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堕天
〈3話〉「言霊」
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「い、居るって……何が…?」
「……そんなもん、魔言に決まってんだろ」
充さんが平然とした口調でそう言ったので、
驚きと同時に恐怖を感じた。
まさか、自宅の中にさっきの化け物…魔言が
来ているとでも言うのだろうか?
もしそうだとしたら、今頃、両親は………
心配と邪推を抱えながら、家の玄関まで続く
道を充さんと一緒に歩き始めた。
………静寂。
聞こえるのは僕と充さんの足音と上空を飛ぶ
飛行機の音だけ。
玄関を照らす光も、道を照らす光もない。
ただの真っ暗で静かな道。
いつもなら何も考えずに通っている道でも、
学校での出来事を経験した今では、ガラッと
見る目が変わって来る。
すると「待て」という指示が充さんの口から
飛んできて、僕は足を止める。
「……あれ、見てみろ」
充さんの指差す方向には、家の玄関。
そのドアには、見慣れない札が貼ってある。
充さんはその札を見つけた途端、すぐさま
剥がして僕に見せてくれた。
真っ白で縦長な白紙。
その上には『喰』と赤い字で書かれてあった。
更にその紙には、字を書く際に使っただろう
赤い液体がベチャベチャと飛び散っている。
……まるで、返り血みたいな散り方だ。
「充さん、これはなんですか…?」
「……丁度良いな。ついでに説明してやるよ。
さっき『印』について車内で話してただろ?
この札もその『印』の一種だ」
初めて見た。
これが散々気になっていた『印』か。
すると、そのまま話題を続ける様に、
充さんは『印』について説明してくれた。
「まずこの世界には、至る所に文字がある。
そして、その文字ひとつひとつに"言霊"って
不思議な力が宿っている。特に日本人が使う
"漢字"にはどうゆう因果かエラい強力な言霊
が集まって来るんだ。その文字に蓄積された
言霊が形になったのが、あの"魔言"どもだ。
ここまでは車でザックリ説明したな」
…正確に言えば魔言に関する追加情報だが、
指摘したら面倒臭がられる気しかしないので
黙っておこう。
「魔言は、銃とか剣みたいな凶器を使っても
決して死なない。言霊……要するに最初から
この世に存在しない概念的なものだからな。
だが、アイツらにも一応弱点はある」
「弱点…?」
「…簡単に言えば、言霊同士の"共食い"だ。
魔言は、自身の言霊と異なる性質の言霊を
ぶつけられると、その言霊同士の間で謎の
化学反応みたいなのが起きて、消えるんだ。
『 +×-=- 』って式があるだろ?
あれみたいな感じだと思ってくれ」
異なる性質の言霊……か。
「それって、もしかして……!」
「おう。それが散々言ってた『印』だよ」
ようやく気になっていた事が明かされた。
だが、そのお陰で他の疑問も増えた。
言霊同士の反応の原理とか、"魔言"の言霊と
『印』の"言霊"の違いとかエトセトラ。
一度気になってしまうと、ついついそれに
食い付いてしまうのが僕の性なのだ。
良く言えば好奇心旺盛というかなんとか。
だがそんな興味は、直後の出来事ですぐに
吹き飛んでしまう。
それは、先ほど充さんが剥がした札。
「喰」という字が書かれた『印』。
それを充さんが突然、破き始めたのだ。
「み、充さん、何してるんですか…?」
「……俺たちの後ろ、見てみろよ」
言われるがまま、僕は背後を振り向く。
………その刹那、僕は絶句した。
先程まで何も無かった家の庭に、巨大な口が
何個も身体についた化け物………
……魔言が居たのだ。
「み、充さん……アレって…!?」
「俺がさっき破いた印から出た魔言だよ」
「ま、魔言って印から出るんですか!?」
「…いや、印の言霊から魔言が生まれるのは
ありえない現象だ。"普通"はな」
普通…?
「この印に込められた言霊は長い年月を掛け
力を吸い過ぎた言霊だ。さっき言っただろ?
蓄積された言霊が魔言になるって。紙破いて
溜まった力が放出されて出て来たんだよ」
充さんがそう説明している間にも、魔言は
僕達の元へゆっくり近づいてくる。
僕がどうしようと焦っていると、充さんが
魔言の前へと立ち塞る。
……左手に黒い札、右手に筆を構えながら。
「み、充さん………?」
「逹畄、良い機会だ。お前に見せてやるよ。
………言士の職がどんなもんかってのを」
「……そんなもん、魔言に決まってんだろ」
充さんが平然とした口調でそう言ったので、
驚きと同時に恐怖を感じた。
まさか、自宅の中にさっきの化け物…魔言が
来ているとでも言うのだろうか?
もしそうだとしたら、今頃、両親は………
心配と邪推を抱えながら、家の玄関まで続く
道を充さんと一緒に歩き始めた。
………静寂。
聞こえるのは僕と充さんの足音と上空を飛ぶ
飛行機の音だけ。
玄関を照らす光も、道を照らす光もない。
ただの真っ暗で静かな道。
いつもなら何も考えずに通っている道でも、
学校での出来事を経験した今では、ガラッと
見る目が変わって来る。
すると「待て」という指示が充さんの口から
飛んできて、僕は足を止める。
「……あれ、見てみろ」
充さんの指差す方向には、家の玄関。
そのドアには、見慣れない札が貼ってある。
充さんはその札を見つけた途端、すぐさま
剥がして僕に見せてくれた。
真っ白で縦長な白紙。
その上には『喰』と赤い字で書かれてあった。
更にその紙には、字を書く際に使っただろう
赤い液体がベチャベチャと飛び散っている。
……まるで、返り血みたいな散り方だ。
「充さん、これはなんですか…?」
「……丁度良いな。ついでに説明してやるよ。
さっき『印』について車内で話してただろ?
この札もその『印』の一種だ」
初めて見た。
これが散々気になっていた『印』か。
すると、そのまま話題を続ける様に、
充さんは『印』について説明してくれた。
「まずこの世界には、至る所に文字がある。
そして、その文字ひとつひとつに"言霊"って
不思議な力が宿っている。特に日本人が使う
"漢字"にはどうゆう因果かエラい強力な言霊
が集まって来るんだ。その文字に蓄積された
言霊が形になったのが、あの"魔言"どもだ。
ここまでは車でザックリ説明したな」
…正確に言えば魔言に関する追加情報だが、
指摘したら面倒臭がられる気しかしないので
黙っておこう。
「魔言は、銃とか剣みたいな凶器を使っても
決して死なない。言霊……要するに最初から
この世に存在しない概念的なものだからな。
だが、アイツらにも一応弱点はある」
「弱点…?」
「…簡単に言えば、言霊同士の"共食い"だ。
魔言は、自身の言霊と異なる性質の言霊を
ぶつけられると、その言霊同士の間で謎の
化学反応みたいなのが起きて、消えるんだ。
『 +×-=- 』って式があるだろ?
あれみたいな感じだと思ってくれ」
異なる性質の言霊……か。
「それって、もしかして……!」
「おう。それが散々言ってた『印』だよ」
ようやく気になっていた事が明かされた。
だが、そのお陰で他の疑問も増えた。
言霊同士の反応の原理とか、"魔言"の言霊と
『印』の"言霊"の違いとかエトセトラ。
一度気になってしまうと、ついついそれに
食い付いてしまうのが僕の性なのだ。
良く言えば好奇心旺盛というかなんとか。
だがそんな興味は、直後の出来事ですぐに
吹き飛んでしまう。
それは、先ほど充さんが剥がした札。
「喰」という字が書かれた『印』。
それを充さんが突然、破き始めたのだ。
「み、充さん、何してるんですか…?」
「……俺たちの後ろ、見てみろよ」
言われるがまま、僕は背後を振り向く。
………その刹那、僕は絶句した。
先程まで何も無かった家の庭に、巨大な口が
何個も身体についた化け物………
……魔言が居たのだ。
「み、充さん……アレって…!?」
「俺がさっき破いた印から出た魔言だよ」
「ま、魔言って印から出るんですか!?」
「…いや、印の言霊から魔言が生まれるのは
ありえない現象だ。"普通"はな」
普通…?
「この印に込められた言霊は長い年月を掛け
力を吸い過ぎた言霊だ。さっき言っただろ?
蓄積された言霊が魔言になるって。紙破いて
溜まった力が放出されて出て来たんだよ」
充さんがそう説明している間にも、魔言は
僕達の元へゆっくり近づいてくる。
僕がどうしようと焦っていると、充さんが
魔言の前へと立ち塞る。
……左手に黒い札、右手に筆を構えながら。
「み、充さん………?」
「逹畄、良い機会だ。お前に見せてやるよ。
………言士の職がどんなもんかってのを」
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