印ノ印

球天 コア

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堕天

〈13話〉「夜の学校」

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「よっ…こいしょっ……と。これでいい?」


「うーん………はい、そんな感じです!」





この中学の書道部が、最近大会で準優勝したと
いうことで、部室の壁にその賞状を飾りたい。


だが自分では椅子に乗っても手が届かない。
しかも人手が自分しかいない。
なので手伝って欲しい。

そんな願いを聞き、僕はそれを手伝った。


充さんは「任務優先」で動いていた為、僕とは
別の方向へ行ってしまったけれど、同じ書道の
道を志す者としては黙って見過ごせない。



「わざわざ、ありがとうございます……」
「いやいや……同じ書道部なんだしこれくらい
どうということはないよ」


鈴里さんの深いお辞儀に、僕は少し軽い会釈で
遠慮気味に返す。



「それにしても準優勝か……強いんだね、この
中学。僕のとこはそこまで良い成績じゃないし
羨ましいなぁ…」

「いやいや……それでも優勝は取り逃しちゃい
ましたから、逹畄さんと比べたとしてまだまだ
ですよ……」

それを賞状取った本人が言ってもねぇ……










……などと長いこと話を続けている内に、外は
すっかり暗くなってしまった。

時計の針が午後5時30分を指すと共に、下校の
チャイムが学校に響き渡る。

部活をしていた人達もゾロゾロと帰っていく。



「今日は本っ当に助かりました!!」
「じゃあ、気をつけてね」


鈴里さんを校門の前まで見送った僕は、改めて
本来の仕事に戻る。


「……やーっと終わったか」
「待たせてすいません、充さん……」

「まぁ良い。もう燻印は貼ってある。早いとこ
終わらせて、さっさと帰るぞ」

「わかりました…!」



訪れた時とは一転。真っ暗な廊下の中へと僕と
充さんは進み出した。

夜の学校は肝試しだの幽霊だの七不思議だのと
不可解極まりないジンクスがよくある。

……無論、魔言のいるこの世界でジンクスなど
求めてもどこかアレだが。



とりあえず、兎にも角にも探さなければ始まる
ことはないので、こうして歩いている。

だけど……


「……あんまり姿を現さないですね」

「魔言だってそれなりの知能はあるさ。よし、
手分けして探そう。俺は東側を、逹畄は西側を
重点的に探す」
「わかりました…!」


そして、再び充さんと別れた僕は、暗闇の中を
目を凝らしながら歩いていく。

頼れるのは窓から刺す夕暮れの赤い光のみ。






……その時。

ガタガタッと、一つの教室の中から物を漁る音
が廊下へと響き渡ってきた。

すぐに音がした教室の中へ入ってみると……






『ギュエエエェェェエエ…?』


(やっぱり魔言…!!)



人間とほぼ同サイズのカマキリの形をした魔言
が、教室のロッカーを漁っていた。

容姿は足からカマにかけての体色がどす黒く、
青い血管が体全身から浮き上がっている他にも
複眼の目が少々吊り目になっている。

魔言は僕の姿を見るや否や、カマを擦り合わせ
その刃を研ぎ始めた。
どうやら相手もこちらを敵と認識したらしい。


ならばこちらも、と僕は事前に用意しておいた
黒印を一枚構える。


あの図体だ。
飛びかかってきた隙を突いて、相手の腹辺りに
僕の印を打ち込めば確実に倒せる。

だが……



『キエエエエエエエエッ‼︎』


巨体の割に動きは俊敏で、最初に倒した魔言の
数倍の速度はあった。

僕は相手の下を潜って攻撃を避けるだけ避けて
攻撃できずに終わった。


しかも魔言は廊下の窓ガラスを破り、下の階へ
降りて逃げてしまう。

僕も教室を飛び出し、すぐさま階段から同じく
下へと駆け降りて行った。







だが、その時だった。









「いやぁぁぁぁぁあああっ!?」



ガラスが破れる音と一緒に、女性の悲鳴が耳に
突き刺さった。

僕は駆け降りていた階段を思い切って飛び降り
悲鳴のした方向へと走る。

そこには先ほどの魔言もいた。
だが、悲鳴の主と思われる人は……







「……って、鈴里さん!?」

「……た…逹畄さん…!」


先ほど家に帰ったはずの、鈴里さんだった。



「ど、どうしてまた学校に…!?」
「部室に忘れ物して……取りに行こうとしたら
……ば、化け物が………」 
「……とにかく、僕の後ろにいて!」





僕は咄嗟に鈴里さんの前に出る。

………マズイことになってしまった。
もう少し時間をかければ魔言を倒せただろうが
鈴里さんを庇った上で戦う以上、あまり時間を
かけることが出来ない。

充さんがこの場に一緒に居てくれたら良かった
のだが、今は別行動中だ。


少なくとも、先程の鈴里さんの悲鳴を聞いて、
こちらに向かってるに違いない。

それまではやはり……僕が耐え凌ぐしか無い。
だが、いけるのだろうか?




……その時。


「うっ……ううっ………」
「……!」



僕の背後で、鈴里さんが啜り泣く。














その瞬間。

僕の心は大きく、激しく揺れ動く。



そしてその揺らぎが、微かな覚悟に変わる。
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