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夏編②『梅雨空しとしと、ラムネ色』
第一話「雨は嫌い」⑵
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由良は女性を連れ、従業員用の通用口からLAMPの裏へと出た。表の洗練された街並みとは異なり、雑草が点々と生えているだけの空き地が広がっている。
地面がぬかるみ、ぐちゃぐちゃになっていたが、通用口の軒先は空色の丸いテントが雨から守ってくれていたため、無事だった。「ボツボツ」と雨粒がテントを叩く音が、止めどなく響いていた。
「庭って、あの空き地のこと?」
「違いますよ」
女性の問いに、由良はLAMPの裏の壁を指差す。
そこには二階と屋上へと続く、こげ茶色の鉄骨階段が壁を這うように取り付けられていた。天井には通用口の軒先にあるものと同じ、空色のテントが張られている。
「この上です。行きましょう」
そう言うと由良は階段を上り始めた。雨の音に混じり、「カン、カン」と足音が響く。
「……本当にこの先に庭なんてあるのかしら?」
女性は半信半疑になりながらも、由良の後をついて行った。
先行している由良は二階を素通りし、さらに上を目指して階段を上っていく。
二階は住居になっているらしく、ドアの横にポストとインターホンが取り付けられている。玄関の軒先には通用口と同じ、空色の丸いテントが張られていた。
「ここは何の部屋なんです?」
女性が二階を指差し、尋ねる。
由良は階段を上っている途中で振り返り、「私の家ですよ」と答えた。
「前は別の場所に住んでいたんですけど、店に何かあったらすぐに駆けつけられるよう、引っ越したんです」
「いいですね、雨の中通勤せずに済んで。私も会社に住もうかしら」
「……それは会社の方と相談して下さい」
やがて二人は階段を上りきり、屋上の塔屋へとたどり着いた。コンクリート造の塔屋で、ところどころに赤錆がついた古めかしい空色の鉄扉が階段に向かって取り付けられている。
レンガを模した塀が屋上の周りを囲っているため、非常階段からでは屋上の様子をうかがい知ることは出来ない。しかし何やら涼やかな音色が不規則に鳴り響いているのが、塀越しに聞こえていた。
「この音……風鈴?」
女性は音に気づき、耳を澄ます。
由良も「えぇ」と頷いた。
「良い音でしょう? "庭"で飾っているんです」
由良はポケットからアジサイのキーホルダーがついた鍵を取り出し、扉の鍵を開けた。鍵の開いた扉を押すと「キィ」と音が鳴り、開いた。
塔屋は天井がガラス張りになっており、薄明るかった。見上げると、空から雨が降り注いでくる様が、服を濡らさずとも見られる。
室内は見通しが良く、空色のプラスチックチェアが二脚、無造作に置かれている。隅には、葉が大きな観葉植物が植木鉢に植えられ、殺風景な塔屋に彩りを添えていた。
「あちらがLAMPの庭です」
由良は入ってきた扉の先にあるガラスの扉を手で示し、外の光景を女性に見せた。
そこには青や紫やピンクといった色鮮やかなアジサイが、塀沿いに咲いていた。アスファルトの床から生えているのではなく、一株ずつ植木鉢に植えられている。
またアジサイの前には、一人暮らしの由良では持て余すほどの量の物干し竿が等間隔で置かれ、それら全てに大量の風鈴が吊るされていた。
風鈴達は風に吹かれ、雨粒がぶつかるたびに、涼やかな音色を発し、揺れる。女性が塔屋の前で聞いたのは、あれらの風鈴の音色だったのだ。
女性は屋上とは思えない景色に呆然と見入ったのちに、由良に尋ねた。
「風鈴、多過ぎやしないですか?」
「全部、骨董市やリサイクルショップで買った安物ですけどね。気づいたら無茶苦茶増えてました」
地面がぬかるみ、ぐちゃぐちゃになっていたが、通用口の軒先は空色の丸いテントが雨から守ってくれていたため、無事だった。「ボツボツ」と雨粒がテントを叩く音が、止めどなく響いていた。
「庭って、あの空き地のこと?」
「違いますよ」
女性の問いに、由良はLAMPの裏の壁を指差す。
そこには二階と屋上へと続く、こげ茶色の鉄骨階段が壁を這うように取り付けられていた。天井には通用口の軒先にあるものと同じ、空色のテントが張られている。
「この上です。行きましょう」
そう言うと由良は階段を上り始めた。雨の音に混じり、「カン、カン」と足音が響く。
「……本当にこの先に庭なんてあるのかしら?」
女性は半信半疑になりながらも、由良の後をついて行った。
先行している由良は二階を素通りし、さらに上を目指して階段を上っていく。
二階は住居になっているらしく、ドアの横にポストとインターホンが取り付けられている。玄関の軒先には通用口と同じ、空色の丸いテントが張られていた。
「ここは何の部屋なんです?」
女性が二階を指差し、尋ねる。
由良は階段を上っている途中で振り返り、「私の家ですよ」と答えた。
「前は別の場所に住んでいたんですけど、店に何かあったらすぐに駆けつけられるよう、引っ越したんです」
「いいですね、雨の中通勤せずに済んで。私も会社に住もうかしら」
「……それは会社の方と相談して下さい」
やがて二人は階段を上りきり、屋上の塔屋へとたどり着いた。コンクリート造の塔屋で、ところどころに赤錆がついた古めかしい空色の鉄扉が階段に向かって取り付けられている。
レンガを模した塀が屋上の周りを囲っているため、非常階段からでは屋上の様子をうかがい知ることは出来ない。しかし何やら涼やかな音色が不規則に鳴り響いているのが、塀越しに聞こえていた。
「この音……風鈴?」
女性は音に気づき、耳を澄ます。
由良も「えぇ」と頷いた。
「良い音でしょう? "庭"で飾っているんです」
由良はポケットからアジサイのキーホルダーがついた鍵を取り出し、扉の鍵を開けた。鍵の開いた扉を押すと「キィ」と音が鳴り、開いた。
塔屋は天井がガラス張りになっており、薄明るかった。見上げると、空から雨が降り注いでくる様が、服を濡らさずとも見られる。
室内は見通しが良く、空色のプラスチックチェアが二脚、無造作に置かれている。隅には、葉が大きな観葉植物が植木鉢に植えられ、殺風景な塔屋に彩りを添えていた。
「あちらがLAMPの庭です」
由良は入ってきた扉の先にあるガラスの扉を手で示し、外の光景を女性に見せた。
そこには青や紫やピンクといった色鮮やかなアジサイが、塀沿いに咲いていた。アスファルトの床から生えているのではなく、一株ずつ植木鉢に植えられている。
またアジサイの前には、一人暮らしの由良では持て余すほどの量の物干し竿が等間隔で置かれ、それら全てに大量の風鈴が吊るされていた。
風鈴達は風に吹かれ、雨粒がぶつかるたびに、涼やかな音色を発し、揺れる。女性が塔屋の前で聞いたのは、あれらの風鈴の音色だったのだ。
女性は屋上とは思えない景色に呆然と見入ったのちに、由良に尋ねた。
「風鈴、多過ぎやしないですか?」
「全部、骨董市やリサイクルショップで買った安物ですけどね。気づいたら無茶苦茶増えてました」
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