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第五章

第六十一話 合流その弐

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「ツカサ様!? どうしてここに?」

「アリシア、エクレールさんもお久しぶりです。ここにいる理由は話すと長いんだけど、とりあえず来てもらえないかな?」


 まずはザバントスを見てもらおうと思い二人に声をかけたが、帰ってきたのは言葉ではなかった。

 剣が突きつけられる。

 エクレールさんだ。その目は鋭い。
 俺は思わず両手を上げてしまう。


「そのまま動くな!」

「エクレール様!?」

「アリシア忘れたのか? ツカサは操られてる。ここにいるのも赤の教団から魔族への援軍の可能性が高い。あたしが見てるから教皇を呼べ」


 そうだった。エクレールさんからすれば、俺は操られて赤の教団に行ったままの状態だ。
 どうする? 今何を言っても信用されないだろうし、おとなしくするしかないのか?


 アリシアはどこかに走り去っていく。それを目で追っていると、ふと疑問が浮かんだ。


 そういえば、さっき教皇って言ってた気がする。教皇様といえば、セルレンシアのだよな。こんなところに来てるのか?


 聞き間違いではないと思うが、ここにいる理由がわからない。呼んでくる理由もだ。俺は仕方なく手を上げたままの状態で待つ。ザバントスが目覚めないか心配ではあるが、そこは祈るしかないだろう。

 しばらくすると、アリシアが本当に教皇様を連れて戻ってきた。

 正直なところ驚いている。一度しか会っていないが、あのときと違うのは身長と同じぐらいの杖を持ってることぐらいで、たしかにセルレンシアの教皇様だった。


「ほっほっほ。久しぶりじゃのう。セルレンシアで一度会ったきりじゃが、わしのことは覚えているかね?」


 口には出さず、小さく頷く。


「ならよかった。今から魔法をかけるが、気を楽にしててほしい。決して害はないものじゃ」


 教皇様の言葉が終わると、その手に持つ杖が薄い青色の光を放ちはじめた。
 光は杖の先端で球状となり、俺に向かって飛んでくる。

 信用してもらうためにも、ここで動くわけにはいかない。
 魔法に反応し、動きそうになる体を必死に抑える。

 無防備な状態で受けた魔法は何も起こさず、ただ体を光らせるだけで終わった。


 ……何だったんだ? たしかに害はなかったけど、何の意味があったんだろう。


「ふむふむ。洗脳を解こうと思ったのじゃが、やはりすでに解けておったようじゃな。フォトン司教、剣を下ろしても大丈夫じゃ」


 教皇様の言葉により、エクレールさんは剣を下ろしてくれた。鋭かった目つきは変わり、困惑したような表情をしている。


 わかんないのは俺もなんだけどな。でも、さっき言葉から魔法は洗脳を解除しようとしたっていうのはわかったけど。
 ……ん? 洗脳はゼルランディスの特殊属性だよな。ってことはもしかして、それを解除しようとした教皇も特殊属性の使い手?


「教皇、ツカサが洗脳解けてるってわかってたのか?」

「先ほど特殊属性の反応を感じたのでな。あれだけ大きな反応なら、無効化していても不思議ではないと思ったのじゃよ」

「そういえば、ツカサも特殊属性が使えるんだったな。でも、それだったら何で洗脳されたんだ?」


 洗脳されてしまった理由は封印されていたからである。封印は中途半端にしか解かれておらず、あのときは無効化することが出来なかったのだ。

 エクレールさんの視線の先は俺に向けられている。
 理由を説明し、続けてザバントスのことも話す。


「じゃ、じゃあ、ツカサ様は一人で魔族をやっつけちゃったんですか!?」

「一人で潜入して、あのザバントスを倒した? しかも病み上がりで? いくらなんでも無茶しすぎだ。ツカサ、体は大丈夫なのか?」

「少し魔力を使いすぎたぐらいです。それよりもザバントスが目覚める前に拘束したいのですが……」

「ああ、わかった。ザバントスには何度も会ったことがある。あたしが一緒に行こう。アリシアは教皇と一緒に将軍のところへ行って今の話を伝えてくれ」


 エクレールさんとザバントスのところへ戻る。アリシアと教皇様は兵士が慌ただしく動いているほうへ向かって行った。あそこにバルドレッド将軍がいるのだと思う。
 先ほどの反応、顔色を見たところ、アリシアの体調は良くも悪くもなさそうだった。あれなら封印の魔法陣について話しても大丈夫だろうか。出来るだけ早く説明しておきたい。

 巨大なクレーターの縁まで戻る。ここから見る限りではザバントスに変化はない。土に覆われたままだ。

 滑るようにして降りていく。
 下へと到着すると、サバントスを覆っている土が微かに振動していることに気づく。


「エクレールさん! ザバントスが目覚めたみたいです!」

「大丈夫だ! ツカサの話だと怪我も完治してないみたいだしな。今の状態なら逃がしはしない」


 目の前で土が崩れていく。
 中から現れたザバントスはその場で膝をつき、荒い呼吸をしている。

 エクレールさんはすぐさま近づくと、ザバントスの喉元に剣を当てた。


「ザバントス、悪いがこのまま捕虜になってもらうぞ」

「……エクレール殿か。情報では人間は内部で抗争をはじめたと聞いたが、違ったようだな」

「その辺の話は後でしてやる。あたしたちも聞きたいことがあるしな。とりあえず、抵抗しないでついてきてもらおうか」


 ザバントスは静かに立ち上がる。抵抗の意思はないようだった。

 現在までに見つかっている魔族の拠点は三つ。そのすべてに封印の魔法陣があるとして、二つまでは使えなくした。三つ目の魔法陣についてだが、今はカルミナでも観察できないらしい。そのため、ザバントスには詳しい状況を聞きたいところだ。
 状況によっては三つ目も早く壊したいところだが、まだフルールさん、赤の教団の問題が残っている。そちらも放っておくわけにはいかない。また破壊の力が必要になるだろう。贅沢をいえば、その破壊の力を扱うための訓練時間も欲しい。やることが多すぎて、体が二つか三つ欲しいと思ってしまう。


「エクレール! おお、ツカサくんも! ふむ、本当にザバントスを捕らえたようじゃな。まさかこのような決着になるとは思わなんだが、今は助かった」

「バルドレッド殿まで来ているとは……総力戦だったわけか。それに気づけぬとは一生の不覚。魔王様に合わせる顔がない」

「うーむ、まぁ、わしらは来たばかりなんじゃが……いや、そんなことよりザバントス、魔族の説得をしてくれんか?」

「将軍? 何かあったのか?」

「うむ、実は――」


 バルドレッド将軍の話によると捕らえた魔族が次々に自害してるというのだ。
 無理やり止めても舌をかみ切りものや、最悪の場合は魔法で自爆するものまでいるらしい。それを止めるためにザバントスに協力を要請しに来たということだった。


 魔族が自害するのは情報を渡さないため? 徹底してるな。でも、自分で命を絶つなんてまるで狂信者みたいだ。洗脳されているわけでもないだろうに……魔王はそれほど恐い存在なのだろうか……


「……バルドレッド殿、捕まっているのは何人だろうか?」

「はじめは三十人ほどだったが、今は十人にも満たない。兵士数人がかりで何とか抑えておるが、これ以上自爆されてはたまらん。おぬしも仲間を思うなら説得に協力してくれ」

「そうか……皆、考えることは同じか。バルドレッド将軍、すまないが協力は出来ない」

「なんじゃと!? 仲間が死んでおるんだぞ!」

「将軍待て! ザバントス、おまえ何を考えている? この状況から何かできるとでも思ってるのか」


 エクレールさんが会話を遮った。理由はなんとなくわかる。ザバントスが自害に対して理解を示していたからだろう。だからといって今のザバントスは剣を突きつけられている。逃げることも、それこそ自害もできないはずだ。


「考えることは一つ。女神を封印し、平穏な生活を取り戻すことだ。魔法陣が破壊された以上、私にできることはもうない。このまま魔王様の負担になるぐらいならば、皆と同じく死を選ぼう」

「……回復魔法を使える奴もいる。死なせないぞ。生きてて負担になるってのもわからないし、女神様を封印したら世界は滅茶苦茶になっちまうだろうが」

「すべての元凶は女神だ。……青年、勇者であるきみにもう一度だけ伝えさせてくれ」


 ザバントスはエクレールさんの剣が触れるのも構わず、俺のほうへと振り返った。


 またカルミナを信じるなという話だろうか? 今回カルミナにはかなり力を貸してもらったし、落盤から助けてもらってもいる。信用できないとはいえ、必要な存在だ。
 ザバントスも悪い人には見えないけど、敵であることには変わりない。カルミナとどちらを信じるかといわれれば、それはカルミナになるだろう。


「女神を信じるな。勇者が魔王を倒し、世界を救う。それは女神を助けることにはなるが、人や魔族、この世界に生きるものは救えない。この世界のすべてを救うなら女神を封印するしかないのだ。どうか覚えておいてくれ」


 エクレールさんもバルドレッド将軍もザバントスの言葉を静かに聞いていた。話の内容は戦いの中でも同じようなことを言われていたと思う。

 分かりにくい言い回しだ。何故救えないのか、何故カルミナを封印することが世界を救うことにつながるのかがわからない。

 エクレールさんたちの顔を窺うが、俺と同じように分かっていないようである。やはり詳しく聞く必要があるだろう。

 口を開きかけたそのとき、耳をつんざくような音が響いた。ガラスを割ったような音だ。

 思わず耳を塞ぐ。

 音は一瞬だったが、酷い耳鳴りがしている。おかげで頭も痛い。

 何が起こったのかを知るため、音のほうへと振り向く。すると、はるか遠くに天へと伸びる光の柱が目に入るのであった。
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