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冬編①『雪色暗幕、幻燈夜』
第二話「ユキの幻」⑵
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日付が変わり、客達がうつらうつらとしてきた頃。
女子高生の一人がまどろみつつも、外を見て、「真っ暗だね」と友人に言った。
友人は彼女から借りた小説を中断し、窓の外を見た。日付が変わったことで、近くにある店は軒並み店を閉まり、店の前の大通りを通る車も減った。曇っているのか、夜空には月も見えない。
LAMPの外は完全な闇だった。
「ほんと、真っ暗。それに寒そう」
「ね。いっそ、雪が降ってたら良かったのに」
女子高生は窓を見つめ、ボソッと呟く。
当然、友人は「えー? 雪ぃ?」と不満の声を上げた。
「雪なんて降ったら、もっと寒くなるじゃん。私は寒いの苦手だから、嫌」
「そう? 雪が降ってたら、もっとヒュッゲっぽくない?」
「まぁ、それはそうかもしれないけど」
友人は理解しがたいと言わんばかりに、顔を歪める。
女子高生は友人の表情など意に介さず、気持ち良さそうにビーズクッションに体を埋め、降るはずのない雪を待ち焦がれた。
「雪、降らないかなぁ……」
翌早朝、ヒュッゲの参加者達を見送った後、由良は空から白い物が降ってくるのを見た。
試しに手を出すと、真っ白な雪のカケラが手の平にフワッと着地した。雪のカケラは由良の手の体温で溶け、透明な水になる。不思議と、冷たくなった。
「中林さん、雪降ってるわよ」
「ふぇ?」
由良は、後片付けをしながらうつらうつらとしていた中林に声をかける。
雪と聞いて、中林は一瞬目を覚まし、フラフラとした足取りで窓に近寄った。外の景色をじっくり確認し、雪を探す。
しかし暫く観察しても、由良が言うように雪は確認出来ず、中林は「んあ?」と首を傾げた。
「由良さん……雪、降ってないですよ。見間違いじゃないですか?」
「え?」
由良は再度、空を見上げる。
すると先程よりもさらに大量の雪が降ってきていた。いつのまにか体中に雪がまとわりつき、白くなっている。
「何言ってるの? こんなに降ってるじゃない。外に出て、よく見てご覧なさいよ」
「えー、寒いから嫌ですぅ」
「いいから出てこんか」
由良は中林を無理やり、店の外へ引っ張り出す。
遠くの景色が白く霞んで見えるほど、大粒の雪が降りしきっていたが、中林は一切反応せず、キョトンとしていた。
「いや、ちょっと曇ってはいるけど、晴れてますよ」
「本当に?」
「えぇ」
中林は外の寒さに、すっかり目が冴えたらしく、ハッキリとした受け答えを返し、頷く。
吹雪の中、大した防寒着も身につけずに立っているその姿は、かなりシュールで寒々しかった。
「早く中に戻りましょ? 今のうちに仮眠取って、午後からのシフトに備えないと」
「……そうね」
由良は歩道に薄っすら降り積もった雪を踏みしめ、LAMPの店内に戻った。
仮眠を取り、午後の仕事に戻っても、雪はまだ降り続けていた。
他の従業員も、客も、LAMPの前を通り過ぎていく通行人も、誰も雪に気付いていない。誰一人傘を差さず、吹雪の中を苦もなく歩いていた。
客の頭や肩には薄っすら雪が積もっていたものの、誰も払い落とそうとせず、そのまま店内へ入ってくる。雪は次第に溶け、水滴と化したものの、どういうわけか床は一切濡れていなかった。
由良は
「営業に支障が無ければいい」
と自分に言い聞かせ、雪を無視し続けた。
どんなに外が吹雪いていても、必要以上の防寒着は着ず、傘を差さずに外へ出た。
客を見送る際、「足元に気をつけてお帰り下さい」等、雪に関して一切の忠告をしなかった。言わないことに文句をつけてくる客もいなかった。
由良はこの不可思議な現象の正体が〈心の落とし物〉かもしれないと疑いながらも、対処できずにいた。
何処の誰の〈心の落とし物〉なのかも分からない。そもそも、これはどういった未練から生まれたのか。皆目見当がつかなかった。
女子高生の一人がまどろみつつも、外を見て、「真っ暗だね」と友人に言った。
友人は彼女から借りた小説を中断し、窓の外を見た。日付が変わったことで、近くにある店は軒並み店を閉まり、店の前の大通りを通る車も減った。曇っているのか、夜空には月も見えない。
LAMPの外は完全な闇だった。
「ほんと、真っ暗。それに寒そう」
「ね。いっそ、雪が降ってたら良かったのに」
女子高生は窓を見つめ、ボソッと呟く。
当然、友人は「えー? 雪ぃ?」と不満の声を上げた。
「雪なんて降ったら、もっと寒くなるじゃん。私は寒いの苦手だから、嫌」
「そう? 雪が降ってたら、もっとヒュッゲっぽくない?」
「まぁ、それはそうかもしれないけど」
友人は理解しがたいと言わんばかりに、顔を歪める。
女子高生は友人の表情など意に介さず、気持ち良さそうにビーズクッションに体を埋め、降るはずのない雪を待ち焦がれた。
「雪、降らないかなぁ……」
翌早朝、ヒュッゲの参加者達を見送った後、由良は空から白い物が降ってくるのを見た。
試しに手を出すと、真っ白な雪のカケラが手の平にフワッと着地した。雪のカケラは由良の手の体温で溶け、透明な水になる。不思議と、冷たくなった。
「中林さん、雪降ってるわよ」
「ふぇ?」
由良は、後片付けをしながらうつらうつらとしていた中林に声をかける。
雪と聞いて、中林は一瞬目を覚まし、フラフラとした足取りで窓に近寄った。外の景色をじっくり確認し、雪を探す。
しかし暫く観察しても、由良が言うように雪は確認出来ず、中林は「んあ?」と首を傾げた。
「由良さん……雪、降ってないですよ。見間違いじゃないですか?」
「え?」
由良は再度、空を見上げる。
すると先程よりもさらに大量の雪が降ってきていた。いつのまにか体中に雪がまとわりつき、白くなっている。
「何言ってるの? こんなに降ってるじゃない。外に出て、よく見てご覧なさいよ」
「えー、寒いから嫌ですぅ」
「いいから出てこんか」
由良は中林を無理やり、店の外へ引っ張り出す。
遠くの景色が白く霞んで見えるほど、大粒の雪が降りしきっていたが、中林は一切反応せず、キョトンとしていた。
「いや、ちょっと曇ってはいるけど、晴れてますよ」
「本当に?」
「えぇ」
中林は外の寒さに、すっかり目が冴えたらしく、ハッキリとした受け答えを返し、頷く。
吹雪の中、大した防寒着も身につけずに立っているその姿は、かなりシュールで寒々しかった。
「早く中に戻りましょ? 今のうちに仮眠取って、午後からのシフトに備えないと」
「……そうね」
由良は歩道に薄っすら降り積もった雪を踏みしめ、LAMPの店内に戻った。
仮眠を取り、午後の仕事に戻っても、雪はまだ降り続けていた。
他の従業員も、客も、LAMPの前を通り過ぎていく通行人も、誰も雪に気付いていない。誰一人傘を差さず、吹雪の中を苦もなく歩いていた。
客の頭や肩には薄っすら雪が積もっていたものの、誰も払い落とそうとせず、そのまま店内へ入ってくる。雪は次第に溶け、水滴と化したものの、どういうわけか床は一切濡れていなかった。
由良は
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と自分に言い聞かせ、雪を無視し続けた。
どんなに外が吹雪いていても、必要以上の防寒着は着ず、傘を差さずに外へ出た。
客を見送る際、「足元に気をつけてお帰り下さい」等、雪に関して一切の忠告をしなかった。言わないことに文句をつけてくる客もいなかった。
由良はこの不可思議な現象の正体が〈心の落とし物〉かもしれないと疑いながらも、対処できずにいた。
何処の誰の〈心の落とし物〉なのかも分からない。そもそも、これはどういった未練から生まれたのか。皆目見当がつかなかった。
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