心の落とし物

緋色刹那

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冬編①『雪色暗幕、幻燈夜』

第四話「サンタと雪だるまっ娘」⑸

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 まふゆは真剣な眼差しで言った。
「雪ちゃんには、私みたいに一人ぼっちになって欲しくないの。雪ちゃん作り終わったら、ちゃんとおうちに帰るから、お姉さん達は先に帰っていいよ」
「帰っていいって言われても……」
 由良達が帰れば、まふゆは一人になってしまう。先程LAMPの前の電柱で頭をぶつけたように、何かあっては困る。
 由良は中林にLAMPの鍵を手渡し、言った。
「ごめん、中林さん。一人で店番頼める? 私、もう少しだけ残るわ」
「えー?! まさか、まだ雪だるま作るんですか?!」
「仕方ないじゃない。こんな小さい子、一人で置いていけるわけ、ないでしょう?」
 すると中林はキョトンとして、尋ねた。
「小さい子って、誰のことを言ってるんです?」
「誰って、この子よ」
 由良はまふゆを持ち上げ、中林の眼前に突き出した。
 それでも中林は「んー?」と眉をしかめ、首を傾げた。
? 店長がパントマイムしてるようにしか見えないです」
「私にも見えないわ。もしかして今、由良が見えてるのって、〈探し人〉なんじゃないの?」
 日向子も由良の手元を覗き込み、指摘する。
「嘘……」
 由良は呆然と立ち尽くし、まふゆと目を合わせた。
 まふゆは大きな黒目をパチクリさせ、小首を傾げた。こんな可愛らしい女の子を、二人が冗談でも見逃すはずがなかった。

「〈探し人〉なんだったら、危険はないんじゃないの? 除霊はひとまず置いといて、一旦LAMPに戻らない?」
「……いくら〈探し人〉でも、放って置けないわよ。誰か他に、この子の相手をしてくれる人がいたらいいんだけど」
 ふと、由良は遊歩道のベンチに座っている見覚えのある老人に目が止まった。
 相手も由良と目が合うと、軽く手を上げ、こちらに近づいてくる。紛れもなく、由良がクリスマスイブの夜に出会った、自称サンタクロースのお爺さんだった。
「やぁ、お嬢さん。クリスマスイブぶりじゃな」
「サンタのお爺さん! クリスマスイブはとっくに終わったんじゃないんですか?」
「家によっては、クリスマスの夜にプレゼントを配られる家もあるからの。儂の活動時間も、クリスマスの夜までと決まっておるのじゃ」
 老人、もといサンタはフォッフォと笑い、胸を張る。
 サンタの姿も中林と日向子には見えていないらしく、
「また誰か来た?」
「今度はどんな〈探し人〉でしょうね?」
 と二人で由良の様子を観察していた。
 由良はサンタを見ているうちに、昨晩、彼が言っていたことを思い出し、「そうだ!」と手を打った。
「お爺さん、この女の子と一緒に雪だるまを作ってあげてくれませんか? それがこの子の望む、クリスマスプレゼントです」
「ほぉ! 雪だるま作りがクリスマスプレゼントとな!」
 サンタは嬉しそうに、つぶらな瞳を輝かせた。
「そんな素朴なプレゼントを頼むなんて、今どき珍しいのぉ。よし分かった! 儂が叶えてあげよう」
「本当?!」
 まふゆもサンタを見上げ、満面の笑みを見せる。
「私、サンタさんと一緒に雪ちゃん作るの、初めて! そうだ! サンタさんの雪ちゃんも作ろうよ!」
「いいのかい? 嬉しいのぉ」
 二人はすっかり打ち解けた様子で、雪だるまを作り始めた。
 サンタは大きな白い袋をベンチに置き、慣れた手つきで雪玉を転がしていく。時折、まふゆの様子を窺い、温かく見守っていた。
 由良には二人の姿が昔の自分と祖父とで重なって見え、少し切なくなった。
「……じゃあね、まふゆちゃん。雪だるま完成させたら、ちゃんと家に帰るのよ」
「うん! バイバイ、お姉さん!」
 まふゆは一旦手を止め、由良に手を振ると、作業に戻った。
 
 その日の営業時間が終わった後、由良は洋燈公園に再度赴いた。
 雪がしんしんと降り注ぐ夜の公園は無人で、静まり返っていた。まふゆもサンタもいない。
 ただ、サンタが座っていたベンチのそばには、由良がまふゆと一緒に作ったノーマルな雪だるまを中心に、黒い葉っぱのヒゲをつけたお父さん雪だるま、赤い葉っぱで口紅を塗った唇を表現したお母さん雪だるま、頭に枝を何本も挿したツインテールの友達雪だるま、サンタの帽子を被ったサンタ雪だるまが、仲良く並んでいた。
「"そんなに好きだったのに、なんで今は作らないの?"か……」
 由良はまふゆの言葉を思い返し、LAMPに戻った。
 今夜も雪は降り続くらしい。由良は「どんな雪だるまを作ろうか」と考えながら、新しく降り積もった雪の上に足跡をつけ、歩いていった。

『雪色暗幕、幻燈夜』第四話「サンタと雪だるまっ娘」終わり
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