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【第一部】国家転覆編
23)ヒトのかたち
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「ドーヴィ殿、それは……」
ドーヴィの発言に、アーノルドが口を戦慄かせて問う。それにドーヴィが答えようとしたところで――タイミング悪く、扉がノックされた。
「失礼します、マルコ司教がいらっしゃいました」
「!」
「……話はあとで、だな」
アーノルドは小さくため息をついて頷き、扉を開いた。メイドに案内されて到着したマルコ司教は、急な訪問ゆえか普段はかっちり固めている髪を多少乱し、肩で息をついている。
「申し訳ありません、急な事でして……」
「いえ、構いません。それより、グレン様を。ある程度、話は道中で聞いてきましたが……」
ちらり、とドーヴィに視線を送ったマルコ司教はすぐにグレンが眠るベッド脇へと膝をついた。泣き腫らし、立てなくなってしまったメイド長のフローレンスを、マルコ司教の案内をしてきたメイドが気遣う。……フローレンスは、そのまま他のメイド達の力も借りて、落ち着かせるために別室へ移動させるようにアーノルドが指示を出した。
普段、おっとりしているメイド長の取り乱しぶりに、メイドや廊下で待機していた騎士たちが不安そうな表情を浮かべる。アーノルドはそれに対して何を言うでもなく、ただ険しい顔で小さく首を振っただけだった。
しばし、マルコ司教はグレンに手を翳すなどして確認した後に「それでは祈りを捧げます。申し訳ありませんが、他の方はご退室を」と促す。アーノルドは泣きそうな顔をしながら、マルコ司教に深く頭を下げた。
「そちらの護衛の方はそのままお残りください。グレン様に魔力譲渡をなさった方ですね?」
それに頷いたドーヴィだけが残り、他は全員が退室する。眠ったままのグレンと、厳しい顔をしたマルコ司教と、どことなく嫌そうな顔をした護衛のドーヴィ。
「はぁ」
マルコ司教が聞こえよがしにため息をつき……世界を流れる時間が、先日の様に超低速へと移行した。ほぼ、時間が停止しているのと同じと言えるほどに。
「悪いな、来てもらって」
「……いえ、グレン君がこうなってしまった事に、我々天使としても思うところはありますから」
そう言いつつ、天使マルコはグレンの胸の上に手を置いた。そして、ぐっ、と力を籠めるとマルコのたおやかな白い手はグレンの胸へと文字通り沈んでいく。
「で、聞きますが、貴方、何をしたんです? なんですかこの魂の形も、命の形も……」
「仕方ねえだろ、俺はその辺専門外なんだから! とりあえず命を戻して、魂を作ったはいいんだけどよ……専門家にいい感じに直してもらえねーかなって」
「……はぁ。そう気軽に言いますけどね……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、マルコは手を動かしてグレンの体内を弄る。
「命は洗浄を施しましたので大丈夫でしょう。魂の方は……命に対しての癒着がひどすぎて、これは直さない方が良いと思いますね。最低限、形は整えます」
「魂としての機能は大丈夫か?」
「……天使の立場から言うと、先ほども申し上げた通り命に対して癒着しすぎています。これでは命の回収時に相当苦労します」
「それはどうでもいいわ、俺関係ねえし」
飄々と言ったドーヴィをマルコはギッと鋭く睨みつけた。ドーヴィは肩を竦めるだけ。何の文句を言っても無駄だと改めて悟ったマルコは、疲れたようなため息をついて話を続けた。
「グレン君として、であれば……まあ、問題はないでしょう。ですが、貴方の魔力を基にした魂です。人間は魂を魔力の根源とする……つまり、今後、彼の魔力は貴方の魔力を基にして行使されることになりますね」
「へー。それが何か問題でも?」
「人間と悪魔及び天使では魔力の純度が違います。我々が魂を作って打ち込むときは『人間用』に魔力の純度をかなり下げているのですよ。ですから……グレン君が今後、魔法を使う時には威力に注意して頂かないと。これまでと同じ感覚で使うと、とんでもない威力の魔法になってしまいますよ」
マルコの説明を聞いたドーヴィは「あー……」とようやく合点がいった、と中途半端な声をあげた。専門外で焦っていたとは言え、ドーヴィはここでも無駄に失態を犯していたらしい。マルコに言われて、初めて気が付いた。
別に威力が強くなるだけなら良いのだが、過ぎた力は身を滅ぼす。例えば攻撃魔法の制御ができず、反動で自分が吹き飛んでけがをしたり、周囲を巻き込んでしまったり。そう言った事は容易に予想ができた。
「それから、この右目。貴方の魔力が発現していますが」
天使マルコはグレンの胸から手を引き、布に覆われたグレンの右目を撫でる。
「お気をつけなさい、こちらも『悪魔の瞳』に変質しています。人間には視えてはいけないものが視えるようになっているでしょう」
「ぐっ……それもあったか……」
「人間にとって我々が視えている世界と言うのは、馴染まぬものですし精神に負荷がかかります。よほどのことが無い限りは、こうして布などで塞いで封印しておくのが良いかと」
「……後でばあやに眼帯でも作ってもらうかねえ」
それが良いでしょうね、と天使マルコは本日何回目かのため息とともに言った。そうして、再度、グレンの胸に手を当てる。
「ところで、貴方が作ったのは疑似魂だけですか」
「? そうだが?」
「命には手をつけていない?」
「もちろん」
その辺はやはり天使の領分であり、悪魔のドーヴィにとっては専門外すぎる。余計な事をして、グレンの命を逆に傷つけることなどあってはならない、そう考えてドーヴィは手を出さずに静観していた。
マルコの物言いに嫌な予感を覚えつつ、理由を尋ねる。
「……グレン君、なぜか足が無くなって手が4本になっていますが」
「はああぁぁぁ!? な、何事だよ!?」
「貴方が何か余計な事をしたわけではない、と言うならグレン君の意思ですかね……」
意思が宿る命の形を決めるのは天使だ。だが、なぜかグレンは命の形が本来の形から変化している。
「いや確かに、グレンのやつ死んだ直後は命の形が保てなくなって溶けたりしてたけどな……」
「……まあとにかく。貴方、ちょっとグレン君に話聞いてきたらどうですか。肉体と命の形が不一致だと、不便ですよ」
グレンの肉体は手が2本に足が2本。命の形は手が4本に足が0本。となると、この先、グレンが目覚めた時、肉体にあるはずの両足を動かせなくなってしまう。逆に手が4本あっても肉体には2本しかないのだから、無用の長物だ。
「グレン君のところまで送りますから」
「……頼む」
ドーヴィがグレンの手を掴み、魔力譲渡を始める。こうして魔力を通じて繋がることで、相手の精神空間と言うべき場所まで行くことができるようになる……が、それをスムーズに行えるのは、天使ぐらいなものだ。ドーヴィが前回、グレンと上手く意思疎通ができたのは、グレン側が完全に無防備になっていたからにすぎない。
グレンとドーヴィの魔力が繋がったのを確認し、マルコはドーヴィをグレンの意思まで導いた。
目を瞑り、グレンと何か話しているらしいドーヴィ。話すと言っても、精神体同士の会話であるから口が動くわけではない。そして天使マルコとしても、二人の会話を盗聴するほど無作法ではなかった。
しばらくのち、ドーヴィは目を開いてがっくりと肩を落とす。
「とりあえず説得してきた」
「一応聞きますが、なんだったんです?」
「……『腕が4本あったらドーヴィと2倍抱き合える!』だそうだ」
「……グレン君って、そんなにアホの子でしたっけ」
ドーヴィと同じように天使マルコもどっと疲れたように肩を落とす。それに対してドーヴィは乾いた笑い声を上げながら「いやあ俺の契約主が可愛すぎて困るね!」と言っておいた。
「とは言え、人間の範疇で命の形を自由に変化できるというのは、大したものですよ」
「まあ、あいつも何だかんだいって人間の中でも上から数えた方が早いほどの天才魔術師だからなぁ……」
そうですね、と言いながらマルコは立ち上がる。
「私ができるのはこれぐらいでしょう。後は普通に魔力譲渡を続け、人間の文明の範囲内で治療すれば問題ないかと。魔力回路も再生の兆しがありますからね」
「ああ、悪かったな。……ところで、定期的に来てグレンの命の形を見て貰った方が良い気が俺はしてるんだが」
「……それは私も同意します。完全に形が固まる前ならまだ簡単に直せますし……」
恐らく、グレンは理性を失くして本能の赴くままに興奮している状態なのだろう。肉体と言う制限もなく、時間と言う概念も空腹や疲労と言う障害もない状況で、新しい粘土遊びをしているようなものだ。
こねて作って、自分がなりたい自分になる。非常にシンプルで、実に楽しそうな遊びだ。ドーヴィはそう考えるとグレンに振り回されるのも悪くない、と思う。せっかくの休息なのだから、グレンは何も気にせずに大いに遊んで楽しんで欲しい。
「では、私はこれで――」
「おいおい、おれがせっかく来たってのに、解散か?」
時間の流れを元に戻そうとしたマルコは、背後から声をかけられ勢いよく振り向いた。ドーヴィは自分の前にいる、では後ろにいるのは? この部屋には、3人しかいなかったはずだ。
マルコが振り返った先、寝室のデスクに一匹の黒猫が座っていた。その黒猫は目を細めてマルコを見返した後に、前方に手を伸ばしてぐっと猫の体を伸ばす。
「よおケチャ、早かったな」
「ちょうどタイミングが良かったんだ。せっかくお前がやる気になったって返事をくれたし……」
黒猫のケチャ……幸運の悪魔・ケチャはそう言いながらデスクから身軽にトン、と飛び降りると、天使マルコの足元を通ってグレンの眠るベッドに飛び乗った。
「なんだか、最高に面白いことになってるじゃないか、ドーヴィ。それから……はじめまして、だな、天使マルコ」
「……どうも。貴方は、幸運の悪魔ケチャ、ですね? お噂はかねがね」
「クククッ、どういう噂なのか、聞いてみたいもんだ」
ケチャは面白そうに肩を揺らして笑い、尻尾を楽しそうに振っていた。
----
この話はシリアスをラブコメで覆い隠してるのでちゃんとラブコメもします(???)
ドーヴィの発言に、アーノルドが口を戦慄かせて問う。それにドーヴィが答えようとしたところで――タイミング悪く、扉がノックされた。
「失礼します、マルコ司教がいらっしゃいました」
「!」
「……話はあとで、だな」
アーノルドは小さくため息をついて頷き、扉を開いた。メイドに案内されて到着したマルコ司教は、急な訪問ゆえか普段はかっちり固めている髪を多少乱し、肩で息をついている。
「申し訳ありません、急な事でして……」
「いえ、構いません。それより、グレン様を。ある程度、話は道中で聞いてきましたが……」
ちらり、とドーヴィに視線を送ったマルコ司教はすぐにグレンが眠るベッド脇へと膝をついた。泣き腫らし、立てなくなってしまったメイド長のフローレンスを、マルコ司教の案内をしてきたメイドが気遣う。……フローレンスは、そのまま他のメイド達の力も借りて、落ち着かせるために別室へ移動させるようにアーノルドが指示を出した。
普段、おっとりしているメイド長の取り乱しぶりに、メイドや廊下で待機していた騎士たちが不安そうな表情を浮かべる。アーノルドはそれに対して何を言うでもなく、ただ険しい顔で小さく首を振っただけだった。
しばし、マルコ司教はグレンに手を翳すなどして確認した後に「それでは祈りを捧げます。申し訳ありませんが、他の方はご退室を」と促す。アーノルドは泣きそうな顔をしながら、マルコ司教に深く頭を下げた。
「そちらの護衛の方はそのままお残りください。グレン様に魔力譲渡をなさった方ですね?」
それに頷いたドーヴィだけが残り、他は全員が退室する。眠ったままのグレンと、厳しい顔をしたマルコ司教と、どことなく嫌そうな顔をした護衛のドーヴィ。
「はぁ」
マルコ司教が聞こえよがしにため息をつき……世界を流れる時間が、先日の様に超低速へと移行した。ほぼ、時間が停止しているのと同じと言えるほどに。
「悪いな、来てもらって」
「……いえ、グレン君がこうなってしまった事に、我々天使としても思うところはありますから」
そう言いつつ、天使マルコはグレンの胸の上に手を置いた。そして、ぐっ、と力を籠めるとマルコのたおやかな白い手はグレンの胸へと文字通り沈んでいく。
「で、聞きますが、貴方、何をしたんです? なんですかこの魂の形も、命の形も……」
「仕方ねえだろ、俺はその辺専門外なんだから! とりあえず命を戻して、魂を作ったはいいんだけどよ……専門家にいい感じに直してもらえねーかなって」
「……はぁ。そう気軽に言いますけどね……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、マルコは手を動かしてグレンの体内を弄る。
「命は洗浄を施しましたので大丈夫でしょう。魂の方は……命に対しての癒着がひどすぎて、これは直さない方が良いと思いますね。最低限、形は整えます」
「魂としての機能は大丈夫か?」
「……天使の立場から言うと、先ほども申し上げた通り命に対して癒着しすぎています。これでは命の回収時に相当苦労します」
「それはどうでもいいわ、俺関係ねえし」
飄々と言ったドーヴィをマルコはギッと鋭く睨みつけた。ドーヴィは肩を竦めるだけ。何の文句を言っても無駄だと改めて悟ったマルコは、疲れたようなため息をついて話を続けた。
「グレン君として、であれば……まあ、問題はないでしょう。ですが、貴方の魔力を基にした魂です。人間は魂を魔力の根源とする……つまり、今後、彼の魔力は貴方の魔力を基にして行使されることになりますね」
「へー。それが何か問題でも?」
「人間と悪魔及び天使では魔力の純度が違います。我々が魂を作って打ち込むときは『人間用』に魔力の純度をかなり下げているのですよ。ですから……グレン君が今後、魔法を使う時には威力に注意して頂かないと。これまでと同じ感覚で使うと、とんでもない威力の魔法になってしまいますよ」
マルコの説明を聞いたドーヴィは「あー……」とようやく合点がいった、と中途半端な声をあげた。専門外で焦っていたとは言え、ドーヴィはここでも無駄に失態を犯していたらしい。マルコに言われて、初めて気が付いた。
別に威力が強くなるだけなら良いのだが、過ぎた力は身を滅ぼす。例えば攻撃魔法の制御ができず、反動で自分が吹き飛んでけがをしたり、周囲を巻き込んでしまったり。そう言った事は容易に予想ができた。
「それから、この右目。貴方の魔力が発現していますが」
天使マルコはグレンの胸から手を引き、布に覆われたグレンの右目を撫でる。
「お気をつけなさい、こちらも『悪魔の瞳』に変質しています。人間には視えてはいけないものが視えるようになっているでしょう」
「ぐっ……それもあったか……」
「人間にとって我々が視えている世界と言うのは、馴染まぬものですし精神に負荷がかかります。よほどのことが無い限りは、こうして布などで塞いで封印しておくのが良いかと」
「……後でばあやに眼帯でも作ってもらうかねえ」
それが良いでしょうね、と天使マルコは本日何回目かのため息とともに言った。そうして、再度、グレンの胸に手を当てる。
「ところで、貴方が作ったのは疑似魂だけですか」
「? そうだが?」
「命には手をつけていない?」
「もちろん」
その辺はやはり天使の領分であり、悪魔のドーヴィにとっては専門外すぎる。余計な事をして、グレンの命を逆に傷つけることなどあってはならない、そう考えてドーヴィは手を出さずに静観していた。
マルコの物言いに嫌な予感を覚えつつ、理由を尋ねる。
「……グレン君、なぜか足が無くなって手が4本になっていますが」
「はああぁぁぁ!? な、何事だよ!?」
「貴方が何か余計な事をしたわけではない、と言うならグレン君の意思ですかね……」
意思が宿る命の形を決めるのは天使だ。だが、なぜかグレンは命の形が本来の形から変化している。
「いや確かに、グレンのやつ死んだ直後は命の形が保てなくなって溶けたりしてたけどな……」
「……まあとにかく。貴方、ちょっとグレン君に話聞いてきたらどうですか。肉体と命の形が不一致だと、不便ですよ」
グレンの肉体は手が2本に足が2本。命の形は手が4本に足が0本。となると、この先、グレンが目覚めた時、肉体にあるはずの両足を動かせなくなってしまう。逆に手が4本あっても肉体には2本しかないのだから、無用の長物だ。
「グレン君のところまで送りますから」
「……頼む」
ドーヴィがグレンの手を掴み、魔力譲渡を始める。こうして魔力を通じて繋がることで、相手の精神空間と言うべき場所まで行くことができるようになる……が、それをスムーズに行えるのは、天使ぐらいなものだ。ドーヴィが前回、グレンと上手く意思疎通ができたのは、グレン側が完全に無防備になっていたからにすぎない。
グレンとドーヴィの魔力が繋がったのを確認し、マルコはドーヴィをグレンの意思まで導いた。
目を瞑り、グレンと何か話しているらしいドーヴィ。話すと言っても、精神体同士の会話であるから口が動くわけではない。そして天使マルコとしても、二人の会話を盗聴するほど無作法ではなかった。
しばらくのち、ドーヴィは目を開いてがっくりと肩を落とす。
「とりあえず説得してきた」
「一応聞きますが、なんだったんです?」
「……『腕が4本あったらドーヴィと2倍抱き合える!』だそうだ」
「……グレン君って、そんなにアホの子でしたっけ」
ドーヴィと同じように天使マルコもどっと疲れたように肩を落とす。それに対してドーヴィは乾いた笑い声を上げながら「いやあ俺の契約主が可愛すぎて困るね!」と言っておいた。
「とは言え、人間の範疇で命の形を自由に変化できるというのは、大したものですよ」
「まあ、あいつも何だかんだいって人間の中でも上から数えた方が早いほどの天才魔術師だからなぁ……」
そうですね、と言いながらマルコは立ち上がる。
「私ができるのはこれぐらいでしょう。後は普通に魔力譲渡を続け、人間の文明の範囲内で治療すれば問題ないかと。魔力回路も再生の兆しがありますからね」
「ああ、悪かったな。……ところで、定期的に来てグレンの命の形を見て貰った方が良い気が俺はしてるんだが」
「……それは私も同意します。完全に形が固まる前ならまだ簡単に直せますし……」
恐らく、グレンは理性を失くして本能の赴くままに興奮している状態なのだろう。肉体と言う制限もなく、時間と言う概念も空腹や疲労と言う障害もない状況で、新しい粘土遊びをしているようなものだ。
こねて作って、自分がなりたい自分になる。非常にシンプルで、実に楽しそうな遊びだ。ドーヴィはそう考えるとグレンに振り回されるのも悪くない、と思う。せっかくの休息なのだから、グレンは何も気にせずに大いに遊んで楽しんで欲しい。
「では、私はこれで――」
「おいおい、おれがせっかく来たってのに、解散か?」
時間の流れを元に戻そうとしたマルコは、背後から声をかけられ勢いよく振り向いた。ドーヴィは自分の前にいる、では後ろにいるのは? この部屋には、3人しかいなかったはずだ。
マルコが振り返った先、寝室のデスクに一匹の黒猫が座っていた。その黒猫は目を細めてマルコを見返した後に、前方に手を伸ばしてぐっと猫の体を伸ばす。
「よおケチャ、早かったな」
「ちょうどタイミングが良かったんだ。せっかくお前がやる気になったって返事をくれたし……」
黒猫のケチャ……幸運の悪魔・ケチャはそう言いながらデスクから身軽にトン、と飛び降りると、天使マルコの足元を通ってグレンの眠るベッドに飛び乗った。
「なんだか、最高に面白いことになってるじゃないか、ドーヴィ。それから……はじめまして、だな、天使マルコ」
「……どうも。貴方は、幸運の悪魔ケチャ、ですね? お噂はかねがね」
「クククッ、どういう噂なのか、聞いてみたいもんだ」
ケチャは面白そうに肩を揺らして笑い、尻尾を楽しそうに振っていた。
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この話はシリアスをラブコメで覆い隠してるのでちゃんとラブコメもします(???)
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