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【第一部】国家転覆編
20)『死』
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結界装置のある部屋で、グレンは魔晶石と対面する。貴族であり、しかも辺境伯当主という貴族位を持ちながら、わざわざ現場まで足を運ばせるのはこの作業が実質の『刑罰』であることを示していた。
部屋にいる二人の騎士は名目上、グレンの護衛ということになっている――が、現実はグレンが逃亡しないように見張る役割を持っていた。
「ではクランストン辺境伯、ここからここまでお願いします」
「……うむ」
(大丈夫、10個ならなんとか、できるはず……)
指定された魔晶石の前に立ち、グレンは粛々と魔力を込め始める。……5個目を終えたところで、ふらつきを感じ立ち止まったグレンに騎士が近寄ってきた。
「クランストン辺境伯ぅ、そんなちんたらやられたら困るんですよねぇ」
「俺らも夕食ってモンがあるんで」
「っ!? 何をする!?」
騎士はグレンの腕をそれぞれ取り、6個目と7個目の魔晶石へとグレンの手を押し付けた。自分の意思に逆らい、強制的に吸い上げられていく魔力。
2倍の魔力を体から出す、というのは到底無理な事。体に張り巡らされた魔力回路、そして放出口とも言うべき魔力の出口。それらを2倍の大きさに無理矢理に押し広げて、体の奥底から魔力を引っ張り出すのだからその激痛は計り知れなかった。
魔力のない人間に例えるのなら、全身の内臓をいきなり2倍の大きさに広げられた状態、とでも言うべきだろうか。当然、そのような状況でまともに生きていられるわけがない。体の内側から爆発して終わりだ。
二人の騎士が少量の魔力しか持たない貴族子息であり、まともに魔術の勉強をしていなかったことが災いした。
「ぎ……ぎあぁぁぁぁっ!!!」
「うるせーぞクソガキ!」
騎士の一人がグレンの後頭部を殴りつける。どれほどの苦しみと激痛がこの少年を襲っているのか、二人の騎士は全く予想もしていなかったし……理解しようともしていなかった。
「しぬっ、これいじょうはっ! しぬっ!」
「はいはい、騒いでる暇があったらノルマ達成しましょうねー」
「やめろっ! はなせっ!! っ……あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
大粒の涙を巻き散らして痛みに暴れるグレンの手を力強く掴んだまま、隣の魔晶石へ移動。8個目、9個目にもグレンの手を押し当てる。騎士が持ったグレンの手は、異常なほどに痙攣を繰り返し、ところどころで体内から血管と皮膚を裂いて血が流れだしていた。
その血を騎士は「きったねー」と嘲笑い、自分の手に着いた血液をグレンの大切な貴族当主としての正装に擦り付けた。白く美しい、ドーヴィが褒め称えた服に赤茶色の薄汚れた痕がつく。
二つの魔晶石の補充が終わるころ、すでにグレンは意識を朦朧とさせて自分の足で立てなくなっていた。頬を伝う涙と口から垂れるよだれ、さらに鼻から唇まで流れる赤い色の混じった鼻水をそのままに、グレンの頭はぐらぐらと揺れる。
「チッ、迷惑な野郎だ」
「あと1つ……いや、どうせだしもう1個ぐらい余分にやらせるかー」
そう言いながら、騎士たちはノルマとして申し渡された10個目だけでなく、その隣の11個目の魔晶石にもグレンの手を押し当てた。
「死ぬかな?」
「さあ? クランストン辺境一族って言うし大丈夫じゃね?」
「……まあ死んでもいいってドラガド侯爵様に言われてるし、いっか」
「余計に補充しときゃ俺らの仕事も減るし他のご貴族様の仕事も減るからみんな嬉しいだろ」
違いねえ、と笑いながら二つの魔晶石の補充が終わるのを二人の騎士は待った。最初の頃に比べると、ずいぶんと補充スピードが遅い。グレンの魔力が枯渇し始めている証拠だった。
(いのち……けずれる……おと……)
もはや悲鳴すら出せなくなった中、グレンは自分の体内から異常な音がするのを感じていた。ざりざり、がりがり。まるで何か削っているような。
――魔術師なら誰もが知っている『命の削られる音』だ
魔力が完全に枯渇すればどうなるか。不足分は、生命力を魔力へと変換して補うことになっている。グレンも両親に口を酸っぱくして言われたものだ、何があってもこの音がするようになるまで魔力を使ってはいけない、と。どんなに危機的状況にあっても、この音がし始めたら詠唱中だろうと何だろうと魔術の行使を中止し、魔力温存に努めなければならない。
つまり、これは魔術師の体が発する、最終警告だった。
「んー、もうちょいかな……」
もうグレンには騎士が呟く音も聞こえない。ざりざり、がりがり。自分の命がどんどん削られていく音の中で、急に、故郷の景色や自宅の風景、補佐官や騎士達、じいやにばあや、そして今は亡き家族たちの顔が次々と浮かんでは消える。
それは、走馬灯だった。
(みんな……みんな……ごめん……)
姉よりも先に自分の命が尽きる。そして自分が死んでしまったら――恐らく、走馬灯に浮かんだ人々はこの先、自分と同じように使い潰されてみんな死んでいくのだろう。
結局、グレンは誰一人守れなかった。もう大人だ、辺境伯当主だ、とあれだけ威張り散らかしたのに、グレンは何もできなかった。何一つ、守れずに死んでいく。
ドラガド侯爵を筆頭としたいろんな貴族に詰られた時よりも何よりも、その事実が悔しくて仕方なかった。
流れていくたくさんの大切な人たちの顔の中。みんながグレンに微笑みかけてくれる中、一人だけ、怒った様な顔でこちらを見ている男がいる。
(……ドーヴィ……)
ドーヴィは、グレンに怒った顔をしていた。馬鹿野郎! と叫ぶような口をしていた。
(そうだ、ドーヴィと、やくそく、した……んだった………よべ……って……)
ヒュウ、とグレンの口から隙間風の様な頼りない空気が漏れる。ごぽりとあふれ出たのは、ドーヴィが昨晩に作ってくれたミルクスープでも、胃液でもなく、真っ赤な色をした血液だ。
「ど、どーう゛ぃ……たす……けて……」
グレンの小さな小さな言葉は、この地獄に全て消え失せ――なかった。
「承知した」
低い声が、室内に響く。怒鳴り声でもない、叫び声でもない。ただ、静かに告げるだけの声なのに、この場にいるすべての人間の意識を奪う。
「!?」
「誰だ!?」
二人の騎士は突然聞こえた見知らぬ男の声に驚き、背後を振り返った。自分たちしかいないはずの室内に、長身の男が一人、立っている。
その男を見た瞬間、全身に寒気が走った。殺気を向けられているという生易しいものではない。二人は反射的にグレンを手放し、帯剣していた剣を抜きはらう。男に剣を向けても、ガチガチと鳴り響き震える自身の歯の音は止まらなかった。
「な、何者だ!?」
「契約主との契約を果たすために」
「何を――」
最後まで言うことなく、騎士たちは突然、両手をだらりと体の両側に下してその場に立ちすくんだ。持っていた剣はからんと音を立てて床に転がり、恐怖に見開いた瞳はそのまま虚ろな宙を見ている。
「『お前たちは何も見なかった。グレン・クランストン辺境伯は立派に作業を務め終え、城から出て行った。』」
「はい、私たちは何も見ていません。クランストン辺境伯は、立派に作業を務め終え、先ほど、城を出ていきました。お帰りになられたと報告します」
二人の騎士が平坦な声で言葉を繰り返す。その間を突然現れた男――ドーヴィは何事もなく、割って入る。
「グレン、よく頑張った。さあ、帰ろう」
「ぁ……あ……」
床に倒れていたグレンを抱き上げ、先ほどとは打って変わった優しい声でドーヴィは愛らしい契約主に語り掛けた。そのまま、ドーヴィはグレンを抱えて音もなく消え去る。転移魔法を使ったのだ。転移先は、王都のクランストン辺境家のタウンハウス。
ふわり、と降り立ったグレンの寝室、そのベッドにドーヴィはグレンを寝かせた。
「ったく、グレン、お前ってやつは……本当に死ぬまで我慢して、馬鹿野郎」
ドーヴィの問いかけに応える声はない。いつもなら、口を尖らせて拗ねたようにそっぽを向く顔は、苦痛と絶望のままに固まっていた。
――すでに息は無く。目は見開いたままに光を失くし。心臓の鼓動は音を立てず。
――グレン・クランストンは、命を削られ切っていた。枯渇した魔力を補填するための命も全て使い切り、後に残ったのは空っぽの肉体だけ。
「お前、本当に、馬鹿だよ……っ」
ドーヴィの声が震える。グレンは、ドーヴィの腕の中で息絶えていた。
グレンの亡骸を前に、ドーヴィは一つ息を吐く。ここで、自分がただの人間なら絶望に泣き果てるところであったが、ドーヴィは、悪魔だ。
やりたいようにやる。生きたいように生きる。それが悪魔。
愛と性の悪魔、ドーヴィ。気に入った契約主にはどこまでも愛を捧げ、その愛の為であれば世界を、天使を、神をも敵に回して戦い続ける圧倒的武闘派。
ドーヴィはグレンに渡した例のお守りに、冷たくなりつつあるグレンの両手を重ね合わせる。ペンダントトップの赤い宝石、ドーヴィの血液を固めて作られた小さな石。そこに押し込めたグレンを救うためだけの加護が、守護対象の異常を検知して淡く輝き始めた。
「……ハッ、これが上手くいかなけりゃ、その辺の天使を脅して余ってる命でも貰って来ればいい。それがだめなら、神に言って世界を巻き戻させりゃいいだけだ」
開ききった瞳を隠すように瞼を下ろしてやり、様々な体液で汚れた顔を優しく拭ってやる。
グレンの手の中で、加護の光はますます、輝きを強めていた。
「グレン、言っただろう。お前が助けを呼んだなら、俺が後は全部どうにかしてやるって」
――だから、安心して、また起きて俺を見ろ。
ドーヴィは目を閉じたままのグレンにそっと口づけをした。悪魔の瞳から、一筋、涙がこぼれ堕ちていく。
部屋にいる二人の騎士は名目上、グレンの護衛ということになっている――が、現実はグレンが逃亡しないように見張る役割を持っていた。
「ではクランストン辺境伯、ここからここまでお願いします」
「……うむ」
(大丈夫、10個ならなんとか、できるはず……)
指定された魔晶石の前に立ち、グレンは粛々と魔力を込め始める。……5個目を終えたところで、ふらつきを感じ立ち止まったグレンに騎士が近寄ってきた。
「クランストン辺境伯ぅ、そんなちんたらやられたら困るんですよねぇ」
「俺らも夕食ってモンがあるんで」
「っ!? 何をする!?」
騎士はグレンの腕をそれぞれ取り、6個目と7個目の魔晶石へとグレンの手を押し付けた。自分の意思に逆らい、強制的に吸い上げられていく魔力。
2倍の魔力を体から出す、というのは到底無理な事。体に張り巡らされた魔力回路、そして放出口とも言うべき魔力の出口。それらを2倍の大きさに無理矢理に押し広げて、体の奥底から魔力を引っ張り出すのだからその激痛は計り知れなかった。
魔力のない人間に例えるのなら、全身の内臓をいきなり2倍の大きさに広げられた状態、とでも言うべきだろうか。当然、そのような状況でまともに生きていられるわけがない。体の内側から爆発して終わりだ。
二人の騎士が少量の魔力しか持たない貴族子息であり、まともに魔術の勉強をしていなかったことが災いした。
「ぎ……ぎあぁぁぁぁっ!!!」
「うるせーぞクソガキ!」
騎士の一人がグレンの後頭部を殴りつける。どれほどの苦しみと激痛がこの少年を襲っているのか、二人の騎士は全く予想もしていなかったし……理解しようともしていなかった。
「しぬっ、これいじょうはっ! しぬっ!」
「はいはい、騒いでる暇があったらノルマ達成しましょうねー」
「やめろっ! はなせっ!! っ……あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
大粒の涙を巻き散らして痛みに暴れるグレンの手を力強く掴んだまま、隣の魔晶石へ移動。8個目、9個目にもグレンの手を押し当てる。騎士が持ったグレンの手は、異常なほどに痙攣を繰り返し、ところどころで体内から血管と皮膚を裂いて血が流れだしていた。
その血を騎士は「きったねー」と嘲笑い、自分の手に着いた血液をグレンの大切な貴族当主としての正装に擦り付けた。白く美しい、ドーヴィが褒め称えた服に赤茶色の薄汚れた痕がつく。
二つの魔晶石の補充が終わるころ、すでにグレンは意識を朦朧とさせて自分の足で立てなくなっていた。頬を伝う涙と口から垂れるよだれ、さらに鼻から唇まで流れる赤い色の混じった鼻水をそのままに、グレンの頭はぐらぐらと揺れる。
「チッ、迷惑な野郎だ」
「あと1つ……いや、どうせだしもう1個ぐらい余分にやらせるかー」
そう言いながら、騎士たちはノルマとして申し渡された10個目だけでなく、その隣の11個目の魔晶石にもグレンの手を押し当てた。
「死ぬかな?」
「さあ? クランストン辺境一族って言うし大丈夫じゃね?」
「……まあ死んでもいいってドラガド侯爵様に言われてるし、いっか」
「余計に補充しときゃ俺らの仕事も減るし他のご貴族様の仕事も減るからみんな嬉しいだろ」
違いねえ、と笑いながら二つの魔晶石の補充が終わるのを二人の騎士は待った。最初の頃に比べると、ずいぶんと補充スピードが遅い。グレンの魔力が枯渇し始めている証拠だった。
(いのち……けずれる……おと……)
もはや悲鳴すら出せなくなった中、グレンは自分の体内から異常な音がするのを感じていた。ざりざり、がりがり。まるで何か削っているような。
――魔術師なら誰もが知っている『命の削られる音』だ
魔力が完全に枯渇すればどうなるか。不足分は、生命力を魔力へと変換して補うことになっている。グレンも両親に口を酸っぱくして言われたものだ、何があってもこの音がするようになるまで魔力を使ってはいけない、と。どんなに危機的状況にあっても、この音がし始めたら詠唱中だろうと何だろうと魔術の行使を中止し、魔力温存に努めなければならない。
つまり、これは魔術師の体が発する、最終警告だった。
「んー、もうちょいかな……」
もうグレンには騎士が呟く音も聞こえない。ざりざり、がりがり。自分の命がどんどん削られていく音の中で、急に、故郷の景色や自宅の風景、補佐官や騎士達、じいやにばあや、そして今は亡き家族たちの顔が次々と浮かんでは消える。
それは、走馬灯だった。
(みんな……みんな……ごめん……)
姉よりも先に自分の命が尽きる。そして自分が死んでしまったら――恐らく、走馬灯に浮かんだ人々はこの先、自分と同じように使い潰されてみんな死んでいくのだろう。
結局、グレンは誰一人守れなかった。もう大人だ、辺境伯当主だ、とあれだけ威張り散らかしたのに、グレンは何もできなかった。何一つ、守れずに死んでいく。
ドラガド侯爵を筆頭としたいろんな貴族に詰られた時よりも何よりも、その事実が悔しくて仕方なかった。
流れていくたくさんの大切な人たちの顔の中。みんながグレンに微笑みかけてくれる中、一人だけ、怒った様な顔でこちらを見ている男がいる。
(……ドーヴィ……)
ドーヴィは、グレンに怒った顔をしていた。馬鹿野郎! と叫ぶような口をしていた。
(そうだ、ドーヴィと、やくそく、した……んだった………よべ……って……)
ヒュウ、とグレンの口から隙間風の様な頼りない空気が漏れる。ごぽりとあふれ出たのは、ドーヴィが昨晩に作ってくれたミルクスープでも、胃液でもなく、真っ赤な色をした血液だ。
「ど、どーう゛ぃ……たす……けて……」
グレンの小さな小さな言葉は、この地獄に全て消え失せ――なかった。
「承知した」
低い声が、室内に響く。怒鳴り声でもない、叫び声でもない。ただ、静かに告げるだけの声なのに、この場にいるすべての人間の意識を奪う。
「!?」
「誰だ!?」
二人の騎士は突然聞こえた見知らぬ男の声に驚き、背後を振り返った。自分たちしかいないはずの室内に、長身の男が一人、立っている。
その男を見た瞬間、全身に寒気が走った。殺気を向けられているという生易しいものではない。二人は反射的にグレンを手放し、帯剣していた剣を抜きはらう。男に剣を向けても、ガチガチと鳴り響き震える自身の歯の音は止まらなかった。
「な、何者だ!?」
「契約主との契約を果たすために」
「何を――」
最後まで言うことなく、騎士たちは突然、両手をだらりと体の両側に下してその場に立ちすくんだ。持っていた剣はからんと音を立てて床に転がり、恐怖に見開いた瞳はそのまま虚ろな宙を見ている。
「『お前たちは何も見なかった。グレン・クランストン辺境伯は立派に作業を務め終え、城から出て行った。』」
「はい、私たちは何も見ていません。クランストン辺境伯は、立派に作業を務め終え、先ほど、城を出ていきました。お帰りになられたと報告します」
二人の騎士が平坦な声で言葉を繰り返す。その間を突然現れた男――ドーヴィは何事もなく、割って入る。
「グレン、よく頑張った。さあ、帰ろう」
「ぁ……あ……」
床に倒れていたグレンを抱き上げ、先ほどとは打って変わった優しい声でドーヴィは愛らしい契約主に語り掛けた。そのまま、ドーヴィはグレンを抱えて音もなく消え去る。転移魔法を使ったのだ。転移先は、王都のクランストン辺境家のタウンハウス。
ふわり、と降り立ったグレンの寝室、そのベッドにドーヴィはグレンを寝かせた。
「ったく、グレン、お前ってやつは……本当に死ぬまで我慢して、馬鹿野郎」
ドーヴィの問いかけに応える声はない。いつもなら、口を尖らせて拗ねたようにそっぽを向く顔は、苦痛と絶望のままに固まっていた。
――すでに息は無く。目は見開いたままに光を失くし。心臓の鼓動は音を立てず。
――グレン・クランストンは、命を削られ切っていた。枯渇した魔力を補填するための命も全て使い切り、後に残ったのは空っぽの肉体だけ。
「お前、本当に、馬鹿だよ……っ」
ドーヴィの声が震える。グレンは、ドーヴィの腕の中で息絶えていた。
グレンの亡骸を前に、ドーヴィは一つ息を吐く。ここで、自分がただの人間なら絶望に泣き果てるところであったが、ドーヴィは、悪魔だ。
やりたいようにやる。生きたいように生きる。それが悪魔。
愛と性の悪魔、ドーヴィ。気に入った契約主にはどこまでも愛を捧げ、その愛の為であれば世界を、天使を、神をも敵に回して戦い続ける圧倒的武闘派。
ドーヴィはグレンに渡した例のお守りに、冷たくなりつつあるグレンの両手を重ね合わせる。ペンダントトップの赤い宝石、ドーヴィの血液を固めて作られた小さな石。そこに押し込めたグレンを救うためだけの加護が、守護対象の異常を検知して淡く輝き始めた。
「……ハッ、これが上手くいかなけりゃ、その辺の天使を脅して余ってる命でも貰って来ればいい。それがだめなら、神に言って世界を巻き戻させりゃいいだけだ」
開ききった瞳を隠すように瞼を下ろしてやり、様々な体液で汚れた顔を優しく拭ってやる。
グレンの手の中で、加護の光はますます、輝きを強めていた。
「グレン、言っただろう。お前が助けを呼んだなら、俺が後は全部どうにかしてやるって」
――だから、安心して、また起きて俺を見ろ。
ドーヴィは目を閉じたままのグレンにそっと口づけをした。悪魔の瞳から、一筋、涙がこぼれ堕ちていく。
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