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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第四話「渡せなかったオクリモノ」⑵
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(ん……待てよ? ラブレター?)
ふと、由良はひらめいた。
「あの、」
「何ですか? 今、どのお相手のところへ行こうか厳選してたんですけど」
女性は恨めしそうに由良を睨む。
「逆恨みもいいところだ」と由良は呆れつつも、今しがた思いついたことを提案してみた。
「手紙、売りませんか?」
「……はい?」
「たしかにうちは今、手紙屋だ。が……まさかお前からラブレターの在庫を持って来るとは思わなかったよ」
「そう思うなら、もっと喜ばれてもいいんじゃないですか? 渡来屋さん」
「お二人、そっくりですね。親戚の方ですか?」
「違う」
「違います」
由良は「ゴミ捨てに行ってくる」と従業員達に言い残し、女性を渡来屋のもとへ連れて来た。
店内には数人の〈探し人〉が客として来ており、目当ての〈心の落とし物〉を探し求めていた。便箋の字を目でたどっては、落胆した様子で手紙を棚に戻す。膨大な手紙から目当てのものを探し当てるのはさぞ大変だろう、と由良は彼らに同情した。
渡来屋は由良を怪しみながらも女性から段ボール箱を受け取り、ガムテープをカッターで切り裂く。箱を開けると、古びた手紙が隙間なく詰められていた。
「二百……いや、三百枚はあるか? 本当に手放していいんだな?」
「はい。どんな形であれ、"手紙を処分しておきたかった"というのが、私の〈心の落とし物〉ですから。むしろ、誰かのお役に立てるなら本望です」
女性は憑き物が落ちたような清々しい笑顔で頷く。
〈探し人〉の彼女がこれほど満足しているなら、彼女の本人もためらいなく手紙を処分できるに違いない。
「いいだろう。手紙は俺が責任持って取り扱わせてもらう」
「お願いします」
「買取金はないんですか?」
「〈探し人〉の未練を叶えてやるんだ、これ以上の報酬があるか?」
「……それを売って利益を得ているくせに」
由良は腑に落ちなかったが、女性は「渡来屋さんの言う通りです」と満足そうだった。
「これで安心して掃除を続けられます。ありがとうございました」
そう言って、女性は笑顔で消えた。
「〈探し人〉の方が聞き分けがいいじゃないか」
「……これで許されたとは思わないでよ」
由良は納得しないまま、渡来屋を後にした。
「由良さん、おかえりなさい! お昼、先に戴いちゃってます」
「うん。お疲れ様ー」
LAMPに戻ると皆、昼食を取っていた。午後はワックスなど、仕上げの作業をする予定だ。
昼食は由良と数人の従業員があらかじめ作っておいた梅干しおにぎりと豚汁、白菜の浅漬けだった。LAMPのメニューにはない簡単な和食だが、漬け物と梅干しの酸味と豚汁の温かみが疲れを癒し、消費したエネルギーを米と豚肉が補充してくれた。
「おにぎりうまー」
「豚汁さいこー」
「浅漬けの塩加減が絶妙ですね。隠し味のゆずが効いていて美味しいです」
従業員達が絶賛する中、一人部外者が混じっていた。
「あの、」
「……はい」
思わず声をかける。ちょうど中林の隣に座っていたため、周囲には怪しまれずに済んだ。
彼女も自覚しているようで、申し訳なさそうに視線をそらす。その手にはちゃっかり、おにぎりを持っていた。
「何でいるんですか? さっきいなくなったはずですよね?」
従業員に混じっていたのは、先程渡来屋で消えたはずの〈探し人〉の女性だった。女性も困惑している様子で、「あー……ハハハ」と笑って誤魔化す。
一番困惑していたのは〈探し人〉の隣に座っていた中林で、突然誰もいないところへ話しかけた由良に驚いていた。
「由良さん、どうかしたんですか?」
「……さっきの〈探し人〉が、貴方の横に座って呑気におにぎり食べてる」
「えぇー?!」
ふと、由良はひらめいた。
「あの、」
「何ですか? 今、どのお相手のところへ行こうか厳選してたんですけど」
女性は恨めしそうに由良を睨む。
「逆恨みもいいところだ」と由良は呆れつつも、今しがた思いついたことを提案してみた。
「手紙、売りませんか?」
「……はい?」
「たしかにうちは今、手紙屋だ。が……まさかお前からラブレターの在庫を持って来るとは思わなかったよ」
「そう思うなら、もっと喜ばれてもいいんじゃないですか? 渡来屋さん」
「お二人、そっくりですね。親戚の方ですか?」
「違う」
「違います」
由良は「ゴミ捨てに行ってくる」と従業員達に言い残し、女性を渡来屋のもとへ連れて来た。
店内には数人の〈探し人〉が客として来ており、目当ての〈心の落とし物〉を探し求めていた。便箋の字を目でたどっては、落胆した様子で手紙を棚に戻す。膨大な手紙から目当てのものを探し当てるのはさぞ大変だろう、と由良は彼らに同情した。
渡来屋は由良を怪しみながらも女性から段ボール箱を受け取り、ガムテープをカッターで切り裂く。箱を開けると、古びた手紙が隙間なく詰められていた。
「二百……いや、三百枚はあるか? 本当に手放していいんだな?」
「はい。どんな形であれ、"手紙を処分しておきたかった"というのが、私の〈心の落とし物〉ですから。むしろ、誰かのお役に立てるなら本望です」
女性は憑き物が落ちたような清々しい笑顔で頷く。
〈探し人〉の彼女がこれほど満足しているなら、彼女の本人もためらいなく手紙を処分できるに違いない。
「いいだろう。手紙は俺が責任持って取り扱わせてもらう」
「お願いします」
「買取金はないんですか?」
「〈探し人〉の未練を叶えてやるんだ、これ以上の報酬があるか?」
「……それを売って利益を得ているくせに」
由良は腑に落ちなかったが、女性は「渡来屋さんの言う通りです」と満足そうだった。
「これで安心して掃除を続けられます。ありがとうございました」
そう言って、女性は笑顔で消えた。
「〈探し人〉の方が聞き分けがいいじゃないか」
「……これで許されたとは思わないでよ」
由良は納得しないまま、渡来屋を後にした。
「由良さん、おかえりなさい! お昼、先に戴いちゃってます」
「うん。お疲れ様ー」
LAMPに戻ると皆、昼食を取っていた。午後はワックスなど、仕上げの作業をする予定だ。
昼食は由良と数人の従業員があらかじめ作っておいた梅干しおにぎりと豚汁、白菜の浅漬けだった。LAMPのメニューにはない簡単な和食だが、漬け物と梅干しの酸味と豚汁の温かみが疲れを癒し、消費したエネルギーを米と豚肉が補充してくれた。
「おにぎりうまー」
「豚汁さいこー」
「浅漬けの塩加減が絶妙ですね。隠し味のゆずが効いていて美味しいです」
従業員達が絶賛する中、一人部外者が混じっていた。
「あの、」
「……はい」
思わず声をかける。ちょうど中林の隣に座っていたため、周囲には怪しまれずに済んだ。
彼女も自覚しているようで、申し訳なさそうに視線をそらす。その手にはちゃっかり、おにぎりを持っていた。
「何でいるんですか? さっきいなくなったはずですよね?」
従業員に混じっていたのは、先程渡来屋で消えたはずの〈探し人〉の女性だった。女性も困惑している様子で、「あー……ハハハ」と笑って誤魔化す。
一番困惑していたのは〈探し人〉の隣に座っていた中林で、突然誰もいないところへ話しかけた由良に驚いていた。
「由良さん、どうかしたんですか?」
「……さっきの〈探し人〉が、貴方の横に座って呑気におにぎり食べてる」
「えぇー?!」
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