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堕天
〈23話〉「急襲」
しおりを挟む「へぇ~、鈴里さんって元々進学の予定だった
んだ。それがどうしてこんなとこに…?」
「それは……まず、逹畄さんたちに憧れたって
いうのもあるんですけど……あんまり中学での
成績もよくなかったので………」
持って来た弁当を食べながら、僕は鈴里さんと
2人きりでお互いの話を繰り広げていた。
何故、2人だけなのか?
何を隠そう、マジで行きやがったのだ。
充さんと忍野先輩が、ガストに。
なんで連れて行かないんだ……!
ワシだって肉が食いたいのじゃ…!!
…なんて心の中で抜かしてても意味はないので
僕は引き続き、鈴里さんとの会話を続ける。
「…そういえば、印って人にも使えるんだね。
さっき鈴里さんが僕の怪我を治した時はなんか
ぬるっと終わってスルーしてたけど……」
「あー……確かに。私も説明を聞いた限りでは
魔言にしか効かないって思ってました」
「……僕もだよ」
もし僕が……いや絶対無いであろうが、もしも
僕が印を人に向け放ったとしたら確実に相手を
殺せるだろう。
想像するのも、実に容易い。
……そして僕は、ひとつ考えてしまう。
この印を、己の欲の為に使う者がいる可能性。
そしてそれが引き起こす、その危うさを。
もし、そんな人がいようものなら………
「………」
「……逹畄さん?」
「……!」
直後、僕は彼女の言葉で我に帰る。
「……どうかしましたか?」
「…あっ……いや、ごめん。なんでもないよ。
そうそう!今朝、充さんが信玄餅買ってくれた
んだけど、良かったら食べる?」
「えっ、良いんですか!?」
「2つ貰ったからあげるよ、1個」
僕は、朝に貰った信玄餅のひとつを取り出し、
席を近づけて鈴里さんに手渡した。
彼女の反応から察するに、おそらく彼女自身も
信玄餅は初めてなのだろう。
「あ、ありがとうございます…!」
「いやいや……お礼なら充さんに……」
「俺がどうしたって?」
「「うわぁぁああああ!?」」
いつの間にか背後にいた充さんの声に驚いて、
僕と鈴里さんは素頓狂な声を上げた。
「か、帰ってたんですね……」
「お、おかえりなさいです………」
至近距離にいる充さんから、肉の匂いがする。
こちとらおにぎりと少々のおかずとデザートの
ミカンしかなかったのに、なんて事を……
「いやーごめんね。お昼の持参有無についての
連絡なくて。もし2人が持ってこなかったら、
一緒にガスト行けたんだけど」
「あっ、忍野先輩」
「もう!先輩ばっかりズルいですよ!!」
「ッハハハ……さて、そろそろ13:30か………
そろそろ研修の再会を………ん?」
おそらく「研修を再開しよう」と持ち出そうと
したのであろう忍野先輩のズボンの尻ポケット
から、携帯の着信とバイブする音が聞こえた。
先輩は携帯を素早く取り出し、電話に出る。
「ちょっと待っててね………はい、忍野です。
……はい。………はい。………えっ!?………
…わかりました。失礼します。」
僕らに続き、忍野先輩も素頓狂な声を出した。
だが、どう見たって僕らが出したのとは違う。
表情も、その声も、緊迫している。
焦りも、微かながら苛立ちも見える。
僕も、鈴里さんも、充さんも、只事ではないと
悟ってしまうくらいに、わかりやすかった。
「……何があった?」
忍野先輩が電話を切るのとほぼ同時、充さんが
質問を投げかけた。
そして、その答えもすぐに返ってくる。
「…僕らが午前中にいった山、あるでしょ?」
「あの山……ですか?」
「うん。その山……魔言のテリトリーとしては
類を見ない大規模な奴だったらしいんだ。一部
住宅地も縄張りにされてるくらいにはね」
「そ、そんなに……」
「それで、私たちがその魔言を刺激しちゃった
結果、怒った魔言が山から降りてその住宅地を
襲撃しちゃってるみたいなんだ」
「えっ…!?」
「おかしい……魔言が山から出られないよう、
それなりの結界は張ってるはずなのに………」
「……それ、結構ヤバいんじゃねえか?しかも
こんな人が多いだろう真っ昼間に……!」
「は、早く行きましょう…!」
「うん…!充くん、車出して!!」
「もうエンジンならかかってる!!」
僕と鈴里さんは急いで充さんの車に乗る。
忍野先輩もバイクに跨り、エンジンを吹かす。
「じゃあ……行くよ…!!」
「飛ばすから掴まってろ!」
「「は…はい!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……調子はどうだ?」
『……予定通り、古紙と他3枚はそちらに』
「………そうか、わかった」
向こうは順調なようだな。さて……問題は……
……この魔言の大群を、どう使うかだな。
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