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第三章 ついに巡り合う二人

40.霊力

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第016日―2

一方、カケル達は……(第36話の続きです)


僕、イクタスさん、ノルン様、そしてハーミルの四人が転移した先は、石造りの壁で出来たホールのような場所であった。
周囲に視線を向けると、少し離れた壁際に、竜の巣の最上層に設置されていたのとそっくりな祭壇と……!

「メイ!」

僕は祭壇の傍に、仰向けに倒れている彼女を発見して駆け寄った。
慌てて抱き起した彼女は、僕の腕の中、ぐったりとして身動き一つしない。
一瞬、最悪の事態を想像しそうになってしまったけれど、彼女の身体の温かさと、かすかに上下する胸の動きが、彼女がちゃんと生きている事を僕に教えてくれた。

近付いて来たノルン様が、僕に声を掛けて来た。

「見せてみよ」

僕はメイをそっと床に横たえた。
ノルン様は、僕の隣でメイの傍にしゃがみ込み、彼女に右手をかざした。
数秒後、ノルン様が口を開いた。

「外傷は無い。どうやら気を失っているだけのようだ」

そしてノルン様は立ち上がった。

「竜の巣の時のように、何か凄まじい力の逆流を受けたのかもしれぬ。祭壇を調べてみよう」


祭壇に近付いたノルン様が、詠唱を開始した。
彼女の額が青く輝きだすのが見えた。
その瞬間、僕は何か得体の知れない力が、凄まじい奔流となって部屋の中に満ちていくのを感じた。
それは、僕の精神を異様なまでに研ぎ澄ませていく。
そして……

突然、ここで昨日起こった出来事の全てが“視えた”!

その衝撃的な情景に、僕は思わずよろめいた。

「カケル!?」

慌てた感じで駆け寄って来たハーミルが、僕の背中を支えてくれた。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」

そう言葉を返しはしたけれど、全身から脂汗が噴き出し、自分でも顔が引きつっているのが分かる。
そんな僕達の様子に気付いたらしいノルン様が、詠唱を中断してこちらを振り返った。

「どうしたのだ?」

僕は呼吸を整えながら、ノルン様に声を掛けた。

「今、視えました。アレルさん達とナイアさんは昨日、確かにここにいて……」

ノルン様が怪訝そうな顔になった。

「見えた? 何の話だ?」
「ここで儀式を行っていた“相手”と交戦して……」

僕はたった今“視た”ばかりの、しかし信じられない情景についての説明を試みた。

「400年前に飛ばされました」

ノルン様とハーミルの目がこれ以上無い位、大きく見開かれた。

「400年前に? 飛ばされた??」
「色々な偶然が重なって、過去に繋がる門が開いたみたいです」

話している自分が一番信じられない思いであった。
つまり、アレルやナイアさん達は、タイムスリップしてしまったという事か?
しかし何故、自分にそれが分かった?
今、この部屋に満ちている異様な力は何だ?

「それは『大いなる力の干渉』があったという事か?」

そう問いかけて来たノルン様の声は上ずっていた。
と、それまでただ黙って成り行きを見守っていたらしいイクタスさんが口を開いた。

「今回の件、『大いなる力の干渉』が、直接彼等を過去へと運んだわけではありませんぞ。その力の源泉が、暴走してしまったはずみですじゃ」
「イクタス殿? それは一体……」
「ノルン殿下、そこの祭壇にご自身の宝珠を捧げてみなされ。それがカケルに力を与え、彼等を再びここに連れ戻す事に繋がりましょうぞ」

ノルン様がイクタスさんを睨んだ。

「イクタス殿、まさかとは思うが、今回の件、貴殿の差し金では無いだろうな?」
「残念ながら、わしは何も画策しておりませんぞ。むしろ、運命が勝手に予定調和を起こしているだけですわい」

イクタスさんはひとしきりからからと笑った後、居住いずまいを正してノルン様に向き直った。

「ノルン殿下、あなた様もカケルの“力”をご覧になられたはず」
「力?」
「実は、カケルには何の加護も魔法も掛けておりませなんだ。致命傷を易々と癒し、死を無効化し、マルドゥクの加護を貫通して奴を退しりぞけたのは、カケル自身が持つ“力”によるものですぞ」
「!」
「あれこそが伝承に語られる『大いなる力の干渉』の本質。かつて数多あまたの勇者や魔王をほふってきた“力”ですじゃ」
「勇者や魔王を屠る? カケルがここ数千年、それを行ってきた、とでも申されるか!?」
「正確に申しますと違いますな。それを行ってきたのは、『守護者』と呼ばれる存在。カケルは偶然にも、『守護者』たる『彼女』の“力”を継承する事になっただけですぞ」

ノルン様とハーミルの顔が驚愕で歪む。
一方、僕もイクタスさんの話に混乱していた。

『守護者』?
“力”を継承??

「イクタス殿、貴殿は何を言って……?」
「『彼女』は数千年の長きにわたり、勇者と魔王の戦いを調整してきました。即ち、光と闇の戦いの際、一方が強くなり過ぎぬように、“枝打ち”を行ってきたのです」

僕達は突如語られ出した、伝承の真実に圧倒されていた。

「長年の研究の結果、私とエンリルの二人は、『彼女』が『彼方かなたの地』なる異界より、この世界にやって来る事を突き止めました。そして17年前、私はエンリル、そして殿下の母上ディース様らと共に、長き試行錯誤の末、『彼方かなたの地』への扉を開き、『彼女』をその地で発見するに至ったのです」
「母上がそのような事にかかわっていたとは……」
「ディース様は我等の想いを知り、極秘にご協力下さりました。『彼方かなたの地』への扉を開くには、宝珠が不可欠でしたからな。後にあのような事になられて……」

イクタスさんの顔が悲しげに歪んだ。

「イクタス殿! 貴殿はもしや、私の母上と死産とされた妹の行方について、何かご存知なのでは?」

イクタスさんはそれには答えず、言葉を繋いだ。

「『彼女』が最後に“枝打ち”のためにこの世界に現れたのは、400年前。『三人の勇者』つまり、勇者アレルと勇者ナイア、そして勇者ダイスの時代……しかし、勇者アレルと勇者ナイアは本来、そこにいないはずの存在。二人が“枝打ち”されるのは阻止されねばなりませぬ」
「しかし時を超える事等、いかなる秘術を以ってしても可能とは思えぬ」
「二人を過去に運んだのは、霊力と呼ばれる“力”の暴走です。そして霊力を制御できるのも、『守護者』のみ」

そう語って、イクタスさんは僕をじっと見つめてきた。
僕は意をけっして切り出した。

「僕なら……もしかしたら可能かもしれないって事ですよね?」
「カケル!?」

ノルン様とハーミルが一斉に僕の方を見た。

「ここに満ちているのは、昨日行われた儀式の影響で、『彼方かなたの地』から漏れ出した力……アレルさんやナイアさん達を過去に運んだ霊力の残滓ですよね?」

僕の言葉に、イクタスさんがうなずいた。

「そうじゃ。この部屋に漂っておるのは、カケルのみが知覚出来る、霊力と呼ばれる“力”じゃ。おぬしが感じておる通り、『守護者』としての“力”を振るえば、時すら跳躍し得るはずじゃ」
「一体、いつの間にそんな力を継承してしまったのか分からないですが、お陰で今までの出来事のいくつかに合点がてんがいきました」

僕は改めて、致命傷を負っても気が付いたら傷が消えていたり、どう考えても自分より格上の相手を圧倒してしまっていたりした事について、思い返した。
あれはつまり、ことわりを崩し、ことわりを正す『守護者』としての力の賜物だったのであろう。

イクタスさんがノルン様に視線を向けた。

「ノルン殿下、先程も申し上げました通り、宝珠を祭壇に捧げて頂けませぬか? それによって『彼方かなたの地』より霊力の隙間風をここへ吹き込ませる事が出来るはずですじゃ。そしてそれをカケルが制御できれば……」

しかしノルン様の表情が険しくなった。

「それはこの世界の住人にとって、危険な事ではないのか?」

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