上 下
212 / 239
第七章 忍び寄る悪夢

212.欺瞞

しおりを挟む
第051日―2


救世主の休日~ハーミルとお出かけ編~最終話
『ラブコメを封殺する者達には、呪いの鉄槌を!』で御座います。


――◇―――◇―――◇――


突然の轟音を耳にした僕は、ハーミルを護るように霊力の盾を展開した。
その直後、入り口方向から、僕の“光源”とは明らかに異なる明るい光が差し込んできた。
そして松明たいまつを手にした数人の男達が、洞窟内へと入って来た。
もしかして“救助隊”だろうか?
しかし彼等は、野宿セットの傍に立つ僕とハーミルの姿に気付くと、何故か拍子抜けしたような顔になった。

「あれ~? 生きているぞ?」
「おいおい、話が違うじゃないか」

隣に立つハーミルが、物凄い形相で男達を睨みつけた。

「そりゃね、来るのは分かっていたけど、あなた達、来るタイミングが最悪なんですけど」
「タイミング? 何の話だ?」
「俺達は……そう! 生き埋めになっていたお前達を助けようと……」

しかし男達の言葉が終わる前に、ハーミルが凄まじい殺気と共に、腰の剣を抜き放った。

「今の私は、史上最高レベルに機嫌が悪いの。嘘ばっかりついていると、首から上、斬り飛ばすわよ!?」
「ま、待て! 何をそんなに怒っているんだ!?」
「俺達はまだ何も……」

ハーミルの物凄い剣幕に気圧けおされたらしい男達が後退あとずさった。
見かねた僕は、ハーミルをたしなめた。

「ハーミル、助けに来てくれた人達に、こんな態度を取ったら……」

しかしハーミルは僕の方を見向きもせず、男達に予想外の言葉を投げかけた。

「残念ながら、あなた達の“使い魔”は全部、奥で死んでいるわよ?」

使い魔?
何の話だ?

首を捻ったけれど、ハーミルの言葉を聞いた男達の間には、ざわめきが起こった。

「ま、まさか……」
「だけどこいつらが生きているって事は……」

動揺する男達に、ハーミルが追い打ちのような言葉を投げ掛けた。

「調べてきたら? 傷一つなく、死んでいるから」

男達の一人が、奥へと走っていった。
暫くすると、男が悲鳴のような叫び声を上げながら、走って戻って来た。

「そいつの言う通りだ! 皆死んでいる。しかも傷一つ無いまま」

動揺が大きくなる男達に、ハーミルが冷ややかな視線を投げかけた。

「私達ね、危害を加えようとしてくる相手を呪い殺せるの」
「「ええっ!?」」

何それ、怖い。

男達と一緒に、思わず僕も素っ頓狂な声を上げてしまった。
ハーミルがそのまま言葉を続けた。

「たとえばソロとか二人連れとかの冒険者を騙してここへ閉じ込めて、使い魔達がその冒険者を殺した頃見計らって入り口開いて入ってきて、死体漁りしようとか……そんな事考えている不埒ふらちな連中にも、呪いをかける事が出来るの」
「お、俺達はそんな事……」
「呪いがかかったが最後、どうあっても死の運命は逃れられないわ。そして呪われた者は、ある日唐突に死ぬの。奥の使い魔達みたいにね」
「ひっ!」

男達の中には、腰を抜かしてガタガタ震えだす者まで現れた。
ハーミルが残酷そうな笑みを浮かべて、彼等に問いかけた。

「まさかあなた達は、私達に危害を加えようとか……思ってないわよね?」
「危害なんてそんな……」
「た、助けてくれ! 俺はこいつに騙されていたんだ」
「何言ってんだ。お前だろ? 言い出しっぺは!」

状況がようやく飲み込めた僕が生暖かく見守る中、男達が少々お粗末な感じの内輪もめを始めた。
少しの間、その様子を観察する素振りを見せた後、ハーミルが冷ややかに宣言した。

「あなた達、今日中に自首しなさい。そうしないと解けない呪いをかけたわ。それとも、ここで私と死合いして、自分の運試ししてみる?」

彼等は皆、自首する方を選んだ。

「期限は今日の日没。それまでに、アルザスの衛兵詰め所に自首しなさい。そうすれば呪いを解いてあげるわ」



野宿セットを片付けて洞窟から出た所で、ハーミルが僕に笑顔を向けてきた。

「まあ、あれだけ脅しときゃ、自首するかどうかはともかく、当分悪さはしないでしょ」

僕は一応、聞いてみた。

「いつ気が付いたの?」
「最初からよ」
「えっ?」

驚く僕を見て、ハーミルが少々呆れ顔になった。

「考えてもみなさい。あんな小さな女の子一人で、冒険者様~とか三文芝居、引っ掛かる方がどうかと思うけど」
「でもでも、冒険者ギルドに依頼するには、相応のお金が必要だって……」
「あ・の・ね。そんなお人好しでどうするの? 小さい子使って、相手の善意に付け込もうって手口、もう陳腐過ぎて笑っちゃうレベルよ?」

つまり、善意が逆手に取られてしまった?
いやでも、だからと言って、あの状況でそんな風に裏を読んだり……普通は出来ないよね?
ってあれ?
もしかして、ちゃんとそういう裏を読んでいたから、冒険者の皆さん、レミアの話に耳を貸そうとしなかった?

そんな事を考えていると、ハーミルが悪戯っぽい顔になった。

「まあ、私も楽しめたから、結果オーライって事で」
「そ、そう?」
「それに私、そんなお人好しな所も含めてカケルの事が好きなわけだし」
「えっ?」

思わずハーミルの顔を見返してしまった。
僕の視線に気付いた彼女は、何故か耳まで真っ赤にしてあたふたし始めた。

「あ、その、お人好しなのもカケルの魅力って意味で……あ、違う! そうじゃなくて、友達として! そうそう、カケルって友達として好きって事で……」
「う、うん」

しかしハーミルは、何故かそのまま頭を抱えてうずくまってしまった

「ああ……私ってバカ? バカなの? わざわざ言い直す必要、ある? なんなの一体!?」
「え~と……大丈夫?」

ハーミルはなおもひとしきり、なにやらぶつぶつつぶやいた後、ようやく立ち上がった。

「大丈夫! 勝負はまだ終わってないわ!」
「何の勝負?」
「気にしないで。さ、帝都に戻りましょ」



自宅に戻り、準備を済ませたハーミルを、僕とメイは転移の魔方陣まで見送ることにした。
道々、ハーミルが僕達に声を掛けてきた。

「カケル、メイ、私がいないからって、ハメ外しちゃダメよ?」
「ハメ外すって定義がよく分らないけど、規則正しい生活、心掛けるようにするよ」

ハーミルは少しの間、僕の顔をまじまじと眺めた後、メイにささやいた。

「ちょっと位カケルに甘えるのは、大目に見るけどさ。ちゃんと節度を守るように」
「心配しないで。私達は、節度を守ってお付き合いしているから」
「お付き合いって、メイ! あなたねぇ」
「あら? 友達付き合いの話じゃ無かったの?」

メイは恐らくハーミルをからかっているのだろう。
それに気付いたらしいハーミルの機嫌が悪くなった。

初日第203話、せっかく大目に見てあげたのに。今度から、夜、カケルの部屋に忍び込んだら、すぐに連れ戻しに行くわよ?」
「……気付いていたの?」
「ふっふん。気付いてなかったとでも思ったの?」
「なんで初日、何も言わなかったの?」
「それは、メイが寂しがっていたの、知っていたし。それにカケルの事だから、メイに何もしないに決まっていたし」

今度は、メイの機嫌が悪くなった。

「ハーミルだって、どうせ昨晩、カケルと何も無かったくせに」
「そういう事、言うかな?」

二人でごしょごしょ何かを話していると思ったら、急に険悪なムードになってしまった。
さらに何かをごしょごしょ言い合う二人に、僕は声を掛けてみた。

「ほら、二人とも。もうすぐ転移の魔法陣だよ」



ハーミルを見送った後、僕はメイと二人で、もう一度、あの腕輪を作ってくれた古民家風の建物へ向かってみることにした。

十数分程で辿たどり着いたその建物のたたずまいは、一昨日と変わり無さそうに見えた。
僕は建物の扉に手を掛けてみた。
しかし扉は、固く閉ざされている。
そのまま霊力を展開して、内部の様子を探ってみた。
内部は何の変哲も無い廃屋であった。
ほこりが積もり、ここ数日以内に誰かが侵入した形跡も感じられない。
閉店して店主が故郷に帰った、というミーシアさんの言葉に、いつわりは無さそうであった。
僕はメイの方に顔を向けた。

「やっぱり、閉店しちゃっているみたいだ。中も、ただの廃屋って感じだし」
「でも確かに、ハーミルはこの中に入って行ったんだけど……」

そう口にしながら、メイも古民家の扉に手を掛けた。
どうやら、内部を魔力で探っている様子であった。
やがてメイが首を傾げながら、手を離した。

「カケルの言う通り、この中はただの廃屋みたい」
「もしかして、ハーミル、近くの似た感じの古民家に入って行ったんじゃないの?」
「そんなはずは……」

釈然としない想いを残したまま、僕達はその場を立ち去る事にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...