上 下
6 / 56

第6話 引きこもりの俺、美少女のお部屋へ行く

しおりを挟む
 俺は自分の子ども部屋のクローゼットから、別の家の子ども部屋に瞬間移動してしまった。
 意味が分からん。どうなっているんだ? 目の前には、かわいい女の子が座って本を読んでいるし。多分、この女の子の部屋だろう。

 女の子は、まだ俺に気づいていないようだ。

 俺は目の前の美少女を、まじまじと見た。じっと本を読んでいる。十四歳か、十五歳くらいか……。なるほど、かなりの美少女だ。
 この部屋の後ろにも、クローゼットがあり、扉が開いている。まさかオレは、このクローゼットから出てきたのか?

「えっ!」
 
 少女は俺の気配を感じたらしく、横を振り向いた。そして俺に気付いた。

「ひいい~! だ、誰ですか!」

 まあ、そうなるわな。驚かしてすまん。本当にすまん。俺も何でこの部屋にいるのか、わからんのだ。

 少女は素早く、後ろのベッドに飛び乗り、布団の中に隠れた。

 布団がブルブル震えている。よっぽど怖いんだろう。
 あ~……、まあ、無理もない。俺、不法侵入者だもんな。そんなつもりはなかったんだが。

「あ、あ、怪しいものじゃない」

 俺は、自分が情けないと感じながら言った。何て説得力のない言葉なのか。しかも、女の子と話すなんて、久しぶりだ。二十年ぶりか? き、緊張する……!

「あ、あなた、誰?」

 少女が、布団の中で震えながら聞く。

「え、え、えーっとね……ゼント・ラージェントという者だ」

 俺は緊張で呂律ろれつがまわっていないが、できるだけ優しく言う。

「こ、こわい!」
「で、でしょうね。すぐ帰るよ。玄関の場所を教えてほしいんだが」
「ひいい~……」

 少女の悲鳴が、布団の中から聞こえる。どうしたものかな、と俺が思っていると──。

「何、騒いでいるんだ!」

 どこからか男の声が聞こえた。ん? 床下からか?

「ご、ごめんなさい!」

 布団の中の少女は、声を上げた。

「何でもないの!」
「下まで聞こえているぞ! 誰かいるのか!」

 この子の父親らしき声が、部屋の床下──階下かいかから響いた。そりゃ、この子の家族は驚くだろう。この女の子、悲鳴を上げたものな……。
 それにしても、父親がこの部屋の下にいるらしい? つまり、ここは二階か?
 父親がきたら大変だ。何とかして、この部屋、そしてこの家から出なければ。
 しかし、通報されたらやっかいだ。女の子の誤解を解こう。

「あ~……下にはお父さんがいるのか?」
「お、お父さんじゃありません。グート叔父さん……」
「叔父さんか。お、俺のことが怖いなら、一階の……えーっと? そのグート叔父さんのところに行ってくれ。俺は君に何もしない。さっさと玄関から出ていくから、通報とかはやめてくれ」
「私が、グート叔父さんのところへ行くの? い、いやです」

 は? 何と、少女は拒否した。

「グート叔父さんは鬼より怖いんです。私、一階に行くのが怖い。すぐ、私を叩くし……一階に行きたくない」

 おいおい、どうなっちゃうんだよ、これ。

 窓の外を見ると、眼下に商店街が見える。やはり、ここは二階か。
 あれ? ここって、マール村か? 俺の住んでる村じゃないか。子どもの頃はしょっちゅう商店街で買い食いした。マール村の商店街で間違いない。

 どういうことだ? 目の前には、布団の中でブルブル震えている女の子がいるし……。
 
 ……と、その時!

 ドスドスドス

 う、うわあああっ!
 
 女の子の言う、グート叔父さんが二階に上がってきた?

 ガチャッ

 丸坊主のいかついオヤジが、部屋に入ってきた。背は高くないが、戦士のように胸板が厚い。年齢は……五十代くらいか。恐らく、何らかの格闘術、武器術を心得ているに違いない。めちゃくちゃ強そうだ! こ、こええ~……。

 ん? げえっ? このオヤジ、手に「ひのきの棒」を持っている! 文字のごとく、ひのきを削り出して作った、もっとも手軽な武器だ。
 ん? あ、しまった! 俺、木刀を置いてきた!
 
「アシュリー! 何を騒いでやがるんだ! ……ん?」

 その男──つまりグート叔父さんは目を丸くして、俺を見た。

「な、なんだあ? てめえは!」
「あ、あ、俺、怪しい者じゃないです」
「どこから入ってきやがった! 村の自警団に突き出してやる!」

 まあ、そうなるよな。しょうがねえか。

「俺は何かの間違いで、この部屋に入ってきた引きこもりです。すべて誤解だから、話を聞いてください」
「わけのわかんねえこと言うんじゃねえ! コソ泥か?」

 俺は泥棒ではないが、そう思いたい気持ちはわかる。
 するとグート叔父さんは、アシュリーの方をにらみつけた。

「アシュリー、てめーがこの男を連れ込んだのかあ? 一階でおしおきをしなきゃならねえなあ! ああ?」

 ガスッ

 グート叔父さんは、アシュリーの座っているベッドに蹴りを入れた!

「あっ……! な、何するんだ!」

 俺はさすがにムカッときた。女の子を怖がらせるなんて、ゆ、ゆるせん!

「コソ泥! てめーもぶっとばしてやるよぉ!」

 グート叔父さんは、今度は俺をにらみつけ──。
 
 バキィッ
 
 グート叔父さんは、左拳で俺のほおを殴った。

 いてえ! 口から血が出た。それでも、女の子──アシュリーを守らなければ! 

 俺がアシュリーの前に立つと、その叔父はいきり立ち、俺の腹に、蹴りを叩き込んできた。

 シュッ

 だ、だが、素人しろうとの蹴りじゃない!

「前蹴り」だ! 俺の腹の急所──みぞおちを足の爪先で、つらぬいてくる!

 ガッ

 だ、だが、俺は……前蹴りを右手で払っていた……!

「な、なんだと? 俺の『前蹴り』を、『下段払い』でかわすとは?」

 グート叔父さんは、目を丸くしている。
 とにかく、アシュリーって子が危ない。俺が──俺が守らなきゃ!
 それにしても、このタコ親父、格闘の素人じゃない! 蹴りもきちんとした形になっている。
 
 すると、グート叔父さんは、今度は右手で、ついに「ひのきの棒」を振り回してきた。

 お、おや? 見える! 武器の挙動が見える!

 シュッ

 耳元で「ひのきの棒」が振り下ろされる音がした。
 しかし、俺は間一髪でかわしていた。偶然? まぐれ?
 
 いや……違う。

 俺は、「ひのきの棒」の挙動が、完全に見えていたのだ。つまり、俺はグート叔父さんの攻撃を見切っていた。

「こ、この野郎! なんなんだ?」

 グート叔父さんは、今度はひのきの棒を、上段から振り下ろす!

 シャッ

 俺はもう完全に見切っていた。半歩後退しただけで、ひのきの棒をかわすことができた。

 グート叔父さんは、「うっ……な、何モンだ? おめえ……?」と声を上げ、俺を驚きの目で見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...