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団欒

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「ただいまー」

 リビングで僕、カエ、母さんの3人でテーブルを囲んで晩御飯を食べていたときだった。
 玄関から懐かしい声。
 父さんだ。いつも残業やら何とかやらで帰りが遅いので滅多に顔を合わさない。

「おかえり、今日は早いね」

「何か近所で事件が起こったらしくてな、仕事を中断して帰宅させれたんだ」

「……事件?」

「そんなことニュースでも報道されてないわよ?」

「まあ正直のところ俺にもよく分からん。だけどまあ、こうして久しぶりに息子達に会えたしまあいいじゃないか」

「そうね」

 母さんが珍しく微笑んだ。母さんにとっても嬉しいことなのだろう。
 それにしても事件か、なんだろう。
 まさかマキナのような人が他にもいたとか? そんな訳ないか。いずれニュースで流れるだろう。
 そんなことよりも今は久しぶりに揃った家族との団欒を楽しもうか。

「父さん、最近仕事どんな感じ?」

「まずまずだな。残業ばかりで本当にすまない」

「……平気」

 ボソリと呟くのはカエ。表情はいつも通り無表情に近いが、何となく嬉しそうにしているのが分かる。
 僕もカエぐらいの歳の時はこんな感じだったっけ。
 いや違うか、別に何とも思ってなかったっけな。お父さんが居ないのが普通だと思っているところもあったし。

「何度も言うけど単身赴任でいいのよ?」

「いや、俺が帰るときには皆寝てしまっているけど、家族の顔は毎日見たいんだ」

「あなたらしいわね」

 父さんは毎日帰ってきているらしいが深夜以降なので僕とカエは起きていない。

「じゃあ僕は今日授業でやる予定だったところを勉強してくるよ」

「ん? カナタの学校も休みになったのか?」

「ううん、休んだんだ、調子が悪くてさ」

「ほう……気をつけるんだぞ」

 父さんは心配そうに僕を見つめて、母さんは黙り続けていた。

 階段を上がってすぐそこにある自分の部屋に入る。
 数学はまだ因数分解だし、国語もやる必要はない。
 まあ化学くらいかな。最近モルとかよく分からないのが出てきたんだ。今日、先生がコツを教えてくれる予定だったんだけど、まあ行けなかったものは仕方がない。教科書に目を通すだけでも違うだろう。
 バッグを開けて化学の教科書を取り出そうと思ったが、僕の手はスマホを掴んでいた。
 悪い癖だ。勉強する前に必ずチャットアプリを確認してしまう。
 誰からもメッセージが来ていないことを確認してから今度はしっかり教科書を手に取り机の上に広げた。
 モル……モル。分からない。もともと頭はいい方ではない。授業を聞かなければちんぷんかんぷん、独学が出来ない人間なのだ。
 
「ま、今日くらいいっかー」

 大丈夫大丈夫。明日先生に聞いた方が確実に理解できるしね。そう自分に言い聞かせてベットに倒れ込んだ。
 コンコン
 今日は疲れたな。なんだふっ切れたって感じだ。刺激は求めてないけど今日のはワクワクしたし面白かった。
 あんなものを見たことがあるのは僕だけだろう。
 コンコン
 ワープゲートに悪魔。どうせなら悪魔本体も見たかったかも何て……
 コンコン
 勉強する気も失せたし父さんと雑談でもしに行こうかな。

「あーーーーーもう! 何回私にノックさせるのよ! 1回で気づきなさいよ1回で!」

 大きな女の声が外で響いた。
 ギョッとして窓の外を覗くとそこにはマキナが顔を真っ赤にして今にも鼻から煙を吐きそうな顔をして立っていた。


 
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