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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第五話「鍋パのシメ」⑴
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鍋。
それは冬の風物詩。
野菜、お肉、お魚、などなど……好きな具材を鍋へ投じ、煮込むべし。お出汁に味をつけても、また美味。
シメのバリエーションも豊富で、雑炊、うどん、ラーメン、リゾット、パスタなどなど、悩むこと必至。
伝統的にして、無限大。
それこそが、鍋……。
大晦日の昼。
寝正月ならぬ、寝大晦日をかましていた由良は、けたたましいインターホンの音で目覚めた。
「はいはい、今出ますよっと……」
寝ぼけ眼でコタツから這い出し、玄関のドアを開ける。
家の前には真冬を筆頭に、中林、紅葉谷、扇、珠緒の五人が集まっていた。
「由良さん、こんにちは! 突然ですが、今から鍋パーティしませんか?」
「スマホに連絡したんですけど、時間になっても返事がなかったので来ちゃいました!」
「材料はひと通り買い揃えてあるので、ご安心を!」
「とりあえず、寒いから上がっていいかしら?」
「お邪魔しまーす」
悪びれもなく、家に上がる。扇以外の四人は鍋の材料らしき食材をエコバッグに入れて持ってきていた。家主の由良以外、準備万端だ。
突然のことに、由良はあっけに取られていた。特に、日本にはいないはずの珠緒がいることに驚いた。
「珠緒、今年も買い付け先で年越すって言ってなかったっけ?」
「そのつもりだったんだけどね。日本を経由して行こうとしたら、飛行機が雪で飛ばなくなっちゃったの。だから今年の年末年始は、諦めて実家で過ごすよ」
「マジか」
あまりにも唐突な展開に、由良は「真冬の仕業ではないか?」とすら考えた。彼女は寂しくなると妄想し、〈心の落とし物〉を生み出してしまう体質なのだ。
試しに、スマホで珠緒の写真を撮ってみる。目の前の珠緒が〈心の落とし物〉ならば映らないはずだが、無事に無表情でピースをする珠緒が撮れてしまった。
「……ちなみに日向子は?」
「張り込みで忙しいんだって。お騒がせ大物女優のスキャンダルを狙ってるらしいよ」
「へぇ、なんて名前の人?」
「扇華恋」
「日向子ー? いるんでしょー? 鍋するからアンタも手伝いなさーい」
由良は外付けの階段から身を乗り出し、野良猫と一緒に建物と建物の隙間に潜んでいた日向子に声をかけた。
鍋パーティの発起人は、真冬だった。
「私、一人暮らしじゃないですか。なので、家でお鍋をする時は一人用の小さいお鍋で作ってるんです。でも、たまには大きなお鍋で食べたいなぁと思いまして……お時間が合う皆さんに声をかけて、今年最後の鍋パーティをすることにしたんです!」
「夢が叶って良かったですね。何故私の家を会場に選んだのか、という疑問は残りますが」
「誰も大きなお鍋を持って来られなかったので、由良さんのお家にならあるんじゃないかって、有希さんが」
「なるほど。私は鍋要員ですか」
「だって、オータムフェスで買い過ぎたって仰ってたじゃないですかー」
一同はリビングのコタツに入り、鍋を囲む。材料は皆で手分けして切り、味付けは由良が担当した。
真冬の言う通り、肝心の鍋は持って来ていなかったので、由良の自宅にある美麗漆器の土鍋を使った。くすみがかった白磁に、南天の葉と実、それらを組み合わせて作った雪ウサギの絵が色鮮やかに描かれている。真冬は雪ウサギを見て「ウサギの雪ちゃん!」と喜んでいた。
「それにしても美味しいわね、トマトキムチ鍋。絶対に合わない組み合わせだと思ってたのに」
扇が小皿に取り分けた具材を口にし、感心しする。
真冬達が買ってきたのは、トマト鍋とキムチ鍋の二種類の材料だった。どちらを作るか決めかね、両方買ってきたのだ。どちらを先に食べるか揉める一同に、由良は提案した。
「だったら、混ぜてもいい?」
「混ぜる?」
その結果出来上がったのが、トマトキムチ鍋だった。トマトの酸味とキムチの辛味がお互いの欠点を補いあい、新たな旨みを作り出している。味付け以外の具材がほぼ一緒だったのも、都合が良かった。
当初、由良以外の面々は「本当に美味しいのか?」と半信半疑だったが、ひと口食べた途端、その美味しさに驚いていた。
「美味しい! 私、トマト鍋は酸っぱくて苦手なんですけど、これなら食べられます!」
「私も! 辛いのは苦手ですけど、このお鍋は程よく辛くてクセになりますね!」
キムチ鍋派の中林と、トマト鍋派の真冬も納得する。
これで鍋を巡る争いに終止符が打たれたかと思いきや、
「シメはどうする?」
「雑炊に決まってます!」
「いや、ラーメンでしょ!」
と、再び揉めた。
それは冬の風物詩。
野菜、お肉、お魚、などなど……好きな具材を鍋へ投じ、煮込むべし。お出汁に味をつけても、また美味。
シメのバリエーションも豊富で、雑炊、うどん、ラーメン、リゾット、パスタなどなど、悩むこと必至。
伝統的にして、無限大。
それこそが、鍋……。
大晦日の昼。
寝正月ならぬ、寝大晦日をかましていた由良は、けたたましいインターホンの音で目覚めた。
「はいはい、今出ますよっと……」
寝ぼけ眼でコタツから這い出し、玄関のドアを開ける。
家の前には真冬を筆頭に、中林、紅葉谷、扇、珠緒の五人が集まっていた。
「由良さん、こんにちは! 突然ですが、今から鍋パーティしませんか?」
「スマホに連絡したんですけど、時間になっても返事がなかったので来ちゃいました!」
「材料はひと通り買い揃えてあるので、ご安心を!」
「とりあえず、寒いから上がっていいかしら?」
「お邪魔しまーす」
悪びれもなく、家に上がる。扇以外の四人は鍋の材料らしき食材をエコバッグに入れて持ってきていた。家主の由良以外、準備万端だ。
突然のことに、由良はあっけに取られていた。特に、日本にはいないはずの珠緒がいることに驚いた。
「珠緒、今年も買い付け先で年越すって言ってなかったっけ?」
「そのつもりだったんだけどね。日本を経由して行こうとしたら、飛行機が雪で飛ばなくなっちゃったの。だから今年の年末年始は、諦めて実家で過ごすよ」
「マジか」
あまりにも唐突な展開に、由良は「真冬の仕業ではないか?」とすら考えた。彼女は寂しくなると妄想し、〈心の落とし物〉を生み出してしまう体質なのだ。
試しに、スマホで珠緒の写真を撮ってみる。目の前の珠緒が〈心の落とし物〉ならば映らないはずだが、無事に無表情でピースをする珠緒が撮れてしまった。
「……ちなみに日向子は?」
「張り込みで忙しいんだって。お騒がせ大物女優のスキャンダルを狙ってるらしいよ」
「へぇ、なんて名前の人?」
「扇華恋」
「日向子ー? いるんでしょー? 鍋するからアンタも手伝いなさーい」
由良は外付けの階段から身を乗り出し、野良猫と一緒に建物と建物の隙間に潜んでいた日向子に声をかけた。
鍋パーティの発起人は、真冬だった。
「私、一人暮らしじゃないですか。なので、家でお鍋をする時は一人用の小さいお鍋で作ってるんです。でも、たまには大きなお鍋で食べたいなぁと思いまして……お時間が合う皆さんに声をかけて、今年最後の鍋パーティをすることにしたんです!」
「夢が叶って良かったですね。何故私の家を会場に選んだのか、という疑問は残りますが」
「誰も大きなお鍋を持って来られなかったので、由良さんのお家にならあるんじゃないかって、有希さんが」
「なるほど。私は鍋要員ですか」
「だって、オータムフェスで買い過ぎたって仰ってたじゃないですかー」
一同はリビングのコタツに入り、鍋を囲む。材料は皆で手分けして切り、味付けは由良が担当した。
真冬の言う通り、肝心の鍋は持って来ていなかったので、由良の自宅にある美麗漆器の土鍋を使った。くすみがかった白磁に、南天の葉と実、それらを組み合わせて作った雪ウサギの絵が色鮮やかに描かれている。真冬は雪ウサギを見て「ウサギの雪ちゃん!」と喜んでいた。
「それにしても美味しいわね、トマトキムチ鍋。絶対に合わない組み合わせだと思ってたのに」
扇が小皿に取り分けた具材を口にし、感心しする。
真冬達が買ってきたのは、トマト鍋とキムチ鍋の二種類の材料だった。どちらを作るか決めかね、両方買ってきたのだ。どちらを先に食べるか揉める一同に、由良は提案した。
「だったら、混ぜてもいい?」
「混ぜる?」
その結果出来上がったのが、トマトキムチ鍋だった。トマトの酸味とキムチの辛味がお互いの欠点を補いあい、新たな旨みを作り出している。味付け以外の具材がほぼ一緒だったのも、都合が良かった。
当初、由良以外の面々は「本当に美味しいのか?」と半信半疑だったが、ひと口食べた途端、その美味しさに驚いていた。
「美味しい! 私、トマト鍋は酸っぱくて苦手なんですけど、これなら食べられます!」
「私も! 辛いのは苦手ですけど、このお鍋は程よく辛くてクセになりますね!」
キムチ鍋派の中林と、トマト鍋派の真冬も納得する。
これで鍋を巡る争いに終止符が打たれたかと思いきや、
「シメはどうする?」
「雑炊に決まってます!」
「いや、ラーメンでしょ!」
と、再び揉めた。
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