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第74話 梅雨とぬらりひょんを名乗る少女①

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「雨降ってる」

 今日は朝から雨が降っている。しとしとと降りつつ時折強い海風も吹いている。
 梅雨どきなので仕方ないが、別荘内の空気はどんよりしている。

「ごちそうさまでした」

 朝食を食べ終え、私は食器を流しで洗う。

(空もどんよりしてるなあ)

 篝先生は今日は1日離れで書類を作るらしい。朝食を食べ終えた後、何かあれば離れまでお願いします。と言って早足で離れに向かっていった。

(篝先生忙しそうだなあ)

 とりあえず篝先生の邪魔をしないように過ごさなくてはならないと考えながら、2階の自室へ向かった。

(小説でも読もう)

 窓の向こう側の景色も、どんよりしている上に波が若干荒ぶっている。
 すると桟橋近くの海に二等辺三角形型の黒い背びれがちらっと見えた。光さんだ。

「千恵子ーー!」

 しかも私を呼んでいる。何かあったのだろうか。
 玄関に置いてあった傘をさして、光さんの元へと向かうと、光さんの背中に子供が横たわっているのが見えた。子供は赤い立派な着物を着て、髪は肩につくくらいの長さをした尼削ぎの女の子だ。

「どしたの、その子!?」
「海で溺れてたのを拾ってきたんだが医者は?! あとこいつあやかしかもしんねぇ!」
「すぐ呼んでくる!」

 私はすぐさま離れにいる篝先生を呼んだ。

「篝先生! あやかしかもしれない女の子が溺れて……!」
「わかりました、すぐに向かいます!」

 篝先生が現場に駆けつけ、光さんから女の子を回収する。
 篝先生が背中を叩くと、ゲホゲホと海水を吐き出した。なおも篝先生は彼女をその場で診察する。

「息はしています。すぐに手当しましょう」
「頼む! あとそいつあやかしか?」
「妖力を感じます。あやかしです」

 急いで女の子を別荘の空き部屋に連れていき、沼霧さんと共に彼女の着物を脱がせて身体を拭きつつ着替えさせるのと同時に、篝先生は海水を全て吐き出せたか妖力を使い確認してから、彼女に妖力を詰め込んだ丸薬を飲ませた。

「これで回復するはずです」 

 すると、女の子の目が開いた。

「ここは……?」
「気付いた!」
「ここは月館島です。お名前は?」
「名前……ぬらりひょん」

 ぬらりひょん。それはあやかしの種族名だ。人の家に上がり込んでくるあやかしだったような……。

「自分の名前はないの?」
「うん。ぬらりひょんしか呼ばれた事ない」

 見た目は正直、ぬらりひょんよりも座敷わらしとかそういう類には見える。

「ほんとにぬらりひょん? 座敷わらしとかじゃなく?」
「ぬらりひょんしか言われた事無いからわかんない」
「そっか……教えてくれてありがとう」
「どういたしまして、だっけ?」
「うん、あってる」

 ぬらりひょんは起き上がり、話も出来ている。とりあえずは落ち着いているようだ。
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