心の落とし物

緋色刹那

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春編③『緑涼やか、若竹の囁き』

第一話「ヨツバ探し」⑴

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 四月も終わりに近づき、洋燈公園は緑が目立つようになってきた。葉桜の緑、原っぱの緑、植え込みの緑……桜が完全に散れば、緑一色になるだろう。
 葉桜も風流ではあるものの、満開の桜ほどの人気は及ばず、公園は閑散としている。競うようにひしめいていた屋台も引き上げ、残っているのはLAMP出張店だけだった。
「そろそろ引き上げ時かなぁ」
 一人店番をしている由良はボソッと呟く。
 時折、園内をジョギングしている人や遊びに来た親子連れが飲み物を求めに来るものの、飛んでいる蝶を目で追うほどには暇だった。
「青りんご飴二つ、くださいな」
「くださいな」
 そこへ全く同じ顔をした少女が二人、カウンターの下からひょこっと顔を出した。ふちに白いレースが縫いつけられた緑色のリボンで、髪をツインテールにまとめている。
 二人はいつぞやに渡来屋に雇われ、働いていた双子の〈探し人〉の主だった。あれ以来、彼女達はりんご飴目当てによくLAMPを訪れる。名前は小紅子こべにこ姫乙女ひめおとめだそうだが、どっちがどっちなのか、由良には全く判別がつかなかった。
「いらっしゃいませ。リボン、可愛らしいですね」
「分かる?」
「最近のお気に入りなの」
 双子は得意げに微笑む。
 着物姿だった〈探し人〉とは違い、白い丸襟がついた緑のクラシカルなワンピースを着ている。まるで動くフランス人形のようだった。
「はい、お待ちどうさま」
「わーい!」
「やったー!」
 由良は冷蔵庫から青りんご飴を二つ取り出し、双子に渡した。飴は昼下がりの日差しを受け、鮮やかな緑色に輝いていた。
 双子は青りんご飴を受け取り、空いた由良の手の上に代金を乗せる。落とさないよう慎重に運び、近くのベンチに並んで座った。
 すぐには食べず、色んな角度から青リンゴ飴を観賞する。やがて気が済むと同じタイミングで飴を食べ始めた。
 かじり、噛み砕き、飲み込む。それら一連の動作が寸分違わず揃っていた。
 あまりに揃っているので、通りかかった人は必ず彼女達を二度見した。由良も二人が青リンゴ飴を食べ終えるまで、終始飽きずに眺めていた。
(背中にぜんまいかコンセントでも付いていそう)
 一応探したが、それらしい部品は見当たらなかった。



「ごちそうさま!」
「今日も美味しかったよ!」
 二人は青リンゴ飴を食べ終えると、棒をゴミ箱に捨て、目の前に広がる原っぱへと走っていった。
 かけっこでも始まるかと思いきや、地面に目を凝らし、何かを探している。
「落とし物ですか?」
 由良が声をかけると、双子は首を振った。
「違うわ。四葉のクローバーを探しているの」
「見つけると願いが叶うんですって」
 双子はそれだけ言うと、四葉のクローバー探しに戻った。
 しゃがんでは周囲に目を凝らし、見つからなければ再び立ち上がり、雑草を踏み潰さないよう注意しながら移動する。二人の顔は真剣そのものだった。
(願いを叶えたくて四葉のクローバーを探すなんて、微笑ましいなぁ。いつからだろう? 四葉のクローバーを特別なものだと思えなくなったのって)
 由良はキッチンカーから、微笑ましそうに双子を眺める。
 ふと、ブレザーの制服を着た少女が何処からともなく原っぱへ現れた。洋燈町内にある中学の制服で、由良の母校ではないものの何度か見かけたことがあった。
(今日、日曜日じゃなかったっけ? 部活にでも行ってたのかな?)
 由良は怪訝に思い、少女を目で追う。
 少女は双子と同様に、何かを探している様子だった。中腰で、足元をキョロキョロと見回している。やがて夢中で探すあまり、双子の一人とぶつかりそうになった。
「危ないっ」
 由良は思わず声を上げる。双子は四葉のクローバー探しに夢中で、少女に気づかない。
 だが、二人がぶつかることはなかった。中学生の少女の体が、双子の一方の体をすり抜けたのだ。
「え」
 由良は目の前で起こった出来事に絶句する。
 すり抜けた二人は何事もなかったように、探し続けている。どうやら、お互いの存在に気づいていないらしい。
 由良は少女を見て、呟いた。
「あの子……〈探し人〉なんだ。だからあの二人には見えていないんだ」
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