贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
269 / 327
第13話(第2部 第2話)「新入生ハント」

漆:最後の部員

しおりを挟む
 最終下校時刻五分前、暗梨が一人の男子生徒を連れて戻ってきた。
 長身でハンサムな男子で、眠そうに目をショボショボさせていた。
「たっだいまー! 新しい部員、連れて来たわよ!」
「おかえりー。時間、ギリギリだったね」
「間に合ったんだからいいでしょ。それより二星さん、分裂してない?」
「これであと一人かぁ……明日も勧誘に行かないとだな」
 成田は憂鬱そうにため息をつく。
 すると「安心なさい!」と暗梨は胸を張って断言した。
「私も入部するから!」
「心変わり、早っ!」

     ◯

 暗梨はオカ研の部室を飛び出した後、目についた生徒を片っ端からカツアゲ……ではなく、勧誘していった。
「ねぇ、オカ研に入らない?! っていうか、入って! 私のファッション研究部入部のために!」
「ヒィィッ! 自販機のジュースおごるから、勘弁してくださいぃぃっ!」
「嫌! コンビニ限定の高級チョコレートドリンクが飲みたいわ!」
「うぅ……意外と高い」
 皆、「オカ研に入部するより、カツアゲされた方がマシ」と言わんばかりに、暗梨にジュースをおごり、逃げ去る。
 校内も隅から隅まで回り、屋上にたどり着いた頃には日が暮れかけていた。
「……まずい。もうすぐタイムリミットになっちゃう」
 暗梨はスマホで時間を確認し、舌打ちする。
 ほとんどの生徒は下校した。校内をもう一周したところで、無駄足になるだろう。
 念のため屋上を見回したが、人の姿も気配もなかった。校庭では蒼劔と乱魔が剣を交えていた。
「アオイ君は僕に聞きたいことないのー?」
「ある」
「なになにー?」
「お前を消す方法」
「あははっ! そんなのないよ!」
(……関わったらめんどくさそ。見つかる前に、さっさと戻るか)
 暗梨は見て見ぬフリをし、屋上から立ち去ろうとした。
 その時、頭上から声が聞こえた。
「ふぁぁ……よく寝た」
「っ?!」
 反射的に上を向く。誰もいなかったはずの塔屋の上に、見知らぬ男子生徒が寝っ転がっていた。
 男子生徒は起き上がり、大きくあくびをする。夕焼けに染まった西の空を見て、ぽかんと口を開いた。
「……あれ、もう夕方? 入学式は?」
「とっくに終わったわよ」
「そっか。せっかく早起きして来たのに……残念」
 男子生徒は残念そうに言い、伸びをする。振り返ったその顔を見て、暗梨はハッとした。
 彼は暗梨が昨年のクリスマスに名曽野駅で偶然出会った、正体不明の青年だった。あの時と同じように、屋上で昼寝していたらしい。
「……すっごい偶然。まさか、この学校の生徒だったなんて。もう会えないと思ってたのに」
 暗梨は驚くと同時に、人間である彼との再会を喜んでいる自分に戸惑った。
(って、何を言ってるのよ私は! 相手は人間なのよ?! その上、術者かもしれないのに!)
 葛藤する暗梨をよそに、男子生徒は塔屋から降りてくる。寝起きとは思えない、軽やかな動きだった。
 男子生徒も暗梨に見覚えがあったらしく、「あれ?」と目を見張った。
「ゴスロリ着てた、可愛い子だ。クリスマスに名曽野駅のイルミネーションの前で会ったよね?」
「かわッ?!」
 暗梨は思わず赤面する。
 嫌味でも皮肉でもない褒め言葉をもらったのは、これが初めてだった。
「そ、そうね! そういえば会ったわね!」
「うん。君も節木高校の生徒だったんだね。何年生?」
「一年よ。クラスはD組。簡単な授業ばっかで、つまんないわ」
「僕も一年生だよ。クラスは別だけど、仲良くしてくれると嬉しい。寝てばかりいるせいか、誰も知り合いがいないんだ」
 男子生徒は寂しげに目を伏せる。
 暗梨は「寝なければいいじゃない」とツッコミかけたが、
(……そういえば、クリスマスの時も駅で寝てたわよね。徹夜明けでも飛び起きそうな状況だったのに。何か事情があるのかも)
 と思い、黙っておいた。
「私で良ければ、喜んで。私は華鬼橋暗梨。貴方は?」
合歓ねむ夜澄よずみ。気軽に夜澄って呼んでくれていいから」
「わ、私も、暗梨って呼んでくれると嬉しい……かも」
 お互い自己紹介を済ませたところで、ふと暗梨は自分の本来の目的を思い出した。
 合歓をオカルトの魔窟へ連れて帰るのは忍びないが、時間は刻一刻と迫っている。暗梨はダメ元で、彼に尋ねた。
「そうだ! 知り合いが欲しいなら、オカルト研究部に入らない? 無駄に人多いし、一人くらいは夜澄君と気が合う人もいると思うわ」
「本当? 部活中に寝ても、怒られない?」
「大丈夫よ。そんなやつがいたら、私が地球の裏側へ飛ばしてやるから」
「飛ばす?」
 合歓はさして悩むことなく、「分かった」と頷いた。
「いいよ。僕、オカルト研究部に入る」
「やった! ありがとう、助かったわ!」
 暗梨は飛び跳ね、喜んだ。
「急で悪いんだけど、これから一緒に部室に来てくれる? 最終下校時刻までに部員を連れて来るよう言われてるのよ」
「分かった」
 最終下校時刻まで、残り五分。
 いくら暗梨の足が速いとはいえ、今から部室に向かっても約束の時刻には間に合わないだろう。合歓も寝起きで、とても走れる状態ではなかった。
「ちょっと目、つむっててくれる?」
「うん」
 合歓はコクッと頷き、目をつむる。
 暗梨ははぐれないよう彼の手を握り、足下に彼岸花を咲かせた。

     ◯
 
「もちろん、ファッション研究部にも入るわ。そういう約束だもの。異論はないわね?」
 不知火は渋々頷いた。
「時間内に部員を連れて来たんだ、仕方ない。君の入部を許可しよう」
「よっしゃァ!」
 暗梨は拳を振り上げ、喜ぶ。
 クラスメイトである二星姉妹も「良かったね、華鬼橋さん」と、一緒になって喜んだ。
「自己紹介の時も"勉強はどうでもいい。ファッション研究部に入りたい"って言ってたもんね」
「文化祭でオカ研の出し物の衣装も作ってね」
「ありがとう、二星さん……って、やっぱり増えてない? 人間に擬態したアメーバなの?」
「アメーバなわけないじゃーん」
「ちゃんと人間だよー」
「???」
 暗梨は一卵性の双子の存在を知らず、終始目を白黒させていた。

     ◯

 こうしてオカ研はかつての仲間である飯沼が帰還し、新たな部員と顧問を迎えた。
 つかの間の平穏に、
「部活、楽しかったなぁ」
 と陽斗は癒されつつ、飯沼とおキョウと共に帰路についた。
 なお、乱魔を追っていった蒼劔は陽斗達が節木荘に到着して、しばらく経った後に戻って来た。
「陽斗! あずきフェアは?!」
「対象商品はひと通り買っておいたよー。好きなのを選んで多べてね」
「アオイくーん。僕は桜もちが食べたいなぁ」
「後にしてくれ、乱魔」

(第14話(第2部 第3話)へ続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...