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1.突然追放された

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1日目1


―――ブブッ!

耳障りな効果音と共に、ポップアップが立ち上がった。


『あなたは、パーティー【黄金の椋鳥むくどり】から追放されました。パーティーメンバー達へのスキルの供与を停止します』


!?
パーティーメンバーを一方的に追放できるのは、パーティーリーダーのみ。
俺はポップアップの向こう側に透けて見える、パーティーリーダー、剣聖のマルコをにらみつけた。
俺と同じ、つまり俺達の世界で最も特徴の無い種族であるヒューマン種でありながら、剣に関しては並ぶ者の無い才能に恵まれた彼は、【必貫の剣】として、名実ともに【黄金の椋鳥】の中心的存在だった。

内心の動揺を押し殺しながら、俺はとりあえずたずねてみた。

「どういう事だよ?」

マルコは、自慢の金髪サラサラヘアを手櫛でかき上げた。

「どういう事? そのまんまだよ。カース、たった今、お前と俺達との縁は切れたって事だ」

奴の憎たらしい程整った顔に、ニヤニヤ嫌な笑みが浮かんでいる。

「なんだよそれ……」

口にしながら、俺は一縷いちるの望みをかけて、周りで腰を下ろしている他のパーティーメンバー達にも視線を向けた。

「まあ、当然だな」

重騎士のハンスがぶっきらぼうにそう言い放った。
黄色い髪を短く刈り込んだこの男は、元々の体格の良さとドワーフ種という種族的特徴を生かし、パーティー内では【不壊ふえの盾】として活躍していた。

「むしろよく我慢した方じゃない? 私達」

エルフ種特有の切れ長の耳をピクピクさせながら、蟲でも見るような視線を向けてきているのは、賢者のミルカ。
少し癖のある赤毛を背中に長く垂らした小柄な彼女は、無尽蔵にも思える魔力と、それを操る高い技術を生かし、パーティー内随一のダメージディーラー、【殲滅の杖】の名をほしいままにしていた。

「これはあなたのためでもあるのですよ」

青いショートボブに切り揃えられた青い髪をいじりながら、そう嘆息するのは、聖女のユハナ。
天性の才能と、俺達の世界に住む全種族中、最も神聖魔法に長けたノーム種の特徴の体現者とも言える彼女のパーティー内での役割は、【完救のしゃく】。
死以外の状態異常で彼女に癒せないものは無かった。

ともかく、パーティーメンバー全員からダメ出しを食らった俺は、なおも食い下がった。

「おい、こんなところで俺を追い出したら、お前等も破滅だぞ?」
「おいおい、パーティーの寄生虫を追い出したら破滅って、どういう論法だ? 泣きつくならもう少し言葉を選べ」

マルコが俺の警告を鼻でせせら笑っている。

ここは『封魔の大穴』と呼ばれるダンジョンの40層目。
『封魔の大穴』は、俺達が今拠点を構えるダレスの街の中心部に、数百年前、突然誕生した巨大ダンジョンだ。
その名の通り、直径1kmはありそうな大穴の壁面に、各階層への入り口が開いている。
俺達のような冒険者は、壁面に縫うように設けられた階段を使って、各階層へと出入りしている。
ちなみに、穴そのものの“底”がどうなっているかは、誰にも分らない。
たまに事故で転落する者が出たり、虚栄心に駆られた命知らずが穴の底を目指すけれど、今のところ、誰一人戻って来た者はいないからだ。
噂では、穴の最奥さいおうには、魔神が封じられているとも……

それはともかく、今の俺では、こんな所40層に置いて行かれたら、間違いなく生きては地上に戻れない。
なにせ俺は、レベルこそ今目の前に居る“元”パーティーメンバー達と同じ、40――40層目の適性値――ではあるけれど、それ以外のステータス値やスキルといった部分で、壊滅的だ。
ステータス値の平均値は、レベル20の奴らとどっこいどっこい。
“自身に恩恵を与える事の出来る”スキルは、何一つ持ってはいない。
そんな俺が、なぜこんな優秀な奴らとパーティーを組めていたのか?
その一番の理由は、俺が4年前、13歳の時に与えられた特殊な『職』にあった。


俺達の世界では、13歳になると、創世神の神殿に行き、成人の儀式を受けなければならない。
その儀式を通して、俺達は“創世神”から生涯不変の『職』を一つ与えられる。
剣士、魔法使い、僧侶、村人、農民……
『職』の種類は、確認されているだけでも数百以上。
まあ、『職』と言っても、それに付随するいくつかのスキルが与えられるだけで、農民だから必ず農業に従事しないといけない、なんて制約は無いんだけど……

話を戻すと、俺がその時授かったのは、技巧供与者スキルギバーという聞いた事も無い『職』だ。
同時に、一緒にパーティーを組んでいる仲間達に、スキルを供与する事が出来る『技巧供与』というスキルも与えられた。
立ち会った神官も驚いていたけれど、今まで誰かにこの『職』が与えられたという記録は存在しないらしい。
という事は、俺が第一号。
それを知った時は、小躍りする位喜んだ。
だって、唯一だぜ?
それに仲間にスキルを与えてやる、なんて、なかば神サマになったような気分じゃないか。
ちなみに俺が与える事の出来るスキルは、以下の四つ。


【必貫の剣】
剣を装備していれば、相手の物理・魔法耐性、及び防御力を無視した攻撃を繰り出す事が出来る。

不壊ふえの盾】
相手の攻撃を盾で受け止める瞬間、物理・魔法耐性、防御力、いずれも無限大。

【殲滅の杖】
杖を装備して相手を魔法で攻撃した時、相手の魔法耐性は無視される。

【完救の笏】
笏を装備している時に限り、死以外の全ての状態異常を完治してHPとMPを完全回復出来る。


いずれも凄い性能だ。
自分に“供与”出来ないのが残念だけど。


俺は元々冒険者志望だった。
だから13歳で実家から独立した後は、すぐに冒険者ギルドに登録した。
そしてこいつらに会った。

剣聖の『職』を持つヒューマンのマルコ。
重騎士の『職』を持つドワーフのハンス。
賢者の『職』を持つエルフのミルカ。
聖女の『職』を持つノームのユハナ。

同い年、冒険者に成りたてという事もあって、会ってすぐ意気投合した俺達は、早速一緒にパーティーを組む事になった。
パーティーを組むメリットはいくつかある。
まず単純に、単独ではかなわないモンスターでも、パーティーを組めば討伐出来る可能性が出て来る。
また、冒険者ギルドが紹介してくれるクエストの中には、パーティーを組んでいないと受けられない物もある。

ちなみにパーティーを組んでモンスターを斃した時に得られる経験値は、パーティーメンバー全員に等分される。
そこに戦闘貢献度みたいなややこしい話は出てこない。
つまり、パーティーを組んでさえいれば、極端な話、宿屋で寝ていても、仲間が斃した経験値は獲得出来てしまうのだ。
まあ、もちろんまともな冒険者同士なら、そんな事をする奴は、寄生虫扱いで即刻追放処分になるけれど。


今思い返せば、あの時が“こんなはずでは”と感じた最初の瞬間だったかもしれない。

パーティーを組むのは簡単だ。
パーティーリーダーから加入を勧誘されると、ポップアップが立ち上がる。
あとはそこに表示されている▷YESを選択するだけだ。

俺が▷YESを選択した瞬間、ポップアップが立ち上がった。


―――ピロン♪

『パーティーメンバーにスキルを供与しました』


……
数秒後、ポップアップは、自動的に消滅した。

ん?
スキルを供与?
誰に何をとか無いの?

俺は自分のステータスウインドウを呼び出してみた。
しかし隅から隅まで調べてみたけれど、誰にどんなスキルを与えたのか、表示されていない。

俺はおずおずと彼等にたずねてみた。

「スキル、供与されたか?」

俺の言葉に、皆それぞれ自分のステータスウインドウを立ち上げた。
マルコが嬉しそうに言葉を返してきた。

「ちゃんとスキル供与されているぞ。俺は【必貫の剣】だ」
「俺は【不壊ふえの盾】だ。重騎士の俺にはぴったりだな」

ハンスが豪快に笑っている。

「私は【殲滅の杖】よ」

ミルカは満足そうにそう答えた。

「私は【完救の笏】でした。これで、より大勢の人々を救う事が出来そうです」

ユハナは微笑みを浮かべている。

一瞬焦ったけれど、どうやらそれぞれの適性に合ったスキルが自動分配されたようだ。

「カース、ありがとよ! それじゃあ早速、『封魔の大穴』、行ってみようぜ!」
「「「「おう!」」」」


リーダーのマルコの一声に、皆で拳を突き上げて答えたあの日以来、4年……
これからも切磋琢磨していけると信じていた仲間達から、突然俺は追放されてしまったのだ。



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