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秋編①『紅葉散り散り、夕暮れ色』
第四話「イチョウの吹雪」⑵
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やがて由良は洋燈神社にたどり着いた。
洋燈神社は商店街の行き止まりにあり、広場のように開けている。神社を囲うように鬱蒼と木々が生い茂り、祠のそばには御神木でもあるイチョウの木が植わっていた。
そのイチョウから、無数の葉が放たれていた。
「……これ、どうしたらいいのよ」
イチョウは突風と共に、商店街へと無尽蔵に葉を放っていた。
膨大な葉は着実に商店街の通りを黄色に埋めていく。神社の周囲も、商店街へ運ばれきれなかったイチョウの葉で埋め尽くされ、黄色い海と化していた。
あまりの惨状に、由良はどうしていいのか分からず、呆然とする。
ともかく突風にあおられないよう、鳥居の柱にしがみついた。
「そ、添野さん~!」
「伊調さん?!」
そこには涙目の伊調がいた。
由良とは反対の鳥居の柱にしがみつき、震えている。一緒にいたはずの中林の姿はなかった。
「いつからそこに? 中林はどこへ行ったんです?」
「添野さんを呼びに行くと言って、商店街へ……ごめんなさい、これは私のせいなんです」
イチョウが異変を見せる少し前、伊調はイチョウの木を見るため、中林と共に洋燈神社を訪れた。
異変が起こる前のイチョウは背後から夕日を受け、黄金に輝いていた。その美しさに、初めて見る伊調も、見慣れているはずの中林も、心奪われていた。
「綺麗ですね」
「ほんと! これで商店街に葉っぱが散ってたら、もっと綺麗だったのにー!」
残念そうに言う中林に、伊調も「そうですね」と頷く。
「私も見たかったです。黄金色に染まった、商店街を……」
そう彼女が口にしたその時、風もないのにイチョウがザワザワと揺れ始めた。
イチョウが揺れると一枚、また一枚と葉が散り落ち、どこからともなく吹いてきた風に乗って、商店街へと飛んでいく。伊調は風に乗って飛んでいった葉の行方を目で追い、振り向いた。
「今の風……なんだか妙じゃありませんか?」
「風?」
直後、また新たに数枚の葉が背後から商店街へ飛んでいった。
今度は先ほどよりもさらに風の威力が強まり、伊調の髪やスカートのすそがなびくほど強かった。
「ほら、今吹いている風ですよ。イチョウから吹き出てるみたいじゃありませんか?」
すると中林はポカンとした表情で首を傾げた。
「何言ってるんですか、伊調さん。風なんて少しも吹いてないですよ」
「え……?」
次の瞬間、「ヒュォォッ」と音を立てて、イチョウから猛烈な突風が吹き荒れた。
同時に、異常な量の葉が枝から散り、風に乗って商店街へと吹雪のように襲いかかっていった。
「キャァッ!」
伊調も風で吹き飛ばされそうになり、咄嗟に鳥居の柱へとしがみついた。
「伊調さん、どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」
一方、中林は一切の異変を感じていないのか、不思議そうに伊調を見る。
彼女の髪や服は全く風の影響を受けておらず、この暴風の中でも平然と立っていった。
「な……中林さんこそ、こんなに風が吹いてるのに、平気なんですか?」
「だから風なんて吹いてないですって。ほら、商店街のお客さん達だって平気でしょう?」
葉が邪魔で見えにくかったが、中林の言う通り、アーケードの下を歩いている人々は誰一人として異変に気づいていなかった。今まさにイチョウの葉が吹雪のように彼らへ襲いかかっているというのに、何事もなく買い物を楽しんでいる。
そこでようやく伊調は、おかしいのは彼らではなく、自分の方だと気づいた。
同時に、先ほど自分が何と言ったのか思い出し、青ざめた。
『私も見たかったです。黄金色に染まった、商店街を……』
「……まさか、〈心の落とし物〉? 私がさっきあんなことを言ったせいで?」
「えっ、〈心の落とし物〉?! 今見えてるんですか?!」
伊調の言葉を聞き、中林は興奮した様子で周囲を見回す。
「何処?! 何処にいるんですか?!」
「何処って……この辺り全部?」
「全部?!」
その後、動けない伊調に代わって中林が由良に助けを求めに、商店街へと走っていったのだった。
洋燈神社は商店街の行き止まりにあり、広場のように開けている。神社を囲うように鬱蒼と木々が生い茂り、祠のそばには御神木でもあるイチョウの木が植わっていた。
そのイチョウから、無数の葉が放たれていた。
「……これ、どうしたらいいのよ」
イチョウは突風と共に、商店街へと無尽蔵に葉を放っていた。
膨大な葉は着実に商店街の通りを黄色に埋めていく。神社の周囲も、商店街へ運ばれきれなかったイチョウの葉で埋め尽くされ、黄色い海と化していた。
あまりの惨状に、由良はどうしていいのか分からず、呆然とする。
ともかく突風にあおられないよう、鳥居の柱にしがみついた。
「そ、添野さん~!」
「伊調さん?!」
そこには涙目の伊調がいた。
由良とは反対の鳥居の柱にしがみつき、震えている。一緒にいたはずの中林の姿はなかった。
「いつからそこに? 中林はどこへ行ったんです?」
「添野さんを呼びに行くと言って、商店街へ……ごめんなさい、これは私のせいなんです」
イチョウが異変を見せる少し前、伊調はイチョウの木を見るため、中林と共に洋燈神社を訪れた。
異変が起こる前のイチョウは背後から夕日を受け、黄金に輝いていた。その美しさに、初めて見る伊調も、見慣れているはずの中林も、心奪われていた。
「綺麗ですね」
「ほんと! これで商店街に葉っぱが散ってたら、もっと綺麗だったのにー!」
残念そうに言う中林に、伊調も「そうですね」と頷く。
「私も見たかったです。黄金色に染まった、商店街を……」
そう彼女が口にしたその時、風もないのにイチョウがザワザワと揺れ始めた。
イチョウが揺れると一枚、また一枚と葉が散り落ち、どこからともなく吹いてきた風に乗って、商店街へと飛んでいく。伊調は風に乗って飛んでいった葉の行方を目で追い、振り向いた。
「今の風……なんだか妙じゃありませんか?」
「風?」
直後、また新たに数枚の葉が背後から商店街へ飛んでいった。
今度は先ほどよりもさらに風の威力が強まり、伊調の髪やスカートのすそがなびくほど強かった。
「ほら、今吹いている風ですよ。イチョウから吹き出てるみたいじゃありませんか?」
すると中林はポカンとした表情で首を傾げた。
「何言ってるんですか、伊調さん。風なんて少しも吹いてないですよ」
「え……?」
次の瞬間、「ヒュォォッ」と音を立てて、イチョウから猛烈な突風が吹き荒れた。
同時に、異常な量の葉が枝から散り、風に乗って商店街へと吹雪のように襲いかかっていった。
「キャァッ!」
伊調も風で吹き飛ばされそうになり、咄嗟に鳥居の柱へとしがみついた。
「伊調さん、どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」
一方、中林は一切の異変を感じていないのか、不思議そうに伊調を見る。
彼女の髪や服は全く風の影響を受けておらず、この暴風の中でも平然と立っていった。
「な……中林さんこそ、こんなに風が吹いてるのに、平気なんですか?」
「だから風なんて吹いてないですって。ほら、商店街のお客さん達だって平気でしょう?」
葉が邪魔で見えにくかったが、中林の言う通り、アーケードの下を歩いている人々は誰一人として異変に気づいていなかった。今まさにイチョウの葉が吹雪のように彼らへ襲いかかっているというのに、何事もなく買い物を楽しんでいる。
そこでようやく伊調は、おかしいのは彼らではなく、自分の方だと気づいた。
同時に、先ほど自分が何と言ったのか思い出し、青ざめた。
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「えっ、〈心の落とし物〉?! 今見えてるんですか?!」
伊調の言葉を聞き、中林は興奮した様子で周囲を見回す。
「何処?! 何処にいるんですか?!」
「何処って……この辺り全部?」
「全部?!」
その後、動けない伊調に代わって中林が由良に助けを求めに、商店街へと走っていったのだった。
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