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【第二部】魔王覚醒編
38)One of higer worlds
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程よい明るさの照明が灯された室内。ベッドに横たわっていた男は突然起き上がると、被っていたヘッドギアを乱暴に投げ捨てた。
「あークソッ!」
そう毒づく男――ドーヴィは頭を掻きむしってから、大きなため息をつく。
ここはドーヴィがグレンに説明したところの『悪魔の世界』……要は、ドーヴィの自宅だ。
「ジェイギー、コーヒーを一杯」
『かしこまりました』
どこからともなく落ち着いた中性的な声がドーヴィの呼びかけに返事をする。それを聞きつつ、ドーヴィは手元に半透明の空中に浮かぶウインドウを出した。
――悪魔は、生前の人間だった頃の文明レベルに沿った生活をしている。
ドーヴィはもともと、創造神が実験的に作った『ハイレベル文明』の世界で人間をやっていた。その世界では魔法と同時に機械科学と呼ばれる技術が異常に発達しており、グレン達の世界とは比べ物にならないほどに豊かな生活を送っていたのだ。
ベッドサイドの小さなテーブルに、良い香りのコーヒーがメロディと共に現れる。
『どうぞごゆっくり』
声の主、ジェイギーとはこの家を統括する執事、あるいはメイドと言っても通じるだろう、そういう仕事を行う機械だ。いや、家そのものと言った方が良いかもしれない。脳を持った自立型の家だ。
家事は全てジェイギーが行うし、ドーヴィが必要だと言えばどこからでもあらゆるものを取りよせ、ドーヴィが暇だと言えば、暇つぶしになる娯楽を提供する。もちろん、火事や泥棒と言った物にも対応可能だ。
何なら、外から攻撃されたとしてもジエイギーが自動で防御を行い、ドーヴィの指示に従って反撃まで行う。非常に便利な、家、だ。
……ドーヴィは科学者ではなかったからこの家がどういう原理、どういう材料、どういう技術で動いているのか何も知らない。ただ、生まれた時からこういう生活をしていたのだからそれをここでも再現しているに過ぎなかった。
『何かお探しですか?』
コーヒーを片手にウインドウをいくつも開いて高速でスクロールあるいはジャンプしているのを検知したジェイギーがドーヴィに尋ねる。
「ああ。天使のデータセンターか……あるいは、世界管理センターか、そんな感じの施設」
『私も探してみましょう』
「おう、頼むぞ」
チチチ、と小さな電子音が鳴り、ドーヴィの頭上に大量のウインドウが展開された。ジェイギーがドーヴィよりも遥かに速いスピードで施設検索をしていく。
検索結果のリストに一件、二件……と徐々に施設のアドレスが増えて行った。
ドーヴィが何を探しているのかと言えば。それはもちろん、これから襲撃をする施設である。グレンの世界に再び戻るために。
「ジェイギー、大規模施設は除外してくれ」
『具体的な条件はありますか? なければ現在の結果を規模順に並び返し、上位三十パーセントを除外対象とします』
「とりあえずそれで」
ジェイギーに施設のリストアップを任せたドーヴィは、コーヒーを飲み干した。テーブルに置いておけば、あとはジェイギーが片付けてくれる。
「ジェイギー! 外出用……いや、戦闘用の服!」
『かしこまりました』
途端、ドーヴィは室内で着ていた薄いTシャツとジーパン姿から、あっという間に迷彩柄の戦闘服へと様変わりした。これもまた、ドーヴィが人間だった頃に着ていた服だ。防弾チョッキに分厚いグローブ、各種ハーネス、そしてコンバットブーツ。腰にナイフと、ハンドガン。
どの悪魔もこの姿をするわけではないし、何なら別にこの姿をしたから天使との戦いに有利になるというわけでもない。ただ、ドーヴィが「戦いにはこの服」と思っているから、それが現れただけ。
結局のところ、天使と戦う時には魔法の撃ちあいになるだろう。他の悪魔と戦う時も同じだ。
この世界。グレン達がいる、人間用の牧場世界とは違い、創造神が作った天使と悪魔のための世界。人間から見れば、いわゆる上位世界と言ったところだろうか。
ドーヴィの住む世界には、多種多様な天使と悪魔が生活している。そしてその天使と悪魔は、それぞれが出身世界の異なる存在だ。文化が違う、文明が違う、倫理観が違う、その他諸々。
そんな異世界民だらけの世界をどうやって創造神が構築したかと言えば――すべての事象を、その場で翻訳させたのだった。
例えばドーヴィが持っているナイフは『ナイフ』という事象が存在していた世界の天使や悪魔にはナイフそのものとして受け止められる。それ以外の天使や悪魔には『ナイフに限りなく近い代用品』として受け止められるのだ。
もちろんドーヴィはナイフをナイフだと思っているから、他の天使や悪魔から何に視えているかはわからない。同時に、相手は相手でドーヴィの持つナイフをナイフではない他の何かと認識して処理している。
……たまに、上手く翻訳ができないときに『未知の事象』として伝わる事があるが。それでも、ほとんどは翻訳可能となっており、星の数ほどある異世界の民がこうして一つの世界でそれなりに生活できているのであった。
ちなみに、翻訳が上手くできなかった時は「方言が出た」という。以前、ドーヴィの比喩が天使マルコに伝わらない事があったが、あれも翻訳失敗の一種である。
「……よし」
装備品の確認を終えたドーヴィが、軽くブーツで床を蹴る。
ジェイギーの検索結果を確認し、良さそうな施設を見つけた。ドーヴィの自宅からそれなりに近いところに存在し、そこそこの規模の施設。
「ジェイギー、しばらく留守にするからその間の維持を頼む」
『かしこまりました。いってらっしゃいませ』
しばらく、がどれぐらいになるかドーヴィもわからないが。……まあ、自分が死ねば同時にこの家も消えることになる。
物理的に家が建っているわけではなくて、ドーヴィの魔力を基にした一種の魔法なのだ、この家は。
出入口として使っている玄関の扉を開ければ、外には庭が広がっている。さらにその向こうには――灰色の空間だ。
霧よりも濃いが、暗闇よりも薄い。この世界は、翻訳の必要が無い部分は全てグレーアウトして処理しているから、灰色になっているだけ。言い換えれば、全て魔力で満ちている「何も定義されていない不定の空間」だ。
灰色の空間に近いところで、ドーヴィはお目当ての施設に対して転移の魔法を発動する。この世界では転移で移動するのが標準だ。たまに物好きが、あの灰色の不定空間に道路を作ったり、空を作ったり、海を作ったりして移動している姿を見かけることもある。
だが、今のドーヴィは急いでいるのだ。そんな悠長なことはしていられない。
そうして発動した転移魔法の通りに、ドーヴィは天使が仕事をしている世界管理センターに辿り着いた。
もちろん、この名称もドーヴィがこの施設を「そういう名前が似合いそう」だと思ったから、そういう名称でジェイギーと意思疎通しているだけであり。正式名称、というものは無いのだろう。それぞれが各々で好きな名称で呼んでいる。翻訳が働いているから、それで良いのだ。
「失礼、特定世界のIDを調べに来たんだが」
受付、らしきところに行けば。天使はドーヴィを見て目を丸くした後に嫌そうに顔を歪める。
「悪魔からの問い合わせは受け付けておりません」
「そこをなんとか、できないか?」
「受け付けておりません」
にべもなく受付の天使はそう答えて、ドーヴィから視線を逸らして仕事に戻った。
「やれやれ」
ドーヴィは肩を竦めた後、持っていたハンドガンで天使の頭を撃ち抜く。パンッと乾いた音がした後に、周囲に血の香りが漂った。
「結局こうなるんだよなぁ、せっかく丁寧に訪問してやってるのによ」
二人目の天使が驚いた顔のままに、ドーヴィに撃ち抜かれて床に倒れ落ちた。それを見て、ドーヴィは走り始める。
施設内のマッピングを持っている走査端末を使って行いつつ、その辺を歩いている天使はとりあえず片っ端からハンドガンの餌食にしていった。戦闘型ではなさそうだが、残しておいても厄介だ。
最初からドーヴィは決めている。グレンの下に戻るためなら、何でもする。何でもするからには、一切の手加減をしないと。
目につく天使は、全て皆殺しにする。ドーヴィはそう決めた。殺されるのが嫌なら、最初からドーヴィの「お願い」を聞いてくれればよかっただけなのに。
……施設内に、警報が響き渡る。ようやく、ドーヴィの侵入を検知したのだろう。そのうち、戦闘型天使が押し寄せてくるはずだ。
(さーて、どうなるか……)
こちらの世界での戦いは、久々になる。それこそ、以前に創造神のひざ元まで迫った時以来だ。
ドーヴィの体は、こちらが本体だ。グレンの世界に飛ばしているのは、精神体に過ぎない。それをドーヴィはフルダイブ型VRゲームとして、こちらの世界で再現していた。ヘッドギアをしていたのも、それをイメージしていたからこそ。
逆に言えば。こちらで死ねば、それがドーヴィの本当の死だ。悪魔として死ねば、転生することなくその命は埋め立てゴミとして処理されて消える。
天使は再利用されるし、人間も洗浄された後に別の牧場へ出荷される。悪魔だけが、利用価値もなくゴミとなって捨てられるのであった。
そうなったら、本当にグレンと再会できなくなる。最悪の事態は避けつつ、何とかここにあるデータベースからグレンがいる世界のIDを持って帰りたいところ。
ステルス効果のある胸元の小さなバッジを電源ONにして、ドーヴィは戦闘型天使の目を掻い潜りながらセンターの中心へと急いだ。
それでも、見破ってくる天使は何とか返り討ちにしていく。施設の白い床や壁を血で赤く染め、自身も返り血を浴びながら。
ドーヴィの通った後には、事切れた天使の死体が積み上がっていく。何しろ、わざわざ小規模な施設を選んできたのだ。この程度の戦闘型天使なら、ドーヴィの敵ではない。
「よっと!」
数えるのも面倒になった天使の喉元を後ろからナイフで掻き切り、始末を終えた。力を失くした天使を床に投げ捨て、ドーヴィはお目当ての部屋の扉に小型爆弾を仕掛ける。
少し離れたところで待機、のち爆発音と共に扉が吹き飛ぶ。
この部屋は、データセンターの中央管理室。ドーヴィが求めていた、人間が住んでいる世界のデータが集約された場所だ。
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土日は更新ありません
年齢制限つけてないからあんま暴力的で流血沙汰なシーンはいけないね、と思ってたくさんぼやかしました
趣味に走ってすまねえ ワシはSF系・ミリタリー系の方が好きなんじゃ……
書くタイミングが無さそうなのでおまけ
フィルガーは人間の世界に行くときは「舞台の幕を上げる」イメージです
自宅に人間の世界に行く時用の舞台があるので、毎回そこで幕を上げてますし、帰ってきたら下ろしてます
フィルガーは律義
ケチャは「猫ちぐら(!?)にもぞもぞ入る」と人間の世界に飛びます
ケチャかわいい
で、ドーヴィはこれが「VR用のゴーグルを着ける」って感じです
人それぞれならぬ悪魔それぞれ
やってることはみんな同じですが、翻訳が働いてそれぞれの悪魔に見合った入り方になるのです
「あークソッ!」
そう毒づく男――ドーヴィは頭を掻きむしってから、大きなため息をつく。
ここはドーヴィがグレンに説明したところの『悪魔の世界』……要は、ドーヴィの自宅だ。
「ジェイギー、コーヒーを一杯」
『かしこまりました』
どこからともなく落ち着いた中性的な声がドーヴィの呼びかけに返事をする。それを聞きつつ、ドーヴィは手元に半透明の空中に浮かぶウインドウを出した。
――悪魔は、生前の人間だった頃の文明レベルに沿った生活をしている。
ドーヴィはもともと、創造神が実験的に作った『ハイレベル文明』の世界で人間をやっていた。その世界では魔法と同時に機械科学と呼ばれる技術が異常に発達しており、グレン達の世界とは比べ物にならないほどに豊かな生活を送っていたのだ。
ベッドサイドの小さなテーブルに、良い香りのコーヒーがメロディと共に現れる。
『どうぞごゆっくり』
声の主、ジェイギーとはこの家を統括する執事、あるいはメイドと言っても通じるだろう、そういう仕事を行う機械だ。いや、家そのものと言った方が良いかもしれない。脳を持った自立型の家だ。
家事は全てジェイギーが行うし、ドーヴィが必要だと言えばどこからでもあらゆるものを取りよせ、ドーヴィが暇だと言えば、暇つぶしになる娯楽を提供する。もちろん、火事や泥棒と言った物にも対応可能だ。
何なら、外から攻撃されたとしてもジエイギーが自動で防御を行い、ドーヴィの指示に従って反撃まで行う。非常に便利な、家、だ。
……ドーヴィは科学者ではなかったからこの家がどういう原理、どういう材料、どういう技術で動いているのか何も知らない。ただ、生まれた時からこういう生活をしていたのだからそれをここでも再現しているに過ぎなかった。
『何かお探しですか?』
コーヒーを片手にウインドウをいくつも開いて高速でスクロールあるいはジャンプしているのを検知したジェイギーがドーヴィに尋ねる。
「ああ。天使のデータセンターか……あるいは、世界管理センターか、そんな感じの施設」
『私も探してみましょう』
「おう、頼むぞ」
チチチ、と小さな電子音が鳴り、ドーヴィの頭上に大量のウインドウが展開された。ジェイギーがドーヴィよりも遥かに速いスピードで施設検索をしていく。
検索結果のリストに一件、二件……と徐々に施設のアドレスが増えて行った。
ドーヴィが何を探しているのかと言えば。それはもちろん、これから襲撃をする施設である。グレンの世界に再び戻るために。
「ジェイギー、大規模施設は除外してくれ」
『具体的な条件はありますか? なければ現在の結果を規模順に並び返し、上位三十パーセントを除外対象とします』
「とりあえずそれで」
ジェイギーに施設のリストアップを任せたドーヴィは、コーヒーを飲み干した。テーブルに置いておけば、あとはジェイギーが片付けてくれる。
「ジェイギー! 外出用……いや、戦闘用の服!」
『かしこまりました』
途端、ドーヴィは室内で着ていた薄いTシャツとジーパン姿から、あっという間に迷彩柄の戦闘服へと様変わりした。これもまた、ドーヴィが人間だった頃に着ていた服だ。防弾チョッキに分厚いグローブ、各種ハーネス、そしてコンバットブーツ。腰にナイフと、ハンドガン。
どの悪魔もこの姿をするわけではないし、何なら別にこの姿をしたから天使との戦いに有利になるというわけでもない。ただ、ドーヴィが「戦いにはこの服」と思っているから、それが現れただけ。
結局のところ、天使と戦う時には魔法の撃ちあいになるだろう。他の悪魔と戦う時も同じだ。
この世界。グレン達がいる、人間用の牧場世界とは違い、創造神が作った天使と悪魔のための世界。人間から見れば、いわゆる上位世界と言ったところだろうか。
ドーヴィの住む世界には、多種多様な天使と悪魔が生活している。そしてその天使と悪魔は、それぞれが出身世界の異なる存在だ。文化が違う、文明が違う、倫理観が違う、その他諸々。
そんな異世界民だらけの世界をどうやって創造神が構築したかと言えば――すべての事象を、その場で翻訳させたのだった。
例えばドーヴィが持っているナイフは『ナイフ』という事象が存在していた世界の天使や悪魔にはナイフそのものとして受け止められる。それ以外の天使や悪魔には『ナイフに限りなく近い代用品』として受け止められるのだ。
もちろんドーヴィはナイフをナイフだと思っているから、他の天使や悪魔から何に視えているかはわからない。同時に、相手は相手でドーヴィの持つナイフをナイフではない他の何かと認識して処理している。
……たまに、上手く翻訳ができないときに『未知の事象』として伝わる事があるが。それでも、ほとんどは翻訳可能となっており、星の数ほどある異世界の民がこうして一つの世界でそれなりに生活できているのであった。
ちなみに、翻訳が上手くできなかった時は「方言が出た」という。以前、ドーヴィの比喩が天使マルコに伝わらない事があったが、あれも翻訳失敗の一種である。
「……よし」
装備品の確認を終えたドーヴィが、軽くブーツで床を蹴る。
ジェイギーの検索結果を確認し、良さそうな施設を見つけた。ドーヴィの自宅からそれなりに近いところに存在し、そこそこの規模の施設。
「ジェイギー、しばらく留守にするからその間の維持を頼む」
『かしこまりました。いってらっしゃいませ』
しばらく、がどれぐらいになるかドーヴィもわからないが。……まあ、自分が死ねば同時にこの家も消えることになる。
物理的に家が建っているわけではなくて、ドーヴィの魔力を基にした一種の魔法なのだ、この家は。
出入口として使っている玄関の扉を開ければ、外には庭が広がっている。さらにその向こうには――灰色の空間だ。
霧よりも濃いが、暗闇よりも薄い。この世界は、翻訳の必要が無い部分は全てグレーアウトして処理しているから、灰色になっているだけ。言い換えれば、全て魔力で満ちている「何も定義されていない不定の空間」だ。
灰色の空間に近いところで、ドーヴィはお目当ての施設に対して転移の魔法を発動する。この世界では転移で移動するのが標準だ。たまに物好きが、あの灰色の不定空間に道路を作ったり、空を作ったり、海を作ったりして移動している姿を見かけることもある。
だが、今のドーヴィは急いでいるのだ。そんな悠長なことはしていられない。
そうして発動した転移魔法の通りに、ドーヴィは天使が仕事をしている世界管理センターに辿り着いた。
もちろん、この名称もドーヴィがこの施設を「そういう名前が似合いそう」だと思ったから、そういう名称でジェイギーと意思疎通しているだけであり。正式名称、というものは無いのだろう。それぞれが各々で好きな名称で呼んでいる。翻訳が働いているから、それで良いのだ。
「失礼、特定世界のIDを調べに来たんだが」
受付、らしきところに行けば。天使はドーヴィを見て目を丸くした後に嫌そうに顔を歪める。
「悪魔からの問い合わせは受け付けておりません」
「そこをなんとか、できないか?」
「受け付けておりません」
にべもなく受付の天使はそう答えて、ドーヴィから視線を逸らして仕事に戻った。
「やれやれ」
ドーヴィは肩を竦めた後、持っていたハンドガンで天使の頭を撃ち抜く。パンッと乾いた音がした後に、周囲に血の香りが漂った。
「結局こうなるんだよなぁ、せっかく丁寧に訪問してやってるのによ」
二人目の天使が驚いた顔のままに、ドーヴィに撃ち抜かれて床に倒れ落ちた。それを見て、ドーヴィは走り始める。
施設内のマッピングを持っている走査端末を使って行いつつ、その辺を歩いている天使はとりあえず片っ端からハンドガンの餌食にしていった。戦闘型ではなさそうだが、残しておいても厄介だ。
最初からドーヴィは決めている。グレンの下に戻るためなら、何でもする。何でもするからには、一切の手加減をしないと。
目につく天使は、全て皆殺しにする。ドーヴィはそう決めた。殺されるのが嫌なら、最初からドーヴィの「お願い」を聞いてくれればよかっただけなのに。
……施設内に、警報が響き渡る。ようやく、ドーヴィの侵入を検知したのだろう。そのうち、戦闘型天使が押し寄せてくるはずだ。
(さーて、どうなるか……)
こちらの世界での戦いは、久々になる。それこそ、以前に創造神のひざ元まで迫った時以来だ。
ドーヴィの体は、こちらが本体だ。グレンの世界に飛ばしているのは、精神体に過ぎない。それをドーヴィはフルダイブ型VRゲームとして、こちらの世界で再現していた。ヘッドギアをしていたのも、それをイメージしていたからこそ。
逆に言えば。こちらで死ねば、それがドーヴィの本当の死だ。悪魔として死ねば、転生することなくその命は埋め立てゴミとして処理されて消える。
天使は再利用されるし、人間も洗浄された後に別の牧場へ出荷される。悪魔だけが、利用価値もなくゴミとなって捨てられるのであった。
そうなったら、本当にグレンと再会できなくなる。最悪の事態は避けつつ、何とかここにあるデータベースからグレンがいる世界のIDを持って帰りたいところ。
ステルス効果のある胸元の小さなバッジを電源ONにして、ドーヴィは戦闘型天使の目を掻い潜りながらセンターの中心へと急いだ。
それでも、見破ってくる天使は何とか返り討ちにしていく。施設の白い床や壁を血で赤く染め、自身も返り血を浴びながら。
ドーヴィの通った後には、事切れた天使の死体が積み上がっていく。何しろ、わざわざ小規模な施設を選んできたのだ。この程度の戦闘型天使なら、ドーヴィの敵ではない。
「よっと!」
数えるのも面倒になった天使の喉元を後ろからナイフで掻き切り、始末を終えた。力を失くした天使を床に投げ捨て、ドーヴィはお目当ての部屋の扉に小型爆弾を仕掛ける。
少し離れたところで待機、のち爆発音と共に扉が吹き飛ぶ。
この部屋は、データセンターの中央管理室。ドーヴィが求めていた、人間が住んでいる世界のデータが集約された場所だ。
----
土日は更新ありません
年齢制限つけてないからあんま暴力的で流血沙汰なシーンはいけないね、と思ってたくさんぼやかしました
趣味に走ってすまねえ ワシはSF系・ミリタリー系の方が好きなんじゃ……
書くタイミングが無さそうなのでおまけ
フィルガーは人間の世界に行くときは「舞台の幕を上げる」イメージです
自宅に人間の世界に行く時用の舞台があるので、毎回そこで幕を上げてますし、帰ってきたら下ろしてます
フィルガーは律義
ケチャは「猫ちぐら(!?)にもぞもぞ入る」と人間の世界に飛びます
ケチャかわいい
で、ドーヴィはこれが「VR用のゴーグルを着ける」って感じです
人それぞれならぬ悪魔それぞれ
やってることはみんな同じですが、翻訳が働いてそれぞれの悪魔に見合った入り方になるのです
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