59 / 314
冬編①『雪色暗幕、幻燈夜』
第五話「真冬の寂しがり屋」⑶
しおりを挟む
寂しがり屋を自覚して以来、真冬はだんだん家に帰るのが嫌になった。
友達の家に泊めてもらったり、駅員に追い出されるまで駅に居着いたりするようになった。
「どうしても寂しい時は気分を紛らわそうと、楽しくなるような妄想するようになりました。『大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたいなぁ』とか、『早く雪が降らないかなぁ』とか、『LAMPの厨房は寒いそうだから、突然南極に変わってしまうかも。ペンギンとか色んな動物と会えたりして』とか、『雪だるまがいっぱい作りたいなぁ』とか、『サンタさんに会ってみたいなぁ』とか。さっきも妄想してたんですよ? LAMPが雪ヶ原の駅に合ったらいいのになぁって」
「……ロマンチストなんですね」
由良は笑顔が引きつらないよう、必死に堪える。
しかし内心はひどく衝撃を受けていた。
(こ……この子だったのか……っ! 全ての元凶は!)
真冬が語った妄想は全て、実際に由良の身に起こった〈心の落とし物〉だった。
「大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたい」という妄想だけは自覚していなかったが、言われてみれば、真冬に似た妙齢の女性がホットサングリアを飲みに来ていたような気がする。他にも真冬が話していないだけで、彼女が発端となった〈心の落とし物〉は沢山あるのかもしれない。
(妄想したことが〈心の落とし物〉として現実になるなんて、最早魔法じゃない? なんとかして妄想させないようにしないと……)
由良は真冬の対処法に頭を悩ませる。これ以上、妙な〈心の落とし物〉が現れては、仕事に支障が出てしまう。
一方、真冬は由良に「ロマンチスト」と言われ、「そうでもないですよ?」と否定した。
「だって妄想はするけど、実際に叶うなんて思ってませんもん。大人の女性になれるのはまだまだ先だし、天気予報を見れば、暫く雪が降らないことは分かってた。LAMPの厨房が南極になるなんてあり得ないし、雪だるまがいっぱい作りたいなら、宿題を早く済ませてから作ればいい。サンタさんは……いたら会ってみたいですけど、もうクリスマスイブは終わってしまったので、きっとお休みでしょうね」
「……なるほど」
由良は真冬の真意を聞き、彼女が何故これほど妄想しているのに〈心の落とし物〉が見えないのか、理解した。
(この子は空想家である以上に、現実主義者なんだ。夢を見てはいるけど、夢を信じてはいない。だから〈心の落とし物〉を量産しながらも、一つも目にすることはなかった)
由良はそこまで考察を広げ、あることに疑問を持った。
(……いや、一つだけあったな)
そのことを真冬に尋ねようとすると、ちょうど本人の口から答えが出てきた。
「なので、LAMPが雪ヶ原駅に現れた時は、すっごくビックリしました! まさか本当に現れるなんて……今回は割と本気で叶って欲しいと思っていたので、すっごく嬉しかったです!」
真冬は満面の笑顔でそう言うと、ありがたそうにココアを飲んだ。
(つまり、今回は信じたわけね……自分の妄想を)
由良は言葉には出さず、納得した。
(見えるとなると、ますます対策を考えないとね。何かいいアイデアはないかしら?)
由良が思案していると、ココアを飲み終わった真冬が名残惜しそうにマシュマロを見て言った。
「雪ちゃん食べるの、もったいないなぁ……この雪ちゃんマシュマロ、何処に売ってるんですか?」
「うちのは特注なんで、非売品ですよ。でも、似たマシュマロなら他所でも売ってるかもしれませんね。いっそ、既製品のマシュマロを二つくっつけて、自作してもいいかもしれません」
「確かに! 明日買ってこよっと!」
その時、由良は真冬が寂しくならない、いいアイデアを思いついた。
友達の家に泊めてもらったり、駅員に追い出されるまで駅に居着いたりするようになった。
「どうしても寂しい時は気分を紛らわそうと、楽しくなるような妄想するようになりました。『大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたいなぁ』とか、『早く雪が降らないかなぁ』とか、『LAMPの厨房は寒いそうだから、突然南極に変わってしまうかも。ペンギンとか色んな動物と会えたりして』とか、『雪だるまがいっぱい作りたいなぁ』とか、『サンタさんに会ってみたいなぁ』とか。さっきも妄想してたんですよ? LAMPが雪ヶ原の駅に合ったらいいのになぁって」
「……ロマンチストなんですね」
由良は笑顔が引きつらないよう、必死に堪える。
しかし内心はひどく衝撃を受けていた。
(こ……この子だったのか……っ! 全ての元凶は!)
真冬が語った妄想は全て、実際に由良の身に起こった〈心の落とし物〉だった。
「大人の女性になって、ホットサングリアを飲んでみたい」という妄想だけは自覚していなかったが、言われてみれば、真冬に似た妙齢の女性がホットサングリアを飲みに来ていたような気がする。他にも真冬が話していないだけで、彼女が発端となった〈心の落とし物〉は沢山あるのかもしれない。
(妄想したことが〈心の落とし物〉として現実になるなんて、最早魔法じゃない? なんとかして妄想させないようにしないと……)
由良は真冬の対処法に頭を悩ませる。これ以上、妙な〈心の落とし物〉が現れては、仕事に支障が出てしまう。
一方、真冬は由良に「ロマンチスト」と言われ、「そうでもないですよ?」と否定した。
「だって妄想はするけど、実際に叶うなんて思ってませんもん。大人の女性になれるのはまだまだ先だし、天気予報を見れば、暫く雪が降らないことは分かってた。LAMPの厨房が南極になるなんてあり得ないし、雪だるまがいっぱい作りたいなら、宿題を早く済ませてから作ればいい。サンタさんは……いたら会ってみたいですけど、もうクリスマスイブは終わってしまったので、きっとお休みでしょうね」
「……なるほど」
由良は真冬の真意を聞き、彼女が何故これほど妄想しているのに〈心の落とし物〉が見えないのか、理解した。
(この子は空想家である以上に、現実主義者なんだ。夢を見てはいるけど、夢を信じてはいない。だから〈心の落とし物〉を量産しながらも、一つも目にすることはなかった)
由良はそこまで考察を広げ、あることに疑問を持った。
(……いや、一つだけあったな)
そのことを真冬に尋ねようとすると、ちょうど本人の口から答えが出てきた。
「なので、LAMPが雪ヶ原駅に現れた時は、すっごくビックリしました! まさか本当に現れるなんて……今回は割と本気で叶って欲しいと思っていたので、すっごく嬉しかったです!」
真冬は満面の笑顔でそう言うと、ありがたそうにココアを飲んだ。
(つまり、今回は信じたわけね……自分の妄想を)
由良は言葉には出さず、納得した。
(見えるとなると、ますます対策を考えないとね。何かいいアイデアはないかしら?)
由良が思案していると、ココアを飲み終わった真冬が名残惜しそうにマシュマロを見て言った。
「雪ちゃん食べるの、もったいないなぁ……この雪ちゃんマシュマロ、何処に売ってるんですか?」
「うちのは特注なんで、非売品ですよ。でも、似たマシュマロなら他所でも売ってるかもしれませんね。いっそ、既製品のマシュマロを二つくっつけて、自作してもいいかもしれません」
「確かに! 明日買ってこよっと!」
その時、由良は真冬が寂しくならない、いいアイデアを思いついた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
とべない天狗とひなの旅
ちはやれいめい
歴史・時代
人間嫌いで悪行の限りを尽してきた天狗、フェノエレーゼ。
主君サルタヒコの怒りを買い、翼を封じられ人里に落とされてしまう。
「心から人間に寄り添い助けろ。これ以上悪さをすると天狗に戻れなくなるぞ」
とべなくなったフェノエレーゼの事情を知って、人里の童女ヒナが、旅についてきた。
人間嫌いの偏屈天狗と、天真爛漫な幼女。
翼を取り戻すため善行を積む旅、はじまりはじまり。
絵・文 ちはやれいめい
https://mypage.syosetu.com/487329/
フェノエレーゼデザイン トトさん
https://mypage.syosetu.com/432625/
ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~
草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。
欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。
それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。
雪町フォトグラフ
涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。
メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。
※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。
託され行くもの達
ar
ファンタジー
一人の少年騎士の一週間と未来の軌跡。
エウルドス王国の少年騎士ロファース。初陣の日に彼は疑問を抱いた。
少年は己が存在に悩み、進む。
※「一筋の光あらんことを」の後日談であり過去編
瀬々市、宵ノ三番地
茶野森かのこ
キャラ文芸
瀬々市愛、二十六才。「宵の三番地」という名前の探し物屋で、店長代理を務める青年。
右目に濁った翡翠色の瞳を持つ彼は、物に宿る化身が見える不思議な力を持っている。
御木立多田羅、二十六才。人気歌舞伎役者、八矢宗玉を弟に持つ、普通の青年。
愛とは幼馴染みで、会って間もない頃は愛の事を女の子と勘違いしてプロポーズした事も。大人になって再会し、現在は「宵の三番地」の店員、愛のお世話係として共同生活をしている。
多々羅は、常に弟の名前がついて回る事にコンプレックスを感じていた。歌舞伎界のプリンスの兄、そう呼ばれる事が苦痛だった。
愛の店で働き始めたのは、愛の祖父や姉の存在もあるが、ここでなら、自分は多々羅として必要としてくれると思ったからだ。
愛が男だと分かってからも、子供の頃は毎日のように一緒にいた仲だ。あの楽しかった日々を思い浮かべていた多々羅だが、愛は随分と変わってしまった。
依頼人以外は無愛想で、楽しく笑って過ごした日々が嘘のように可愛くない。一人で生活出来る能力もないくせに、ことあるごとに店を辞めさせようとする、距離をとろうとする。
それは、物の化身と対峙するこの仕事が危険だからであり、愛には大事な人を傷つけた過去があったからだった。
だから一人で良いと言う愛を、多々羅は許す事が出来なかった。どんなに恐れられようとも、愛の瞳は美しく、血が繋がらなくても、愛は家族に愛されている事を多々羅は知っている。
「宵の三番地」で共に過ごす化身の用心棒達、持ち主を思うネックレス、隠された結婚指輪、黒い影を纏う禍つもの、禍つものになりかけたつくも神。
瀬々市の家族、時の喫茶店、恋する高校生、オルゴールの少女、零番地の壮夜。
物の化身の思いを聞き、物達の思いに寄り添いながら、思い悩み繰り返し、それでも何度も愛の手を引く多々羅に、愛はやがて自分の過去と向き合う決意をする。
そんな、物の化身が見える青年達の、探し物屋で起こる日々のお話です。現代のファンタジーです。
ユメ/うつつ
hana4
ライト文芸
例えばここからが本編だったとしたら、プロローグにも満たない俺らはきっと短く纏められて、誰かの些細な回想シーンの一部でしかないのかもしれない。
もし俺の人生が誰かの創作物だったなら、この記憶も全部、比喩表現なのだろう。
それかこれが夢であるのならば、いつまでも醒めないままでいたかった。
月は夜をかき抱く ―Alkaid―
深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。
アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。
喫茶店オルクスには鬼が潜む
奏多
キャラ文芸
美月が通うようになった喫茶店は、本一冊読み切るまで長居しても怒られない場所。
そこに通うようになったのは、片思いの末にどうしても避けたい人がいるからで……。
そんな折、不可思議なことが起こり始めた美月は、店員の青年に助けられたことで、その秘密を知って行って……。
なろうでも連載、カクヨムでも先行連載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる