上 下
9 / 41

9.弱っていたゴブリンを一蹴した

しおりを挟む

2日目4


ダレスの街を出た俺はナナと並んで、街道沿いをロイヒ村に向かって歩き始めた。
幸い天気も良く、風も穏やかだった。
途中休憩を挟みながら2時間程歩いた俺達は街道を逸れて、右側に広がる森へと足を踏み入れた。

確かバーバラから聞いた話では、街道から20分程森の中に分け入った場所に、ヒーリンググラスの群生地があるはずだけど……

目的の場所は、程なくして見つかった。
森の中の開けた場所、小さな泉の周りに文字通り、ヒーリンググラスが群生していた。
俺はナナと手分けして、早速ヒーリンググラスの採取に取り掛かった。
何しろ、1本たったの20ゴールド。
少なくとも100本単位で集めないと、割りに合わない。
ロイヒ村へのツボの配送も請け負っているし、今日中にダレスの街に戻るつもりだから、自然、時間も限られてくる。
夢中でヒーリンググラスを採取していた俺の耳に、突然、耳障みみざわりな叫び声が飛び込んできた。


―――ゴブゴブブブブゥ!


ゴブリンだ!

顔を上げると、まさに1匹のゴブリンが、ナナに棍棒を振り下ろそうとしているのが見えた。
ナナは、当惑したような雰囲気のまま固まっているように見えた。

「ナナ!」

考えるより先に体が動いていた。
なぜかゴブリンの棍棒を振り下ろす動作がゆっくりと見えた。
そして俺は、棍棒がナナを捕えるより先に、彼女と棍棒との間に身体を滑り込ませる事に成功した。
直後……


―――バギッ!


俺の背中で何かが砕け散る鈍い音がした。
そして、俺の背中に激痛が……あれ?
激痛どころか、何かが当たった程度の感触しか無かったんだけど?

俺は恐る恐る背後に首を回した。
俺の視線の先には、砕け散った棍棒を右手に握りしめ、狼狽している感じのゴブリンの姿があった。

棍棒、もしかして……?
腐っていた?

どうやら湿気か何かで、棍棒内部はボロボロだったのだろう。
で、俺の背中に当たった瞬間、砕け散った、と。
状況を理解した俺は素早く立ち上がると、腰のショートソードを抜いた。


―――ゴブブブゥゥ……


ゴブリンが怯えたような表情を見せて後退あとずさった。
しかしだからと言って、ここでこいつを逃がしたら、後から増援連れて舞い戻って来るのは目に見えている。
俺は棒立ちのゴブリンにおもむろに近付いて、ショートソードを振った。


―――ドシュッ!


あれ?
偶然だとは思うけれど、一撃でゴブリンの首が飛び、同時に光の粒子となって消えていく。
そしてポップアップが立ち上がった。


―――ピロン♪


『ゴブリンを斃しました』
『経験値48を獲得しました』
『ゴブリンの魔石が1個ドロップしました』


どうやら元々弱っていたのだろう。
だから新しい棍棒も用意出来ず、俺程度のショートソード一振りであっけなく死んでしまったのだろう。
何はともあれ、斃せて良かった。

俺はゴブリンの魔石を拾い上げながら、ナナの様子を確認した。
彼女は俺が覆いかぶさる事で、地面に倒れてしまっていた。
ゆっくりと起き上がろうとする彼女に手を貸した。

「大丈夫? 怪我は無かった?」

ナナはコクンとうなずいた。

「あの……ありが……とう……」
「気にしなくていいよ。その内お金溜まったら、ナナにも何か防具買ってあげるからさ」

彼女のステータスは相変わらず不明だけど、少なくとも俺が供与したスキル【完救の笏】が使用可能なのは、身をもって確認済みだ第4話
とりあえず彼女の防御力を上げておけば、死なない限り、彼女に癒してもらえるはず。
それはともかく、俺は現時点での“戦果”を確認してみる事にした。

「ところでヒーリンググラス、何本採取出来た?」

彼女にはあらかじめ、採取したヒーリンググラスを入れる用に、布製の大きな袋を渡してあった。
彼女が袋を差し出してきた。
俺が採取した分も合わせて一緒に数えてみると、合計153本。
1本20ゴールドだから、締めて3,060ゴールドだ。
あと、ゴブリンの魔石も1個手に入ったから、これもギルドに持ち帰って売れば100ゴールド弱にはなるはず。

どうしようか?

俺はチラッと視界の右下隅に表示されている数値に視線を向けた。


残り08時間53分36秒……
現在01/100


これは日付が変わるまでのタイマーみたいなモノだから、実際の時刻は……午後3時過ぎって所か。
時間的にはもうちょっといけるか?
でもまたゴブリンが襲ってきて、複数だったりしたら、ナナを護り切れないかもしれない。
なにせ彼女が身にまとっているのは、あの不可思議な空間で出会った時と変わらない薄汚れた白っぽい貫頭衣のみ。
どう見ても、防御力が高そうには見えない。
仕方ない。
ヒーリンググラスの採取はこの辺で切り上げておこう。
とりあえず、今夜はダレスの街に戻った後、『無法者の止まり木』に泊まるとして、昨夜と同じ条件なら、俺達二人、一泊朝食付きで5,000ゴールド。
ツボの宅配の報酬が5,000ゴールドだから、ヒーリンググラス採取の報酬3,060ゴールドとゴブリンの魔石100ゴールド弱は、丸々黒字になる計算だ。
まあ、朝食以外の俺達の食費その他を考えれば、かつかつなのは変わらないけれど。

ちなみに、【黄金の椋鳥】のパーティーハウスで俺が住んでいた部屋には、俺の金庫が置いてある。
あの中には、俺がこの4年間で貯めた1,000,000ゴールド位の全財産が入っていたはず。
冒険者ギルドに“仲裁”依頼してあるし、上手くいけばあの金庫も他の私物と一緒に取り返せるだろう。
ならその貯金を使って、俺達の再出発のための装備購入費用に充てる事が出来るかもしれない。

そんな事を考えつつ、俺はナナと一緒にその場を離れた。

再び街道に出て歩く事小一時間。
午後4時前に、俺達は無事、ロイヒ村に到着した。

ツボをベレ骨董品屋へ、そして採取したヒーリンググラス153本をベネット治療院に届けて依頼を無事終わらせる事が出来た俺達は、少し休憩した後、ダレスの街へ戻る為、街道上を引き返し始めた。
今のところ、非常に順調な感じだ。
モンスターとの交戦もヒーリンググラス採取の際のゴブリン戦のみ。
最近、あいつら【黄金の椋鳥】と一緒に『封魔の大穴』に潜ってばかりだったからな……
こうして太陽の下、お気楽な依頼クエストをこなすのは、一周回って逆に新鮮だ。

やがて日は大きく傾き、地平線の向こうへと沈んで行った。
周囲に次第に、夜のとばりが下りて来る。
時刻は午後7時になろうとしていた。
あと1時間位でダレスの街に着く。
そんな中、俺はふと、前方から届くかすかな異変に気が付いた。

風に乗って、複数の剣戟けんげきの音が聞こえて来る。
何者かが戦っている?

俺は隣を歩くナナにささやいた。

「ちょっと見て来るから、ここで待っていて」
「?」

どうやら前方の異変に気付いていなさそうなナナが小首をかしげた。

「この先で戦闘が起こっている感じなんだ。モンスターなのか山賊なのか、とにかく様子を見て来るから、ここで動かず待っていて」

ナナは素直にうなずくと、街道脇の倒木の上に腰掛けた。
俺は腰のショートソードを抜くと、前方に向かって、慎重に進み始めた。

なにしろ、スキルも何も持っていない俺の耳に剣戟の音が届くくらいだ。
恐らく100mも離れていないんじゃないかな。
その割には何も見えないけれど、この辺街道沿いとは言え、起伏や木々で視界が妨げられているしな。

ところが100m進んでも、200m進んでも、一向に戦いの様子は見えてこない。
音は確かに前方から聞こえてきているのに、おかしいな?
よっぽど大きな音か、それとも風の影響か何かで、より遠くの物音が耳に届いているのだろうか?
首をひねりながら進んでいくと、やがて剣戟の音が聞こえなくなった。
戦いが終わったのだろうか?

どうしようか?
戻ろうかな?
でも、せっかくここまで来たんだ。
もう少しだけ進んで……

好奇心の方がまさった俺が、なお100m程進んだところで、街道の先が少し明るくなっている事に気が付いた。
近付いてみると、手に松明たいまつを持ち、やや傾いた馬車の周りで何かをしている数人の男達の姿が見えて来た。
もしかしてモンスターか何かに襲撃されて、撃退できたものの、馬車が壊れたとかだろうか?
とにかく、戦いは終わっていそうであった。
何があったかは気になるけれど、ナナを一人で待たせてしまっている。
一旦彼女の所に戻って、改めて一緒に街道上を進めば、どうせ彼等と行き会うだろう。

そう考えて彼等に背中を向けて戻ろうとした時、後ろから声が上がった。

「おい! あそこに誰かいるぞ!」
「何!? てめぇ、何者だ!?」

そしてこちらに向けて走って来る複数の足音。
なんだなんだ?
まさか山賊か何かに間違われた?

気が付くと、俺はあっという間に複数の男達に取り囲まれていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。 それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。 高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕! いつも応援やご感想ありがとうございます!! 誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。 更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。 書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。 ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。 イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。 引き続き本作をよろしくお願い致します。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

秘伝賜ります

紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。 失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり 継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。 その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが…… ◆◇◆◇◆ 《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》 (ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?) 《ぐぅっ》……これが日常? ◆◇◆ 現代では恐らく最強! けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ! 【毎週水曜日0時頃投稿予定】

レベル1の最強転生者 ~勇者パーティーを追放された錬金鍛冶師は、スキルで武器が作り放題なので、盾使いの竜姫と最強の無双神器を作ることにした~

サイダーボウイ
ファンタジー
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」 勇者にそう吐き捨てられたエルハルトはダンジョンの最下層で置き去りにされてしまう。 エルハルトは錬金鍛冶師だ。 この世界での生産職は一切レベルが上がらないため、エルハルトはパーティーのメンバーから長い間不遇な扱いを受けてきた。 だが、彼らは知らなかった。 エルハルトが前世では魔王を最速で倒した最強の転生者であるということを。 女神のたっての願いによりエルハルトはこの世界に転生してやって来たのだ。 その目的は一つ。 現地の勇者が魔王を倒せるように手助けをすること。 もちろん勇者はこのことに気付いていない。 エルハルトはこれまであえて実力を隠し、影で彼らに恩恵を与えていたのである。 そんなことも知らない勇者一行は、エルハルトを追放したことにより、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう。 やがてパーティーは分裂し、勇者は徐々に落ちぶれていくことに。 一方のエルハルトはというと、さくっとダンジョンを脱出した後で盾使いの竜姫と出会う。 「マスター。ようやくお逢いすることができました」  800年間自分を待ち続けていたという竜姫と主従契約を結んだエルハルトは、勇者がちゃんと魔王を倒せるようにと最強の神器作りを目指すことになる。 これは、自分を追放した勇者のために善意で行動を続けていくうちに、先々で出会うヒロインたちから好かれまくり、いつの間にか評価と名声を得てしまう最強転生者の物語である。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

シトラス=ライス
ファンタジー
パーティーを追放された、右足が不自由なおじさん魔術師トーガ。 彼は失意の中、ダンジョンで事故に遭い、死の危機に瀕していた。 もはやこれまでと自害を覚悟した彼は、旅人からもらった短剣で自らの腹を裂き、惨めな生涯にピリオドを……打ってはいなかった!? 目覚めると体が異様に軽く、何が起こっているのかと泉へ自分の姿を映してみると……「俺、若返ってる!?」 まるで10代のような若返った体と容姿! 魔法の要である魔力経路も何故か再構築・最適化! おかげで以前とは比較にならないほどの、圧倒的な魔術の力を手にしていた! しかも長年、治療不可だった右足さえも自由を取り戻しているっ!! 急に若返った理由は不明。しかしトーガは現世でもう一度、人生をやり直す機会を得た。 だったら、もう二度と後悔をするような人生を送りたくはない。 かつてのように腐らず、まっすぐと、ここからは本気で生きてゆく! 仲間たちと共に!

処理中です...