上 下
111 / 130

第107話 寒さ厳しい日の事②

しおりを挟む
「はい、これ」
「うん、ありがとう」

 母親は布団の上に正座して、その場でささっと麦ごはんをかきこんだ。母親は麦ごはんを食べ終わると、私に箸と空になったお茶碗を渡す。

「これお願い、着替えるから」
「わかった」

 母親の分のお茶碗と箸を台所の流しで洗っていく。水が凍えそうな程冷え切っている。

「つめたいっ」

 冷たさに耐えながらなんとか洗い終えると、両掌をこすり合わせて温める。そうでもしないと手がかじかんで動かなくなってしまいそうだからだ。

「ヨシさんのお昼、どうします?」

 台所に入ってきた沼霧さんに、そう質問される。確かに今食べたらお昼は少し遅らせてもいいかもしれない。
 それに、私もそんなに空腹を感じていない。

「時間、遅らせる?」
「そうしますか」
「ぬらりひょんに聞いてみる」

 自室に戻り、昼食の時間を遅らせるという事をぬらりひょんに告げると、彼女は嫌がる事無く了承の意思を見せてくれた。

「じゃあ、出来たら呼んで」
「分かった」

 沼霧さんにも伝えて、私はもう一度自室に戻ってぬらりひょんと雑誌を読んで過ごした。

(火鉢のそばはあったかい……)

 しばらく経って、沼霧さんが自室に入って来る。気が付けば時刻は12時を過ぎていた。

「用事は済ませました。そろそろ昼食にしますか?寒いですし、雑炊にします?」
「うん、そうしよっか。ぬらりひょんもそれでいいよね?」
「うん! あったかいの食べたい」

 沼霧さんは自室から退出し、台所に向かって行った。私はぬらりひょんを自室に1人にさせるのも危ないと感じたので、自室に留まる事にする。

「雑炊楽しみだあ」

 ぬらりひょんが部屋の天井を見上げながら、うわごとのように呟く。私も彼女の動きにつられて天井を見上げると、一瞬だけ小さなトカゲのような黒いあやかしがいるのに気がつく。

「あ」

 あやかしは私に気づくと、足をかさかさと動かして移動するも天井から落ちて来た。落ちたあやかしはぬらりひょんが読んでいる雑誌の上に着地する。

「わ」

 ぬらりひょんは少しだけ驚いたが、すぐにあやかしを掴むと、廊下に出したのだった。あやかしはまた足を素早く動かしながら、秋部屋の中に入っていった。

「ありがとうぬらりひょん」
「ううん、大丈夫」
「お昼できましたよ」

 丁度よく、沼霧さんの声が階段の下から響き渡ったので自室から返事を返す。

「そちらへ持っていきますね」

 沼霧さんがお盆に雑炊の入ったお茶碗と匙を2人分乗せて、階段を上ってきた。私は自室の前の廊下でそれらを受け取る。

「お母さんは?」
「召し上がってます。大分よくなられたとはいえまだ頭痛が残ると」
「篝先生帰って来たら診てもらった方がいいんじゃない?」
「そのようにお伝えしておきます」

 沼霧さんが階段を降りた後、私とぬらりひょんは自室の扉を閉めて昼食を頂く。

「いただきます」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あやかしと付喪神のことをずっと親戚と勘違いしていたようです。みんなが笑顔でいられるのなら、身内に気味悪がられても気にしません

珠宮さくら
キャラ文芸
付喪神やあやかしたちと一緒に暮らすこととなった星蘭。 自分に特別な力や才能があるとは、これっぽっちも思っていないが、母親と妹からは気味悪いと思われ続けていたことが、役に立つことを知ることになる。 そんな星蘭が、千年近く受け継いできた生業を受け継ぎ、付喪神やあやかしたちを幸せにしようとして、逆にたくさんのものをもらって幸せになるお話。 ※全6話。2、3日おきに更新。

お夜食処おやさいどき~癒やしと出逢いのロールキャベツ~

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
ライト文芸
関西転勤を控えた敏腕会社員 榊木望(さかきのぞむ)は、家路につく途中でカボチャランプの灯るお夜食処を見つける。 そこには溢れんばかりの野菜愛を抱いた女店主 花岡沙都(はなおかさと)が作り出す、夜にぴったりの野菜料理があった。 自分でも気づいていなかった心身の疲れが癒された望は、沙都の柔らかな人柄にも徐々に惹かれていって……。 お野菜たちがそっとがつなげる、癒やしと恋の物語です。 ※ノベマ!、魔法のiらんど、小説家になろうに同作掲載しております

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

ターニングポイント

ko
キャラ文芸
乱世という戦の耐えない荒れ狂った架空の時代に千葉県大多喜町に住む少年外岡士郎は、幼馴染みで恋い焦がれている大多喜城城主天羽経丸と共に戦い大多喜町の民や仲間を守るために経丸の家臣となってこの乱世を生き抜く物語である。

告白

鈴木りん
キャラ文芸
「はあ? 私と付き合いたければ、もっと気の利いた告白でもしてみなさいよ!」 僕は決心した。彼女をうんと云わせる告白をいつか必ず、して見せることを! ――これは冴えない独身男「榊原祐樹」による、お嬢様「黄川田真奈美」への悲しくも壮絶な愛の告白ストーリーである。 (小説家になろうにも重複投稿しております) なお、表紙は九藤朋さまからの頂き物です。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

処理中です...