんだったら、本当にお化けかどうか確かめてみますか?」
「お、おう! やってやるよ!」
少年がやる気になったところで、由良はチラリと渡来屋に視線をやった。
有無を言わせぬ目つきに、「分かったよ」と渡来屋は折れた。
「今日一日だけだぞ」
「ありがとうございます」
「今日は一人ですか?」
「見れば分かるだろ」
「ゴールデンウィークは何処か遊びに行く予定はないんですか?」
「ねぇよ。親は仕事でいないし、友達はみんな家族と予定があるんだってさ」
少年は吐き捨てるように言う。ゲーム機のボタンを指でカタカタと忙しなく叩き、怒りをぶつける。
やがてゲームオーバーになると、少年は「またダメだった」とセーブもせずに、ゲーム機の電源を切った。
「……いつもそうだ。ゴールデンウィークの思い出なんて、一つもない。どいつもこいつも幸せそうな顔しやがって、ホントムカつく。ゴールデンウィークなんか嫌いだ。夏休みみたいに長かったら、一人くらい暇なやつがいたかもしれないのに」
「……」
他の大人には、彼の主張は幼稚な八つ当たりに聞こえるかもしれない。
だが、由良は違った。由良も少年と同じように親が多忙で、一緒に遊んだ記憶がほとんど無かった。だからこそ少年に共感し、彼が怒りで寂しさを誤魔化そうとしていると気づけた。
「帰る」
少年はゲーム機をウェストポーチに仕舞うと、グラスを傾けてメロンクリームソーダの残りを飲み干した。
椅子から飛び降り、駆け足で店を出て行こうとする。
「待って」
由良はとっさに彼の腕をつかみ、言った。
「そんなに退屈なら、今から思い出作りしに行きませんか?」
「……は?」
由良は「ティータイムまでには戻ってくるから!」と他の従業員に言い残し、少年を渡来屋のもとへ連れて行った。誰も少年の姿が見えていないらしく、子供を連れて出て行く由良を不審に思わなかった。
由良は屋根裏部屋に入るなり、渡来屋にある依頼をした。
「彼、ゴールデンウィークが嫌いになるくらい暇なんだって。だから、ここでしばらく働かせてあげてくれない?」
「……唐突だな。そいつ、〈探し人〉だろう? うちの客じゃないのか?」
渡来屋は霧吹きを使い、棚に並べられた観葉植物に水をやっていた。由良の依頼に面食らった様子で、少年を見下ろす。
今の渡来屋は植物屋だった。
あらゆる〈心の落とし物〉の草花、樹木、種子が、屋根裏部屋を緑で覆い尽くしている。中には本物かどうか怪しい、奇妙な色形をした植物らしきものまで売られていた。
植物のために改装したのか、天井の屋根が全面ガラス張りに変わっている。春の柔らかな日差しが、薄暗かった屋根裏部屋を明るく照らしていた。
「働く? 俺、そんなこと頼んでねーけど」
少年も不満そうに声を荒げる。
由良は「思い出作りですよ、思い出作り」と微笑んだ。
「こんなヘンテコな店で働くんですよ? 良いか悪いかはともかく、一生の思い出になるに決まっているじゃないですか」
「嫌だよ。めんどくせぇ」
そう言いながらも、少年は商品の植物をチラチラと見ている。どうやら興味はあるらしい。
そこで由良はダメ押しとばかりに、こうつけ加えた。
「実は、ここへ来るお客様は人ではありません。〈探し人〉という生き霊……簡単に言えば、お化けなのです」
「お化け?!」
少年はかつてないほど、興味を示した。不満で陰っていた瞳が、年相応に輝く。
そんな自分に恥ずかしくなったのか、少年は顔を真っ赤にし、慌てて取り繕った。
「お……お化けなんているわけないだろ! 子供だからって、からかうな!」
「からかってませんよ。なんだったら、本当にお化けかどうか確かめてみますか?」
「お、おう! やってやるよ!」
少年がやる気になったところで、由良はチラリと渡来屋に視線をやった。
有無を言わせぬ目つきに、「分かったよ」と渡来屋は折れた。
「今日一日だけだぞ」
「ありがとうございます」
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