上 下
4 / 41

4.とりあえず、拾った少女に名前を付けてみた

しおりを挟む

1日目4


【???に名前を与えますか?】
▷YES
 NO


文尾にクエスチョンマークがついているけれど、俺の心の中のクエスチョンマークの方が、もっと大きいはずだ。

名前?
勝手につけていいのか?

とはいえ、現状を打開できそうな手段としては、彼女をパーティーメンバーに加入させる事位しか思いつかない。
しかし、パーティーに勧誘するには、名前が必要なわけで……

名前、名前……
この少女、名無しだから、ナナシ……は安易過ぎだから、とりあえずナナでいいんじゃないかな。

俺は▷YESを選択した。


【彼女の名前を入力して下さい】
_ |_ _ _ _ _ _ _ _ _


ナナ、と入力して決定。

突然、目の前の少女の全身が金色の光に包まれた。


―――ピロン♪

【???にナナという名前を与えました】
【名付け親のあなたには、以下の義務が生じます】
【義務を果たせなかった場合、あなたは死にます】

1.ナナを死なせない。
2.ナナの力を一日一回解放する。


し、死にます!?
なんだよ、義務って……

俺は改めて義務とやらを確認してみた。

1は分かるとして……
2……ナナの力? 解放?

相変わらず動かせない首をひねっていると、突然、目の前の少女が口を開いた。

「あの……あなたが……名前を……ナナって……」


喋れたのか?
それとも、名前を付けた後、金色に光っていたけれど、あれで言語能力を獲得した、とかだろうか?
とにかく初志貫徹!

近くにいるパーティーメンバー候補者リストを確認してみると、無事、ナナの名前を見付ける事が出来た。
早速パーティーへの加入を勧誘してみた。

目の前のナナの眉がねた。

「あの……これは……?」

俺からは見えないけれど、今、彼女の前には、俺が今立ち上げたばかりのパーティー【死にぞこないの道化】への加入を勧誘するポップアップがたち上がっているはず。

「俺とパーティーを組んで欲しいんだ」
「パー……ティー……?」
「パーティーっていうのは、互いに信頼関係に結ばれた者同士が……」

一般的なパーティーの定義を口にしようとして、言葉に詰まってしまった。
何が信頼関係に結ばれた、だ。
俺はつい先程、4年もの長い間、一緒に過ごしてきたはずのパーティーメンバー達に裏切られ、殺されかかったのだ。

「とにかく、パーティーを組んでもらえないかな? 俺と組めば、君には凄いスキルをプレゼントしてあげるよ」

まあ、俺が能動的に与えられるわけじゃないんだけど。

「分かり……ました……」

彼女が▷YESを選んでくれたのだろう。
ポップアップが立ち上がった。


―――ピロン♪

『ナナが、【死にぞこないの道化】に加入しました』


そして……


―――ピロン♪

『パーティーメンバーにスキルを供与しました』


さらに……


―――ピロン♪

【【殲滅の力】を獲得しました。一日一回、ナナの代わりに力を解放して下さい】


―――ドサッ!


三つ目のポップアップが閉じた瞬間、俺は頭から地面に落下した。
激痛が全身を襲う。
これ、首イってないか?

「だ……大丈……夫……?」

ナナが俺の傍でしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込んできた。
俺は遠くなりそうな意識を懸命に繋ぎ留めながら、ナナに懇願した。

「【完救の笏】ってスキル、供与されてない?」

彼女は、俺が供与出来る4つのスキル――【必貫の剣】、【不壊ふえの盾】、【殲滅の杖】、【完救の笏】――の内、1つを使用可能になっているはず。
賭けみたいなもんだけど、もし【完救の笏】を彼女が引き当てていれば、俺の全身複雑骨折も、右足喪失も全て全回復してもらえる! はず。

ナナは少し戸惑った様子を見せた後、僕に両手をかざした。
彼女の両の手の平から、暖かい光が放たれる。


―――ピロン♪

『HPが全回復しました』
『MPが全回復しました』
『四肢欠損、内蔵損傷、骨折部位全て完全治癒しました』


ポップアップが、【完救の笏】が俺に対して使用された事を告げていた。

勝った!
賭けに勝ったぞ!

立ち上がった俺は、全身で喜びを爆発させてしまった。

少し落ち着いた俺は、改めて周囲の状況を確認してみた。
先程逆さまだった世界は、俺から見て、正しい位置関係を取り戻していた。
つまり俺は白い地面に足を付けて立っている。
そして地面から2m弱の位置には、大勢の人々が不自然な姿勢のまま、時が凍り付いたかのように、縫い留められている。
彼等の表情は、総じて絶望をそのまま焼き付けたかのように固まってしまっている。
さっきまでの俺もこんな感じだったのだろうか?
どうして俺だけこうやって動けるようになったのか分からないけれど……

俺はナナに話しかけた。

「ありがとう。助かったよ」

ナナが微笑んだ。

「よ……喜んで……もらえて……うれしい……」
「それで、ここってどうなっているのかな?」
「……?」

ナナは小首を傾げて固まってしまった。

「君は、いつからここにいるの?」
「……?」

その後もいくつか質問を投げかけてみたけれど、彼女からは一切、詳しい情報を引き出す事は出来なかった。
どうやらナナは、俺と出会う前の記憶を全て失っているようであった。
そうだ!
パーティーリーダーは、パーティーメンバーの簡単なプロフィールを閲覧できるはず。

俺はメニューを開き、パーティーメンバーの欄から、ナナの名前を選択してみた。


―――ブブッ!


【ナナのプロフィールは、参照出来ません】


……
なんでだよ!?

その後、何度試してみてもナナのプロフィールは参照出来ない。

仕方ない。

諦めた俺は、彼女に声を掛けた。

「とりあえず、動こうか」

どこまでも続く白く滑らかな地面。
白く淡い燐光に照らし出され、視界には困らないものの、視線の先、壁も天井も見当たらない。
そして、地面から2m弱位の位置で静止している物言わぬ人々の群れ……
小一時間程歩いてみたけれど、見える情景に変化は現れない。

あれ?
これって、もしかして詰んで無いか?

幸いな事に、喉も乾かないし、お腹も空かないけれど、燐光に照らし出された白い地面の上を、延々歩き続けるだけっていうのは、別の意味で苦行だ。
記憶が正しければ、ここはあの『封魔の大穴』の一番底って事になるはずだけど……
まさか死……

嫌な想像が頭の片隅から湧きだして来たけれど、俺はかぶりを振ってそれを追い払った。
俺はダメ元でナナに問いかけてみた。

「“上”に戻りたいんだけど、なんかスキルとか持っていない?」
「スキル……?」
「空中に浮かび上がるとか、どこかに転移するとか、そういった、とにかくここから移動出来そうなスキル」

ナナはしばらく考える素振りを見せた後、ある方向を指差した。

「あっちに……扉……」
「扉?」

目を凝らしてみたけれど、ただどこまでも白がひろがるのみ。
扉らしきものは見当たらない。
しかし、目的も無くただ歩くのに精神的に疲れていた俺は、ナナが指差した方角を目指してみる事にした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。 それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。 高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕! いつも応援やご感想ありがとうございます!! 誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。 更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。 書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。 ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。 イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。 引き続き本作をよろしくお願い致します。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

秘伝賜ります

紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。 失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり 継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。 その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが…… ◆◇◆◇◆ 《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》 (ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?) 《ぐぅっ》……これが日常? ◆◇◆ 現代では恐らく最強! けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ! 【毎週水曜日0時頃投稿予定】

レベル1の最強転生者 ~勇者パーティーを追放された錬金鍛冶師は、スキルで武器が作り放題なので、盾使いの竜姫と最強の無双神器を作ることにした~

サイダーボウイ
ファンタジー
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」 勇者にそう吐き捨てられたエルハルトはダンジョンの最下層で置き去りにされてしまう。 エルハルトは錬金鍛冶師だ。 この世界での生産職は一切レベルが上がらないため、エルハルトはパーティーのメンバーから長い間不遇な扱いを受けてきた。 だが、彼らは知らなかった。 エルハルトが前世では魔王を最速で倒した最強の転生者であるということを。 女神のたっての願いによりエルハルトはこの世界に転生してやって来たのだ。 その目的は一つ。 現地の勇者が魔王を倒せるように手助けをすること。 もちろん勇者はこのことに気付いていない。 エルハルトはこれまであえて実力を隠し、影で彼らに恩恵を与えていたのである。 そんなことも知らない勇者一行は、エルハルトを追放したことにより、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう。 やがてパーティーは分裂し、勇者は徐々に落ちぶれていくことに。 一方のエルハルトはというと、さくっとダンジョンを脱出した後で盾使いの竜姫と出会う。 「マスター。ようやくお逢いすることができました」  800年間自分を待ち続けていたという竜姫と主従契約を結んだエルハルトは、勇者がちゃんと魔王を倒せるようにと最強の神器作りを目指すことになる。 これは、自分を追放した勇者のために善意で行動を続けていくうちに、先々で出会うヒロインたちから好かれまくり、いつの間にか評価と名声を得てしまう最強転生者の物語である。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

シトラス=ライス
ファンタジー
パーティーを追放された、右足が不自由なおじさん魔術師トーガ。 彼は失意の中、ダンジョンで事故に遭い、死の危機に瀕していた。 もはやこれまでと自害を覚悟した彼は、旅人からもらった短剣で自らの腹を裂き、惨めな生涯にピリオドを……打ってはいなかった!? 目覚めると体が異様に軽く、何が起こっているのかと泉へ自分の姿を映してみると……「俺、若返ってる!?」 まるで10代のような若返った体と容姿! 魔法の要である魔力経路も何故か再構築・最適化! おかげで以前とは比較にならないほどの、圧倒的な魔術の力を手にしていた! しかも長年、治療不可だった右足さえも自由を取り戻しているっ!! 急に若返った理由は不明。しかしトーガは現世でもう一度、人生をやり直す機会を得た。 だったら、もう二度と後悔をするような人生を送りたくはない。 かつてのように腐らず、まっすぐと、ここからは本気で生きてゆく! 仲間たちと共に!

処理中です...