上 下
23 / 41

23.バーバラから調査団の話を聞いた

しおりを挟む

4日目2


一昨日に見聞きした事……と言われて、まさか【殲滅の力】について、全てを話すわけにいかない俺は、当たりさわりの無さそうな話だけを伝える事にした。

午後7時半頃、ロイヒ村からの帰り道、森の方角で光が見えた事。
そしてドーンという音が聞こえた事。
宵闇も迫っていたので、現場を確認しに行く事無く、そのまま街まで帰って来た事。
それ以外、怪しい人影は見ていない事。

ちなみに、帰り道、山賊かモンスターに襲撃されたと思われる馬車と犠牲者の姿を目撃した事は、イネスにも伝えた。

俺の話を聞き終えたイネスは、ナナに視線を向けた。

「では、あなたから見て何か変わった事はありませんでしたか?」

ナナは小首を傾げて固まってしまった。
俺は助け舟のつもりで口を挟んだ。

「すみません、ナナはちょっと人見知りが激しいもので……」

ナナの“コミュ障?”を人見知りという言葉で表現していいのかわからないけれど。

イネスは少しの間怪訝そうな表情を見せた後、ふっと微笑んだ。

「そうでしたか。気付かず申し訳ありませんでした」
「いえいえそんな……」

同年代に見えるイネスは、なんだか俺よりよっぽど大人に見えた。

「お話は以上です。ご協力ありがとうございました」

ホッとした俺がナナを促して立ち上がったところで、イネスが思い出したように声を掛けて来た。

「そうそう、ナナさんは確か……記憶喪失、だとか?」

知らず、全身が強張った。

「そ、そうみたいですね。まあ、その内色々思い出すんじゃないですかね~」
「確か、『封魔の大穴』で記憶を失った状態でカースさんと出会った、とか?」
「は、はい。そんなところです」

多分、事前にトムソンあたりから聞いていたのだろうけれど、どうしていきなりナナの記憶喪失の話題を出してきたのだろうか?
俺はさっきから無言のまま座っているトムソンにチラッと視線を向けた。
しかし彼は腕組みをして、どっかと椅子に腰をおろしたまま目を閉じていた。

「え~と、もういいですかね?」

立ち上がったまま改めて声を掛けると、トムソンが目を開けた。
彼はイネスに視線を向けた。
イネスがそれにこたえるように、首を小さく縦に振った。

「おう、もう終わりだそうだ。そうそう、お前等の“仲裁”の件、夕方には連絡出来ると思うぞ」
「ありがとうございます」

二人に頭を下げた俺は、ナナを急かすようにして、足早に部屋を退出した。


ギルドの大広間まで戻って来た俺は、ようやく一息つく事が出来た。
ともかく一仕事終えた気分だ。
思い返しても、そんなに大した話にはならなかったし、後々俺が疑われるって危険性も今の所低いはず。
気を取り直した俺は、奥に見える4つのカウンターの一つにバーバラの姿を確認してから、彼女の方に近付いて行った。

「よお、バーバラ!」

俺が声を掛けると、なぜかバーバラは目を逸らし気味に、言葉を返してきた。

「何かしら? カース君」
「なんだよ、カース“君”って」
「別に。ちょっと昨日、あんたとの距離を感じる出来事があっただけよ」

昨日?
そういやこいつ、昨日様子がヘンだったけれど。
まさか……

俺は周囲に視線を向け、他の冒険者の関心が俺達に向けられていない事を確認してから、バーバラに囁いた。

「まさか、ナナが実は強かったって話が、そんなにショックだったのか?」

バーバラは一瞬大きく目を見開いたかと思うと、顎が外れんばかりに大きく口を開いた。

「はあああ~~~~~!?」
「ちょっ! バーバラ!?」

俺は慌てて彼女の口を手で塞ぎながら、周囲に視線を向けた。
さすがにバーバラの声が大き過ぎたのだろう。
何人かの冒険者達が、こちらに好奇の視線を向けてきている。

「声、大きいって」
「あんたが寝ぼけた事言っているからでしょ?」
「なんだよ、寝ぼけた事って?」

バーバラは少しの間、俺の顔をまじまじと見つめた後、はーっと盛大に溜息をついた。

「おい、さすがにそれは失礼なんじゃ無いか?」
「あんたにはこの程度の対応がお似合いよ!」

なんで罵られているのか、さっぱり心当たりは無いけれど、こんな所で揉めていても埒が明かない。
諦めた俺は、リュックサックマジックボックスの中から昨日39層で入手した魔石97個とドロップアイテムをいくつか取り出して、カウンターの上に積み上げた。

「とりあえずコレ、換金してくれ」

さすがにその量に驚いたのか、バーバラが目を丸くしながら小声でたずねてきた。

「コレ、全部ナナちゃんが?」
「ん? まあそんなところだ」

もちろん昨日は俺もそれなりの数のモンスター斃したけれど、それを説明すると、かえって話がややこしくなる。
ちなみにナナはいつもの通り、俺達の会話に関心が無いのか、ぼーっとした雰囲気で立っている。

39層のモンスター達の魔石は1個228ゴールドで換金してもらえた。
そしてドロップアイテム分も含めて、俺は総計2万5千ゴールドを手にする事になった。
これで手持ちのお金は5万5千ゴールド弱。
ナナに新しい服は買ってやれそうだが、俺達の装備の新調には程遠い金額だ。

俺はバーバラに頼んでみた。

「ナナも結構強いって分かった事だし、なんか討伐系でいいのないか?」

討伐系。
特定のモンスターを一定数斃したり、そのモンスターがドロップするアイテムを一定数納品するクエストだ。
当然、俺達が一昨日請け負った、届け物や採集系と比較して、相対的に報酬は高い事が多い。

「そうね……」

バーバラが慣れた手つきでクエスト台帳をめくり始めた。
やがて手を止めると、クエストを一つ提示してきた。


『リザードの尻尾;冒険者ギルドまで。1本350ゴールド』


「あんた達、昨日は39層潜ったんでしょ? リザードの尻尾、39層に出没するケイブリザードが確率でドロップするから、ちょうど良くない?」

確かリザードの尻尾、ケイブリザードなら、1/10の確率でドロップしたはず。
39層だと、モンスターの魔石も1個228ゴールドで、そこそこの値段だし、ちょうど良いかもしれない。

「サンキュー、恩に着るよ」

バーバラがクエスト受注票を俺に手渡しながら聞いて来た。

「そういやあんた、今日呼び出されていたでしょ? 例の謎の爆発の件で」
「ああ、ついさっき話してきた所だ」
「ところであんた、昨夜の南の森の話は知っている?」

南の森の話……
九分九厘、俺が昨夜、街の南の森で使用した【殲滅の力】絡みの話だろう。

「もしかして、街の南で光やら音やらしたって、あれか?」
「そそ」

なんだか皆、俺の【殲滅の力】の話題で持ち切りだ。
これ、毎日街の周辺で使用し続けていたら、いつか俺の仕業ってバレるんじゃないだろうか。
俺は心の中で溜息をついてから言葉を返した。

「俺もゴンザレスや他の冒険者が話しているのを聞いただけだな」
「そっか……でも昨日のも謎の大爆発関係だったら、ちょっと怖いわね……」
「怖い?」

バーバラが少し声を潜めた。

「昨日の予備調査で妙な事が分かったらしいの」
「妙な事?」

俺の心がざわついた。

「一昨日の謎の爆発現場、凄かったらしいの。半径100m位の範囲内、全てがま~るく無くなっていたんだって」

その爆心地に居たのが俺だ。
周りが暗くてはっきりとは確認出来なかったけれど、確かにそんな感じになっていた。

「まあ、なんか大魔法とかそんなんじゃ無いの?」

俺の適当な相槌にバーバラが首を振った。

「そう思うでしょ? ところが魔力のマの字も確認出来なかったらしいわ」
「じゃあ、誰かが強力なスキルを試し撃ちした、みたいな?」

強力なスキルは、大魔法並みの破壊力を発揮するって話を聞いた事がある。
俺の【殲滅の力】も、ステータス欄では確認出来ないけれど、スキルの一種なんじゃないのかな。
ところがバーバラは首を振った。

「スキルの可能性も無いみたいよ」
「スキルじゃ無い?」

俺は思わず身を乗り出していた。

「ええ。なんでも現場を確認した帝都からの調査団の話によると、魔族が絡んでいるらしいって」
「魔族!?」

驚いた俺は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。 それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。 高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕! いつも応援やご感想ありがとうございます!! 誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。 更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。 書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。 ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。 イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。 引き続き本作をよろしくお願い致します。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

秘伝賜ります

紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。 失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり 継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。 その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが…… ◆◇◆◇◆ 《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》 (ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?) 《ぐぅっ》……これが日常? ◆◇◆ 現代では恐らく最強! けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ! 【毎週水曜日0時頃投稿予定】

レベル1の最強転生者 ~勇者パーティーを追放された錬金鍛冶師は、スキルで武器が作り放題なので、盾使いの竜姫と最強の無双神器を作ることにした~

サイダーボウイ
ファンタジー
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」 勇者にそう吐き捨てられたエルハルトはダンジョンの最下層で置き去りにされてしまう。 エルハルトは錬金鍛冶師だ。 この世界での生産職は一切レベルが上がらないため、エルハルトはパーティーのメンバーから長い間不遇な扱いを受けてきた。 だが、彼らは知らなかった。 エルハルトが前世では魔王を最速で倒した最強の転生者であるということを。 女神のたっての願いによりエルハルトはこの世界に転生してやって来たのだ。 その目的は一つ。 現地の勇者が魔王を倒せるように手助けをすること。 もちろん勇者はこのことに気付いていない。 エルハルトはこれまであえて実力を隠し、影で彼らに恩恵を与えていたのである。 そんなことも知らない勇者一行は、エルハルトを追放したことにより、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう。 やがてパーティーは分裂し、勇者は徐々に落ちぶれていくことに。 一方のエルハルトはというと、さくっとダンジョンを脱出した後で盾使いの竜姫と出会う。 「マスター。ようやくお逢いすることができました」  800年間自分を待ち続けていたという竜姫と主従契約を結んだエルハルトは、勇者がちゃんと魔王を倒せるようにと最強の神器作りを目指すことになる。 これは、自分を追放した勇者のために善意で行動を続けていくうちに、先々で出会うヒロインたちから好かれまくり、いつの間にか評価と名声を得てしまう最強転生者の物語である。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

シトラス=ライス
ファンタジー
パーティーを追放された、右足が不自由なおじさん魔術師トーガ。 彼は失意の中、ダンジョンで事故に遭い、死の危機に瀕していた。 もはやこれまでと自害を覚悟した彼は、旅人からもらった短剣で自らの腹を裂き、惨めな生涯にピリオドを……打ってはいなかった!? 目覚めると体が異様に軽く、何が起こっているのかと泉へ自分の姿を映してみると……「俺、若返ってる!?」 まるで10代のような若返った体と容姿! 魔法の要である魔力経路も何故か再構築・最適化! おかげで以前とは比較にならないほどの、圧倒的な魔術の力を手にしていた! しかも長年、治療不可だった右足さえも自由を取り戻しているっ!! 急に若返った理由は不明。しかしトーガは現世でもう一度、人生をやり直す機会を得た。 だったら、もう二度と後悔をするような人生を送りたくはない。 かつてのように腐らず、まっすぐと、ここからは本気で生きてゆく! 仲間たちと共に!

処理中です...