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第30話 その頃、セバスチャンは①

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 今日のゲルドン杯格闘トーナメント第1回戦は、すべて終了した。

 その頃、主催者しゅさいしゃの大勇者ゲルドンは、グランバーン王国の南にある南の島、セパヤにいた。
 その海辺のビーチで、バカンスを楽しんでいたところだ。
 赤ん坊を産む予定の妻を、家に置いて……。

「何だと!」

 ゲルドンは海辺のビーチで怒鳴った。
 魔導通信機まどうつうしんきで、セバスチャンと話している。魔導通信機まどつうしんきとは、魔法の力で通信ができる魔道具だ。

「ク、クオリファが負けただとおおっ? 俺の一番弟子だぞ!」

 バシイッ

 ゲルドンは左手に持ったフライドチキンを、地面に叩きつけた。
 ゲルドンのパーティーメンバーであり、一番弟子であるクオリファは負けたのだ。あの──ゼント・ラージェントによって!

『本当です、ゲルドン様。ゼント・ラージェントに敗北いたしました』

 セバスチャンの声が、魔導通信機まどうつうしんきのスピーカーから聞こえる。

「おい、何かの間違いだろう」
「ニュース記事でお確かめください」

 ゲルドンは舌打ちし、魔導通信機まどうつうしんきで、ニュース記事を確かめた。確かに──クオリファはゼントに負けている!

「おいおいおいおいおい~! マジか! なんでゼントの野郎なんかに!」

 バキイッ

 ゲルドンは立ち上がり、砂浜に落ちたフライドチキンを、骨ごと踏み割った。

「つ、次の2回戦はどうなっている!」
『Aブロックは、ゼントVSシュライナー、ガイラーVSゼボール様。Bブロックは、サユリVSギスタン、ローフェンVSゴンギーとなっております』
「このトーナメントは、俺の息子を優勝させるためのトーナメントだぞおっ! 俺の息子はシードだ。1回戦はなかった。次の2回戦のガイラーは、金で買収してあるから勝ちは確定。しかし、その次の準決勝は……?」
「ゼボール様は、ゼントと勝負する可能性があります』
「どどどどどうなっとるんだ! い、いやいや、待てよ」

 ゲルドンはにわかに顔色を変えた。

「次のゼントの試合はシュライナーとか。シュライナーは確か……?」
『私の経営している、セバスチャン・トレーニングセンターの練習生です』
「お、お前の弟子か。じゃあ、ゼントは勝てねぇな! ハハハ」
『いえ、ゼントをあなどっては……』
「うるせえっ! 俺のバカンスを邪魔するな」

 ゲルドンは舌打ちしまくって、腹をかきながら言った。

「とにかく息子が優勝すりゃいいんだ。ヤツには、俺の地位をついでもらうからな。セバスチャン、金の力で何とかしろ。じゃーな」

 ブツッ……ゲルドンは魔導通信機まどうつうしんきを切った。

 ◇ ◇ ◇

 セバスチャンは、高級ソファに座り、ため息をついていた。

 彼のいる場所は、武闘家養成所「G&Sトライアード」本社、会議室。
 本社は、中央地区ライザーンの中央部にある、最も巨大なドーム状の建造物だ。
 ゲルドン杯格闘トーナメントを主催する企業でもある。

 セバスチャンは、先程ゲルドンと話すのに使用していた魔導通信機まどうつうしんきふところに入れて、フッと笑う。

「あれが大勇者か。フフフ……。単細胞のバカでクズだ。ゼントがどれだけ手強いか知らないで……。ま、そのうちゼントの強さを知り、顔が真っ青になるだろう」

「そんなことを言って良いのかしら?」
「誰だ?」

 セバスチャンは後ろを振り返った。
 そこには、ミランダが立っていた。

「セバスチャン、あなたが私を呼んだんじゃないの」
「……いや、これはお恥ずかしい。ゲルドン様への愚痴ぐち、聞かなかったことにしてくれませんか」

 愚痴ぐちというより本音でしょ? ……ミランダはそう考えていた時、セバスチャンは言った。

「……会うのは、3年ぶりですね。ミランダ先生」
「そうね、セバスチャン。あなたがルーゼリック村に週に3回もやってきて、ウチの選手を強奪ごうだつした以来、会っていなかったわね」

 二人の間に、火花が散っているようだった。

「ハハハ、怖いなあ。でもあれはあなたのところの選手の同意があって、ウチの『G&Sトライアード』に来てもらったんですよ」
「同意? ふざけないで」

 ミランダはセバスチャンをにらみつけた。

「……では、本題に入りましょう」

 セバスチャンは咳払せきばらいをしながら言った。

「今回、私は、ゲルドン杯格闘トーナメントの主催者をしております。それと同時に、グランバーン王国から、武闘家ぶとうか連盟会長に就任養成しゅうにんようせいがきました」
「……へえ、そうなの」

 武闘家ぶとうか連盟会長ね……武闘家のトップ中のトップになる、というわけね。
 
 ミランダは心の中でつぶやいた。

 どんな武闘家でも、彼の言うことに逆らうことはできない。
 ……実質、ゲルドンより上の立場……!

「今、武闘家ぶとうか養成所は、全国に1万もあるのです。そして武闘家ぶとうかの登録者は50万人も」

 セバスチャンは、机の上のレポートを見やりながら言った。

「ええ、知ってるわ。でも、グランバーン王国は武闘家ぶとうかの国でもあるから当然でしょ」

 ミランダは眉をひそめた。
 
 ──セバスチャンは話を続けた。

「今年から、我が、『G&Sトライアード』以外の武闘家ぶとうかは、今後全員、廃業はいぎょう──めてもらうことになります」
「な、何ですって?」

 セバスチャンの言葉に、ミランダは目を丸くした。

「あなた方、『ミランダ武闘家ぶとうか養成所』の皆さんも、例外ではありません」

 セバスチャンは静かに言った。うすら笑いを浮かべて──。

 グランバーン王国の武闘家ぶとうかが、廃業はいぎょうしなければならないって?

 セバスチャンはとんでもないことを言い出した──。
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