上 下
16 / 41

16.ナナと二人、『封魔の大穴』に潜った

しおりを挟む

3日目3


“仲裁”が尻切れトンボになってしまい、トムソンがあたふたと出て行った後、俺達もバーバラの案内で小会議室を後にした。
しかしギルド1階の広間まで戻ってきた所で、俺とナナだけがバーバラに呼び止められた。
ちなみに、【黄金の椋鳥】の連中は、それ以上絡んで来る事も無く、ギルドを出て行った。

バーバラがそっと囁いてきた。

「さっきマスタートムソンが話していた謎の大爆発があった場所って、ロイヒ村からの帰り道、あんた達も昨日通った場所よね? 何か妙なモノ見たりとかしなかったの?」

俺は心臓のドキドキを悟られまいと気を付けながら言葉を返そうとした。

「俺達は……」
「綺麗な……光……」

しかし、珍しくナナが俺の言葉に自分の言葉をかぶせてきた。
って、ナナ!
それは今、口にしてもらいたくなかった。
まあ、口止めもしてなかった俺が悪いんだけど……

「綺麗な光?」

バーバラの問い掛けにナナが頷いた。
諦めた俺は、ナナに話を合わせる事にした。

「そ、そうそう、綺麗な光が見えたよ。あれが何だったのかは分からないけど、謎の大爆発? と関係していたのかな~」
「それって、何時頃?」
「え~と、確か……」

俺は昨夜の記憶を辿りながら言葉を続けた。

「夜の7時半頃……だったかなぁ~」
「情報提供、ありがとう。もしかしたらまた、マスターからも何か聞かれるかもだけど、その時は宜しくね」

う~ん、正直あんまり宜しくされたくない。
まあ、俺が自分で言い出さなかったら、あの謎の大爆発と俺の【殲滅の力】の関係なんて誰も気付かないとは思うけれど。
俺はバーバラとの会話をほどほどにして切り上げると、ギルドをあとにした。


さて……
今日は予定通り、『封魔の大穴』1層目から潜ってみて、俺とナナの今の実力を測ってみよう。
俺はナナに『封魔の大穴』についてと、今日の予定について、軽く説明した。

「とりあえず、各層毎に、20体目途にモンスターと戦ってみよう。で、何層目位できつくなるか、確認してみよう。ナナは【完救の笏】使用出来るから、とりあえず回復メインで立ち回ってもらって……」

俺はナナに『ウロボロスの衣』を手渡した。

「これ、着ておいて」

ナナはうなずくと、素直に『ウロボロスの衣』に袖を通した。
ちなみに俺は、革鎧とちょっとだけ魔法強化されたショートソードを装備している。
よし、これで当座の準備はOK……ってあれ?

俺はここで重大な事実に気が付いた。

ナナは、武器を何も装備していない。


【完救の笏】
“笏を装備している時に限り”、死以外の全ての状態異常を完治してHPとMPを完全回復出来る。


……
思い返せば、ナナは初めから手ぶらだった。
じゃあなんでナナはあの時第4話、【完救の笏】使えたんだ?
それとも、ナナが使用したのは、俺から供与を受けたスキルとは全く別物?

俺は、自分の指先を小さく切って出血させてから、その指先をナナに見せた。

「コレ、治せる?」

ナナはうなずくと、俺の指の傷口に右手をかざした。


―――ピロン♪

『HPが全回復しました』
『創傷部位完全治癒しました』


途端に俺の傷が跡形もなく消え去った。
ナナは少なくとも何らかの回復術は心得ているようだ。
……
ま、まあいいや。
とりあえず、『封魔の大穴』行ってこよう。


1層目、2層目、3層目……
各層毎モンスター20体を目標に、俺とナナはひたすら戦い続けた。
まあ正確にはナナは付いて来ていただけだけど。
それはともかく、1層から先、一桁台の階層のモンスターは、もはや俺にとってはショートソード一振りで瞬殺出来るレベルにまでザコ化していた。
ただ途中で問題が発生した。
5層目で15体目のモンスター、バブリースライムを斃して手に入れたバブリースライムの魔石をリュックサックマジックボックスに放り込もうとした時だ。


―――ブブッ!


不快な効果音と共にポップアップが立ち上がった。


『マジックボックスの収納限界です』
『これ以上魔石を収納出来ません』


ふう……
まあ、俺のリュックサックマジックボックス、10万ゴールドで買える安物だったからな……

一応、中身を確認してみると、
ウロボロスの魔石が1個
ダイアウルフの魔石が20個
レベル1モンスターの魔石が20個
レベル2モンスターの魔石が20個
レベル3モンスターの魔石が20個
レベル4モンスターの魔石が20個
レベル5モンスターの魔石が14個

仕方ない。
一回地上に戻って、魔石を換金してこよう。
レベル1~5程度のモンスターの魔石なら、この数持ち込んでも、そんなに不審がられないだろう。
ついでにダイアウルフの魔石も3個ほど換金しておこう。


俺達が再び冒険者ギルドに戻って来たのは、お昼前の時間帯だった。
昨日第7話もそうだったけれど、やはりこの時間帯、ギルドを訪れている冒険者は数えるほどしか存在しなかった。
俺は昨日同様、カウンターの向こうで船を漕いでいるバーバラの頭を小突いた。

「んあっ?」

寝ぼけまなこで顔を上げたバーバラは、相手が俺とわかると、唇を尖らせた。

「ちょっと! 毎度毎度か弱い女性の頭を小突くってどういう事?」

昨日の焼き直しのようなやり取りに、こぼれそうになる笑みを必死でこらえながら、言葉を返した。

「勤務中だろ? ちゃんと仕事しろ!」
「ふふん、私程のベテランになればね。夢の中でもちゃんと仕事しているのよ」

いやそれ、意味わからんし。

俺はリュックサックマジックボックスから魔石を取り出して、カウンターの上に並べていった。
バーバラは俺が大量の魔石を取り出すのを一瞬、驚いたような目で見ていたけれど、それが全て『封魔の大穴』低層のモンスターがドロップした物だと気付くとニヤリと笑った。

「なに? もしかして質より量?」
「いいから換金してくれ」
「はいはい。カース君ったら人使い荒いわね~」

軽口を叩きながらも、バーバラは手際よく換金手続きを進めていく。
結局、レベル1モンスターの魔石1個4ゴールドが20個で80ゴールド。
レベル2モンスターの魔石1個8ゴールドが20個で160ゴールド。
レベル3モンスターの魔石1個12ゴールドが20個で240ゴールド。
レベル4モンスターの魔石1個16ゴールドが20個で320ゴールド。
レベル5モンスターの魔石1個21ゴールドが15個で315ゴールド。

「……で、あとはダイアウルフの魔石が3個で……って、カース、あんた、ダイアウルフ3体も斃せたの?」

バーバラが少し驚いたような顔になった。
彼女からすれば、俺は“レベル20程度のやつとどっこいどっこいなステータス値のレベル40”って認識のはず。
それがレベル21のダイアウルフを、しかも3体も狩ってきたとなれば、これがむしろ当然の反応と言うべきだろう。

「もしかして、そこのナナちゃん、凄い魔法使えるとか?」
「大した魔法は使えないんだけどな」

俺はチラッとナナの様子を観察しながら言葉を返した。
ちなみに『ウロボロスの衣』をまとったナナは、俺の少し後ろでぼーっとした雰囲気のまま立っている。

「一匹ずつ出たからさ。なんとかなったってトコだ」

本当は、【殲滅の力】なる謎の力でやっつけた第10話んだけど。

「ふ~ん……」

バーバラは少し首を捻っていたけれど、とにかく換金処理を済ませてくれた。

「……で、ダイアウルフの魔石が3個で306ゴールドだから、締めて1,421ゴールドね」

うん。
分かっちゃいたけど、クエスト絡み無しで低レベルのモンスターだけ斃しても、ホント、雀の涙だな。
高レベルのモンスター斃して魔石ゲット出来ればまた違うんだろうけれど。
まあ、今は俺とナナの二人で何層まで行けそうか見極めるのが目的だし、実入りは気にしたら負けだ。

ギルドを出た俺は、再び『封魔の大穴』に向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔王に成り上がったスライム ~子育てしながら気ままに異世界を旅する~

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
 魔王候補による、魔王選定試験が行われた。そんな中、その魔王候補には最弱種と言われるスライムがいて、そのスライムは最終試験まで残る。そして、最終試験も突破し魔王の座を手にする。  念願の魔王の座についたスライムだったが、次第に退屈するようになり、皆に内緒で旅に出る決意をし、魔王城を後にする。その旅の中で、様々な出来事がそのスライムの周りに起こる!? 自由気ままなスライムが主人公のストーリー。  

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

【完結】二度目の転生は一度目の転生で俺が作ったメイドロボットでしかも人妻だった件

神谷モロ
ファンタジー
 一度目の転生で俺は勇者となり魔王を倒した。  ついでに自分を転生させた神も倒した。  その後は人里離れて過ごし、魔王を復活させたり、メイドロボットを作った。  俺の生涯に悔いなしと思っていたが最後に心残りがあった。恋愛くらいしとけばよかったと。    まさか二度目の転生がおこるとは思わなかった。しかも自分が作ったメイドロボットで魔王の嫁になっていたと……。これからどうしたものやら。 ※本作品は『異世界勇者と幼稚な神』『リッチさんと僕』『幼稚な神様、スタディ中』と世界を共通にしています。

処理中です...