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堕天
〈6話〉 「招待」
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ぼ、僕が……言士に…!?
「み、充さん、ソレ本気ですか!?」
「おう。俗に言う"招待"ってやつだな」
招待って……
僕に言士の才能があるとでも言うのか?
…聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず
今言いたいことを1つにまとめて僕は聞いた。
「…どうしてですか?」
「さっき逹畄の母親さんから聞いた話なんだが
まだ進路とか決まってないらしいな?」
「え…?……ま、まぁはい。大学受験とか
就職とか、色々考えてる途中ですけど……」
「おま…進学、就職すら決まってねぇの?」
「は、はい……恥ずかしながら……」
……唐突に進路相談が始まってしまった。
しかも相手が先生や両親ではなく充さんとの
二者面談形式で。
(母さんも何故暴露したんだ進路の事を……)
「高校2年の三学期にまでなって、未だに進路
決まってないのか……」
……どうしよう。恥ずかしくて充さんと、顔を
合わせることができない。
なので、充さんが今どんな表情をしているのか
わからないが、声を聞いた感じは動揺している
みたいだ。
……いや、なんで動揺されてるんだ?
すると、それを聞いた充さんの返答は……
「…なら、ますます都合が良いな」
「……はい?」
思わず充さんの顔を見てしまう。
彼の口角は上がっていた。
ニヤけてるようにも笑いを堪えているようにも
見える表情であった。
(なんだろう、少し腹が立ってきた)
「都合が良いって……何がですか?」
「別に逹畄を揶揄ってるわけじゃねえって。
ただタイミングが良かっただけだ。ぶっちゃけ
言士はメチャクチャ人手不足でな?こうやって
人を選んではスカウトしないとやってらんない
くらいなんだよ」
そんな理由で僕を言士に招待するのか…?
いや、そんなはずはない。
「もちろん、そんな生半可な理由だけでお前を
スカウトしたわけじゃないさ」
…良かった。相応の理由はあるみたいだ。
僕としても、人材不足なんていう穴埋めの如き
理由で呼ばれるのは普通に嫌だ。
「……なら、他の理由は?」
「……まず、お前に習字の才能があること」
「えっ……し、習字…?」
「まぁそれについては追い追い説明するとして
もう一つ。これが一番の理由だ」
………先にそっちを話せば良かったのでは…?
と心の中で充さんにツッコみつつ、僕はその
"一番の理由"の解答を待つ。
思わず、息を飲む。
「……"精神力"だよ」
「精神力…?」
精神力…?
"鋼のメンタル"だとか、そんな感じだろうか。
充さんは補足するように説明する。
「さっきも言ったとは思うが、逹畄には魔言を
見ても落ち着いていられる精神力がある」
「は、はぁ……」
「命の危機がせまってきたあの環境の中でも、
逹畄は冷静に物事を分析していた。『印』とか
魔言の存在とかを普通に受け入れている上に、
情報の飲み込みも早い……まぁ、まとめると
"才能の塊"ってところだな」
「さ、才能の塊って、そんな大袈裟な……」
充さんは「それに」と説明を続ける。
「それに……後悔してるんじゃないのか?」
「後悔…?」
「さっき魔言に喰われたお前の友人の事だよ。
逹畄みたいな奴には、"できることなら助けて
やりたかった"…みたいな気持ちが少なからず
あるんじゃないか?」
「……!」
充さんが部屋に入る前の出来事を思い出す。
一度は収まった惨状の余韻が、再び僕の心中で
吹き返してきたのだ。
図星で、大当たりで、大正解だ。
充さんの言葉に、想いを駆り立てられた。
死んだ友人、だけじゃない。
今みたいに平和に暮らしている両親も含めて、
日本に住む人々が、常日頃からあの危機の中で
生きて、往生際に晒されている。
確信した。アレは、人の死に方ではない。
「……まぁ言士自体も、危険な仕事だからな。
別に逹畄を強要するつもりなんて俺には無い。
"気が向いたら"程度に覚えててくれ。そんじゃ
俺は帰るぞ」
「待ってください」
「……?」
「……なります。なりたいです、言士」
「……本気か?」
部屋から出ようとした充さんはUターンし、
少し低い声で僕に言った。
魔言と戦っていた時と同じで、真剣な表情だ。
「半端者が行っても死ぬだけだぞ?覚悟は…」
「あります」
僕は即答する。
もう覚悟は決めた。
家族でも友人でも、赤の他人でも良い。
僕は人として、人を守りたい。
……僕は充さんと数分間睨み合う。
「……今週末だ」
「…!」
「今週末の日曜日に俺のところへ来ると良い。
移動費はこっちが負担してやる」
「……ありがとうございます…!」
「み、充さん、ソレ本気ですか!?」
「おう。俗に言う"招待"ってやつだな」
招待って……
僕に言士の才能があるとでも言うのか?
…聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず
今言いたいことを1つにまとめて僕は聞いた。
「…どうしてですか?」
「さっき逹畄の母親さんから聞いた話なんだが
まだ進路とか決まってないらしいな?」
「え…?……ま、まぁはい。大学受験とか
就職とか、色々考えてる途中ですけど……」
「おま…進学、就職すら決まってねぇの?」
「は、はい……恥ずかしながら……」
……唐突に進路相談が始まってしまった。
しかも相手が先生や両親ではなく充さんとの
二者面談形式で。
(母さんも何故暴露したんだ進路の事を……)
「高校2年の三学期にまでなって、未だに進路
決まってないのか……」
……どうしよう。恥ずかしくて充さんと、顔を
合わせることができない。
なので、充さんが今どんな表情をしているのか
わからないが、声を聞いた感じは動揺している
みたいだ。
……いや、なんで動揺されてるんだ?
すると、それを聞いた充さんの返答は……
「…なら、ますます都合が良いな」
「……はい?」
思わず充さんの顔を見てしまう。
彼の口角は上がっていた。
ニヤけてるようにも笑いを堪えているようにも
見える表情であった。
(なんだろう、少し腹が立ってきた)
「都合が良いって……何がですか?」
「別に逹畄を揶揄ってるわけじゃねえって。
ただタイミングが良かっただけだ。ぶっちゃけ
言士はメチャクチャ人手不足でな?こうやって
人を選んではスカウトしないとやってらんない
くらいなんだよ」
そんな理由で僕を言士に招待するのか…?
いや、そんなはずはない。
「もちろん、そんな生半可な理由だけでお前を
スカウトしたわけじゃないさ」
…良かった。相応の理由はあるみたいだ。
僕としても、人材不足なんていう穴埋めの如き
理由で呼ばれるのは普通に嫌だ。
「……なら、他の理由は?」
「……まず、お前に習字の才能があること」
「えっ……し、習字…?」
「まぁそれについては追い追い説明するとして
もう一つ。これが一番の理由だ」
………先にそっちを話せば良かったのでは…?
と心の中で充さんにツッコみつつ、僕はその
"一番の理由"の解答を待つ。
思わず、息を飲む。
「……"精神力"だよ」
「精神力…?」
精神力…?
"鋼のメンタル"だとか、そんな感じだろうか。
充さんは補足するように説明する。
「さっきも言ったとは思うが、逹畄には魔言を
見ても落ち着いていられる精神力がある」
「は、はぁ……」
「命の危機がせまってきたあの環境の中でも、
逹畄は冷静に物事を分析していた。『印』とか
魔言の存在とかを普通に受け入れている上に、
情報の飲み込みも早い……まぁ、まとめると
"才能の塊"ってところだな」
「さ、才能の塊って、そんな大袈裟な……」
充さんは「それに」と説明を続ける。
「それに……後悔してるんじゃないのか?」
「後悔…?」
「さっき魔言に喰われたお前の友人の事だよ。
逹畄みたいな奴には、"できることなら助けて
やりたかった"…みたいな気持ちが少なからず
あるんじゃないか?」
「……!」
充さんが部屋に入る前の出来事を思い出す。
一度は収まった惨状の余韻が、再び僕の心中で
吹き返してきたのだ。
図星で、大当たりで、大正解だ。
充さんの言葉に、想いを駆り立てられた。
死んだ友人、だけじゃない。
今みたいに平和に暮らしている両親も含めて、
日本に住む人々が、常日頃からあの危機の中で
生きて、往生際に晒されている。
確信した。アレは、人の死に方ではない。
「……まぁ言士自体も、危険な仕事だからな。
別に逹畄を強要するつもりなんて俺には無い。
"気が向いたら"程度に覚えててくれ。そんじゃ
俺は帰るぞ」
「待ってください」
「……?」
「……なります。なりたいです、言士」
「……本気か?」
部屋から出ようとした充さんはUターンし、
少し低い声で僕に言った。
魔言と戦っていた時と同じで、真剣な表情だ。
「半端者が行っても死ぬだけだぞ?覚悟は…」
「あります」
僕は即答する。
もう覚悟は決めた。
家族でも友人でも、赤の他人でも良い。
僕は人として、人を守りたい。
……僕は充さんと数分間睨み合う。
「……今週末だ」
「…!」
「今週末の日曜日に俺のところへ来ると良い。
移動費はこっちが負担してやる」
「……ありがとうございます…!」
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