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秋編②『金貨六枚分のきらめき』
第一話「仮装行列」⑵
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「タケノコご飯、美味しい!」
「お櫃にお代わりもございますから、ぜひどうぞ」
入浴後、部屋に戻った由良と中林は民宿から借りた羽織と浴衣を纏い、夕餉に舌鼓を打っていた。米、タケノコ、キノコ、山菜、川魚……いずれの食材もこの村でとれたものばかりだ。
外は電灯がほとんどないため真っ暗で、鈴虫やらコオロギやらの秋の虫が演奏会を開いていた。
「ご飯、残ったら持って帰ってもいいですか? 真冬ちゃん……地元の友達にも食べさせてあげたいので」
「それでしたら、お帰りの際におにぎりにしてお渡し致しますよ。その方が持ち帰りやすいでしょうから」
「やった! ありがとうございます!」
中林は無邪気に喜ぶ。その間にも、ヤマメの塩焼きにかぶりつき、竹の器によそわれたタケノコご飯をかっこんでいた。
代わりに、由良が「お手数おかけします」と女将に頭を下げた。
「いえいえ。私共はお客さまに喜んでいただくために仕事しておりますから。むしろ、こんなに料理を気に入っていただけて、とても嬉しいです。母も喜びます」
「このお料理は、お母様がお作りに?」
女将は「えぇ」と頷いた。
「今年で還暦になります。実家であるこの家を改装して民宿を始めたいと言い出したのも、母なんですよ。はるばる遠方から棚田を見に来られたお客様をもてなしたい、と。なにぶん、コンビニもホテルもない村ですから、遠方から遥々いらっしゃった方々に苦労をかけたくなかったそうです」
「素敵なお母様ですね」
「若い頃、働きに出ていた街で色んな方によくして頂いたそうで、その恩返しがしたいと申しておりました。たくさんのお客様に訪れて頂いているおかげで、この村も少しずつ活気を取り戻しつつあると思います」
女将は嬉しそうに微笑んだ。
「昼間もずいぶん静かでしたが、この村には今、何人くらいの方が住んでいらっしゃるんです?」
由良は昼間に見た子供達の素性が気になり、女将にそれとなく尋ねてみた。
「うちの従業員も含めると、二十人足らずでしょうか。どのお宅もご高齢の方ばかりで……二十年ほど前までは、近所に小学校と中学校があって、村に住んでいる子供達が通っていたのですが、学校が閉鎖されてからはお子さんのいる家庭は一軒もなくなってしまいましたね」
「……そうですか」
由良の前に現れた子供達は、かつてこの村に住んでいた子供か、あるいは今この村に住んでいるお年寄りの〈心の落とし物〉なのかもしれない。
とは言え、いずれの子供も仮装していたため、持ち主の特定は出来そうもなかった。
(まぁ、子供が見えるくらいなら放っておいてもいいか)
由良はデザートの栗のプリンを味わいつつ、今日逢った奇異な出来事を忘れようとしていた。
……が、〈心の落とし物〉はそうやすやすと由良を解放してはくれなかった。
「……何処ここ?」
深夜、由良がトイレから出ると、外はいつのまにか棚田のあぜ道になっていた。月明かりが、棚田を薄ぼんやりと白金に照らす。
振り返ると、トイレまで消えている。寝ぼけているのかとほっぺをつねってみたが、普通に痛かった。
「お櫃にお代わりもございますから、ぜひどうぞ」
入浴後、部屋に戻った由良と中林は民宿から借りた羽織と浴衣を纏い、夕餉に舌鼓を打っていた。米、タケノコ、キノコ、山菜、川魚……いずれの食材もこの村でとれたものばかりだ。
外は電灯がほとんどないため真っ暗で、鈴虫やらコオロギやらの秋の虫が演奏会を開いていた。
「ご飯、残ったら持って帰ってもいいですか? 真冬ちゃん……地元の友達にも食べさせてあげたいので」
「それでしたら、お帰りの際におにぎりにしてお渡し致しますよ。その方が持ち帰りやすいでしょうから」
「やった! ありがとうございます!」
中林は無邪気に喜ぶ。その間にも、ヤマメの塩焼きにかぶりつき、竹の器によそわれたタケノコご飯をかっこんでいた。
代わりに、由良が「お手数おかけします」と女将に頭を下げた。
「いえいえ。私共はお客さまに喜んでいただくために仕事しておりますから。むしろ、こんなに料理を気に入っていただけて、とても嬉しいです。母も喜びます」
「このお料理は、お母様がお作りに?」
女将は「えぇ」と頷いた。
「今年で還暦になります。実家であるこの家を改装して民宿を始めたいと言い出したのも、母なんですよ。はるばる遠方から棚田を見に来られたお客様をもてなしたい、と。なにぶん、コンビニもホテルもない村ですから、遠方から遥々いらっしゃった方々に苦労をかけたくなかったそうです」
「素敵なお母様ですね」
「若い頃、働きに出ていた街で色んな方によくして頂いたそうで、その恩返しがしたいと申しておりました。たくさんのお客様に訪れて頂いているおかげで、この村も少しずつ活気を取り戻しつつあると思います」
女将は嬉しそうに微笑んだ。
「昼間もずいぶん静かでしたが、この村には今、何人くらいの方が住んでいらっしゃるんです?」
由良は昼間に見た子供達の素性が気になり、女将にそれとなく尋ねてみた。
「うちの従業員も含めると、二十人足らずでしょうか。どのお宅もご高齢の方ばかりで……二十年ほど前までは、近所に小学校と中学校があって、村に住んでいる子供達が通っていたのですが、学校が閉鎖されてからはお子さんのいる家庭は一軒もなくなってしまいましたね」
「……そうですか」
由良の前に現れた子供達は、かつてこの村に住んでいた子供か、あるいは今この村に住んでいるお年寄りの〈心の落とし物〉なのかもしれない。
とは言え、いずれの子供も仮装していたため、持ち主の特定は出来そうもなかった。
(まぁ、子供が見えるくらいなら放っておいてもいいか)
由良はデザートの栗のプリンを味わいつつ、今日逢った奇異な出来事を忘れようとしていた。
……が、〈心の落とし物〉はそうやすやすと由良を解放してはくれなかった。
「……何処ここ?」
深夜、由良がトイレから出ると、外はいつのまにか棚田のあぜ道になっていた。月明かりが、棚田を薄ぼんやりと白金に照らす。
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