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16.ナナと二人、『封魔の大穴』に潜った
しおりを挟む3日目3
“仲裁”が尻切れトンボになってしまい、トムソンがあたふたと出て行った後、俺達もバーバラの案内で小会議室を後にした。
しかしギルド1階の広間まで戻ってきた所で、俺とナナだけがバーバラに呼び止められた。
ちなみに、【黄金の椋鳥】の連中は、それ以上絡んで来る事も無く、ギルドを出て行った。
バーバラがそっと囁いてきた。
「さっきマスターが話していた謎の大爆発があった場所って、ロイヒ村からの帰り道、あんた達も昨日通った場所よね? 何か妙なモノ見たりとかしなかったの?」
俺は心臓のドキドキを悟られまいと気を付けながら言葉を返そうとした。
「俺達は……」
「綺麗な……光……」
しかし、珍しくナナが俺の言葉に自分の言葉を被せてきた。
って、ナナ!
それは今、口にしてもらいたくなかった。
まあ、口止めもしてなかった俺が悪いんだけど……
「綺麗な光?」
バーバラの問い掛けにナナが頷いた。
諦めた俺は、ナナに話を合わせる事にした。
「そ、そうそう、綺麗な光が見えたよ。あれが何だったのかは分からないけど、謎の大爆発? と関係していたのかな~」
「それって、何時頃?」
「え~と、確か……」
俺は昨夜の記憶を辿りながら言葉を続けた。
「夜の7時半頃……だったかなぁ~」
「情報提供、ありがとう。もしかしたらまた、マスターからも何か聞かれるかもだけど、その時は宜しくね」
う~ん、正直あんまり宜しくされたくない。
まあ、俺が自分で言い出さなかったら、あの謎の大爆発と俺の【殲滅の力】の関係なんて誰も気付かないとは思うけれど。
俺はバーバラとの会話をほどほどにして切り上げると、ギルドを後にした。
さて……
今日は予定通り、『封魔の大穴』1層目から潜ってみて、俺とナナの今の実力を測ってみよう。
俺はナナに『封魔の大穴』についてと、今日の予定について、軽く説明した。
「とりあえず、各層毎に、20体目途にモンスターと戦ってみよう。で、何層目位できつくなるか、確認してみよう。ナナは【完救の笏】使用出来るから、とりあえず回復メインで立ち回ってもらって……」
俺はナナに『ウロボロスの衣』を手渡した。
「これ、着ておいて」
ナナは頷くと、素直に『ウロボロスの衣』に袖を通した。
ちなみに俺は、革鎧とちょっとだけ魔法強化されたショートソードを装備している。
よし、これで当座の準備はOK……ってあれ?
俺はここで重大な事実に気が付いた。
ナナは、武器を何も装備していない。
【完救の笏】
“笏を装備している時に限り”、死以外の全ての状態異常を完治してHPとMPを完全回復出来る。
……
思い返せば、ナナは初めから手ぶらだった。
じゃあなんでナナはあの時、【完救の笏】使えたんだ?
それとも、ナナが使用したのは、俺から供与を受けたスキルとは全く別物?
俺は、自分の指先を小さく切って出血させてから、その指先をナナに見せた。
「コレ、治せる?」
ナナは頷くと、俺の指の傷口に右手を翳した。
―――ピロン♪
『HPが全回復しました』
『創傷部位完全治癒しました』
途端に俺の傷が跡形もなく消え去った。
ナナは少なくとも何らかの回復術は心得ているようだ。
……
ま、まあいいや。
とりあえず、『封魔の大穴』行ってこよう。
1層目、2層目、3層目……
各層毎モンスター20体を目標に、俺とナナはひたすら戦い続けた。
まあ正確にはナナは付いて来ていただけだけど。
それはともかく、1層から先、一桁台の階層のモンスターは、もはや俺にとってはショートソード一振りで瞬殺出来るレベルにまでザコ化していた。
ただ途中で問題が発生した。
5層目で15体目のモンスター、バブリースライムを斃して手に入れたバブリースライムの魔石をリュックサックに放り込もうとした時だ。
―――ブブッ!
不快な効果音と共にポップアップが立ち上がった。
『マジックボックスの収納限界です』
『これ以上魔石を収納出来ません』
ふう……
まあ、俺のリュックサック、10万ゴールドで買える安物だったからな……
一応、中身を確認してみると、
ウロボロスの魔石が1個
ダイアウルフの魔石が20個
レベル1モンスターの魔石が20個
レベル2モンスターの魔石が20個
レベル3モンスターの魔石が20個
レベル4モンスターの魔石が20個
レベル5モンスターの魔石が14個
仕方ない。
一回地上に戻って、魔石を換金してこよう。
レベル1~5程度のモンスターの魔石なら、この数持ち込んでも、そんなに不審がられないだろう。
ついでにダイアウルフの魔石も3個ほど換金しておこう。
俺達が再び冒険者ギルドに戻って来たのは、お昼前の時間帯だった。
昨日もそうだったけれど、やはりこの時間帯、ギルドを訪れている冒険者は数えるほどしか存在しなかった。
俺は昨日同様、カウンターの向こうで船を漕いでいるバーバラの頭を小突いた。
「んあっ?」
寝ぼけ眼で顔を上げたバーバラは、相手が俺とわかると、唇を尖らせた。
「ちょっと! 毎度毎度か弱い女性の頭を小突くってどういう事?」
昨日の焼き直しのようなやり取りに、零れそうになる笑みを必死でこらえながら、言葉を返した。
「勤務中だろ? ちゃんと仕事しろ!」
「ふふん、私程のベテランになればね。夢の中でもちゃんと仕事しているのよ」
いやそれ、意味わからんし。
俺はリュックサックから魔石を取り出して、カウンターの上に並べていった。
バーバラは俺が大量の魔石を取り出すのを一瞬、驚いたような目で見ていたけれど、それが全て『封魔の大穴』低層のモンスターがドロップした物だと気付くとニヤリと笑った。
「なに? もしかして質より量?」
「いいから換金してくれ」
「はいはい。カース君ったら人使い荒いわね~」
軽口を叩きながらも、バーバラは手際よく換金手続きを進めていく。
結局、レベル1モンスターの魔石1個4ゴールドが20個で80ゴールド。
レベル2モンスターの魔石1個8ゴールドが20個で160ゴールド。
レベル3モンスターの魔石1個12ゴールドが20個で240ゴールド。
レベル4モンスターの魔石1個16ゴールドが20個で320ゴールド。
レベル5モンスターの魔石1個21ゴールドが15個で315ゴールド。
「……で、あとはダイアウルフの魔石が3個で……って、カース、あんた、ダイアウルフ3体も斃せたの?」
バーバラが少し驚いたような顔になった。
彼女からすれば、俺は“レベル20程度のやつとどっこいどっこいなステータス値のレベル40”って認識のはず。
それがレベル21のダイアウルフを、しかも3体も狩ってきたとなれば、これがむしろ当然の反応と言うべきだろう。
「もしかして、そこのナナちゃん、凄い魔法使えるとか?」
「大した魔法は使えないんだけどな」
俺はチラッとナナの様子を観察しながら言葉を返した。
ちなみに『ウロボロスの衣』を纏ったナナは、俺の少し後ろでぼーっとした雰囲気のまま立っている。
「一匹ずつ出たからさ。なんとかなったってトコだ」
本当は、【殲滅の力】なる謎の力でやっつけたんだけど。
「ふ~ん……」
バーバラは少し首を捻っていたけれど、とにかく換金処理を済ませてくれた。
「……で、ダイアウルフの魔石が3個で306ゴールドだから、締めて1,421ゴールドね」
うん。
分かっちゃいたけど、クエスト絡み無しで低レベルのモンスターだけ斃しても、ホント、雀の涙だな。
高レベルのモンスター斃して魔石ゲット出来ればまた違うんだろうけれど。
まあ、今は俺とナナの二人で何層まで行けそうか見極めるのが目的だし、実入りは気にしたら負けだ。
ギルドを出た俺は、再び『封魔の大穴』に向かった。
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