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3話 二人目の配下

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「ギャアァァァァ! 勇者だ、勇者が攻めてきたぞ!!」
「誰が、勇者やねん!」

チュドーン

「ピャピャァー!? 助けてくれ! 勇者が現れた!」
「勇者言うな!」

チュドーン

パリカーが敗北した後のイテオロの街は、阿鼻叫喚の生き地獄と化していた。

「あわわ……なんなんだ、あの男は。本当に勇者か?」

パリカーは、敗北後、元魔王ラバス特製の拘束具を嵌められ、地面に転がされていた。
余りの惨状に、彼女の奥歯がカチカチ鳴っている。

「ああなったまおうさまは、手が付けられないんですよ」

傍に立つローザが、遠い目をして、ぼそりと呟いた。

「お、女! あいつは、勇者なんだろう? なぜ、お前はあいつを“まおうさま”と呼んでいるのだ?」
「パリカーさん、あの方は、心の病を患ってらっしゃるのです」
「心の病?」
「そうです。ご自身を魔王として扱わない方々に対して、理性が吹き飛んでしまうという恐ろしい病を……」
「なんと、恐ろしい……」

1時間もかからずに、イテオロの街から魔物は一掃された。
逃れる事に成功した者も多かったが、半壊した街には、千を下らない魔物の死体が残されていた。
因みに、元住民は、皆奴隷とされ、街外れの奴隷小屋に閉じ込められており、街中には一人もいない。
魔物を殲滅してから、元魔王ラバスは、我に返った。

し、しもた!
ついカッとなって、魔物、全滅させてしもた。
もしかしたら、何匹か、配下に出来たかもしれへんのに。

がっくりと肩を落とした元魔王ラバスが、ローザのもとへ戻ってきた。

「まおうさま、お疲れ様です」

頭を下げるローザの傍には、パリカーが転がっている。

せや、この女、捕えてたやん。
こいつ、確か、エセ魔王の四天王やったはず。
配下に出来れば、めちゃ戦力アップや。

気を取り直した元魔王ラバスは、パリカーに改めて声を掛けた。

「パリカーよ、そなた、我に仕える気は無いか?」
「何をほざく、ニンゲン風情が! 誰が、ゆう……」
「ゆう……?」

突如凄まじい殺気が、パリカーに向けられた。
全身からヘンな汗が噴き出した。
傍で、ローザが黙って首を振っている。

ヤバい。
この勇者のビョーキは、本物だ。
……
ちょっと冷静に考えてみよう。
あたいは、勇者に敗北して、イテオロの街を失陥した。
大魔王エンリル様のもとに戻っても、よくて降格、下手すると処刑されるかも。

パリカーは、改めて、元魔王ラバスの顔を見た。

このニンゲン、顔だけだったら、めっちゃ好みなのよね~。
魔王軍に戻るよりは、いっそ……

「あんたについて行っても、あたいは、魔族だよ? ニンゲン共には、何て説明するのさ?」
「案ずるな。我は魔王。配下に関して、人間共に口出しはさせぬ」

そして、元魔王ラバスは、パリカーの方に、身を乗り出した。

「パリカーよ、そなたの実力は、高く評価しておる。我の傍にいよ。そなたが是非欲しい!」

ここや、ここが押し時や!
こいつだけでも配下に加えんと!

元魔王ラバスの顔が、自然、パリカーの顔に近付いた。
パリカーの胸の鼓動が早くなる。

あ、あれ?
なんか、顔が熱いわ。
あたい、なんかめっちゃ口説かれてる?
欲しいって、そんな……直球勝負なのね?
あなたはニンゲン、私は魔族よ?
でも、禁断の恋って燃えるっていうし。

「あ、あの……本当に、私が欲しいの?」
「ああ、我の物になれ」
「……私を捨てたりしない?」

パリカーの瞳は、すっかり乙女になっている。

「当り前じゃ。そなたを決して離さぬ」

貴重な配下♪
しかも、初の魔族の配下♪
辞めたいって逃げても、地獄の底まで追いかけて連れ戻したるからな!

「ま、まおうさま……!」
(あ、落ちた。注;ローザ思考)

「パリカー!」

二人は、がっしりと抱き合った。

「パリカーさん、これから、宜しくお願いしますね」

ローザがにっこり微笑んだ。


3人は、元魔王ラバスの転移魔法で、アルザスの街に戻った。
勇者が、魔王軍の元女幹部を連れて戻って来た形になったが、あまり問題にはならなかった。
どのみち、人間側は、滅亡寸前。
寝返ってくれる魔族がいるなら、かえって儲けもの、と皆考えたようであった。

お昼時、元魔王ラバス達は、街の食堂で、今後について、作戦会議を行う事にした

「パリカーよ、そなたを今日より我が魔王軍四天王の一人に任ずる。今よりそなたは、紅蓮のパリカーと名乗るがよい」
「まおうさま、紅蓮のパリカー、地の底までもお供いたしますわ」

パリカーは、元魔王ラバスに密着して座り、自分の豊満な身体をぐりぐり押し付けている。

「……紅蓮のパリカーよ、そなたの向こう側、席はだいぶ余裕があるようだが……」
「嫌ですわ、まおうさま。決して離さないって言って下さったじゃないですか。イ・ケ・ズ」
「……どうでも良いが、その口調、最初の面影、全く残ってないぞ?」
「それは、まおうさまが、私の昔のハートを恋の炎で焼きつくしてしまわれたから。パリカーは、まおうさま好みに作り替えられてしまったのですわ」

なんや、めちゃメンドイ女やな。
しゃあない。
能力優秀、初の魔族の配下。
多少の事には目を瞑らんと。

元魔王ラバスは、ふと、自分に向けられる、極超低温の視線に気が付いた。

「まおうさま、ゆうしゅうな はいかが くわわって よかったですね」

悪魔大神官(作者注;ローザ)までおかしゅうなっとる!?
セリフ、完全に棒読みやし。
はっ!?
もしや、降参したばかりの奴をいきなり四天王に抜擢したから、古参がすねてる、そういう構図か!?

「ゴホン。髑髏のローザよ、そなたは、四天王序列1位。序列4位の紅蓮のパリカーをよく指導してやるのだぞ」
「そうですね」

どや、同じ四天王ゆうても、お前の方がちゃんと上や……って、あれ?
あかん、悪魔大神官(作者注;ローザ)おかしいままや。
ちゅうか、目が怖い。
こんな怖い目しとったっけ?

「まおうさま、他の女としゃべっちゃ、ダ・メ」

こいつはこいつでおかしいし。

「四天王の序列は、4位でいいですけどぉ、まおうさまの心の中でのオンナ序列は、1位じゃないとダメですからね」

もう我慢ならん!

「わしの話を聞けい!」

チュドーン

街の食堂は半壊した。


「すみません、すみません」
「いいのよ、ローザちゃん。あなたが悪いんじゃないし」

そう話すと、食堂の女店主が、元魔王ラバスをキッと睨んできた。

「いや、我も悪くは無いと思うのだが」
「そうよぉ、まおうさまが悪いわけないじゃない」
「あなた達は、黙ってて下さい!」

こ、怖い!
悪魔大神官(作者注;ローザ)の目が怖い。
アルザスの街は、わしの支配下にあるんやから、この食堂もわしの所有物の一つ(のはず)。
自分のおもちゃを自分で壊して謝る子供おるか?
(注;あくまでも、元魔王ラバスの倫理観です。よいこは本気にしないでね)
とは言うても、理由不明に悪魔大神官(作者注;ローザ)の機嫌が悪い現状、あまり怒らせ過ぎて、魔王軍脱退されても泣く。
なにせ、まだ配下二人やし。
ここは、上に立つ者らしく、広い度量を見せとくか。
まずは、とりあえず、悪魔大神官(作者注;ローザ)の機嫌を取っておいて……

「髑髏のローザよ、そなたの気持ちに気付かず、すまなかったな」

えっ?
勇者様、もしかして、私の気持ちに気付いて下さったのかしら?
そりゃ、目の前であんなにイチャイチャされたら、私だって……
ローザは、少し頬を赤らめ、下を向いた。

「そして、店主よ。迷惑をかけたな。しかし、安心せよ。我が力で、元通りにしてやろう」

元魔王ラバスは、右手を高々と掲げた。
濃密な魔力が辺りを満たし、破損していた食堂が急速に修復されていく。
やがて、数秒後、食堂は、完全に元の姿に戻っていた。
食堂の女店主は、感心しきりである。

「あんた、凄いね。さすがは、噂のまおうさまだけあるよ」

冒険者ギルドからの通達で、心優しいアルザス市民は、皆、元魔王ラバスを“まおうさま”と呼んでくれるのだ!

「また、謎のナレーションが!? ゴホン、まあ、我にとって、この程度は造作も無いことよ」

そして、チラッとローザの様子を確認する。

どや?
ちったあ、機嫌直ったやろか?

「さすがは、まおうさまです!」

ローザの瞳には、以前同様の尊敬の光が灯っていた。

「よっしゃあ! なんとか、配下離脱を未然に防いだ!」
「まおうさま、素敵! 私、ますますまおうさまにメロメロですわ」

パリカーが、元魔王ラバスに飛びつき、頬にキスをした。
その時、元魔王ラバスは、再び自分に向けられる、極超低温の視線に気が付いた。

「まおうさま ぱりかーさんに きすしてもらって よかったですね」

元魔王ラバスは、ようやく自分の間違いに気が付いた。

つまり、理由は分からへんけど、紅蓮のパリカーが、わしに纏わりついてるのが、気に入らんねやな?
ちゅうか、わしも迷惑しとるんやけど。

「いいかげん、離れんか!」
「嫌です! ぜっっったい、離れませんからねぇ? えい、秘技テンタクルホールド!」
「は~な~せ~」

チュドーン

その日の作戦会議は、遅々として進まなかった。
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