上 下
29 / 56

第29話 サユリVSドリューン②

しおりを挟む
 戦闘民族、山鬼族のドリューンを、投げ技「浮腰うきごし」で投げた、女子武闘家ぶとうかサユリ──。

 一体、何者なんだ?

 あの小さい体で、堂々とした体格のドリューンを投げた。
 俺は観客席で、サユリの闘いを観戦していた。

『4……5……6……』

 会場に、審判団の魔導拡声器まどうかくせいきの声が響く。ダウンカウントだ。
 ドリューンに対してのダウンカウントは続いている。
 しかし、すぐドリューンは立ち上がり──。

「このやろおおおっ」

 サユリに向かって走り込んだ!
 そして思いきり右パンチを振りかぶったのだ。

おろかな」

 サユリはそう言いつつ、ドリューンのパンチをいとも簡単にけ──。

 ガシイッ

 またしても突き上げるような縦拳たてけん──左直突ひだりちょくづきを、ドリューンのアゴに決めた。
 な、何て正確なパンチなんだ?
 すさまじい正確性で、急所に当ててくる。急所に決めるから、体重差があるドリューンをひるませてしまうのだ。

「ブ、ヘ」

 ドリューンがまたしても後退した──。

 が、ドリューンも何かを狙っていた! 一歩前に出て──。

 ブウンッ

 太い脚での右中段回し蹴りだ! サユリが吹っ飛ばされるぞ!

 パシイッ

 しかし、サユリはその太い脚を、細い腕でいとも簡単につかんできた。そして自分の腕をドリューンの太い脚に回しながら、体をグルリと回転させた!

 ミシイッ

 変な音がしたが……。

「ギャッ!」

 ドリューンは足をひねられて、倒れ込んでしまった。

「お、おい、あれは……」
「職業レスリングで見る、『龍すくい投げ』じゃねーか?」
「ま、まじかよ~! リアルファイトで見れるなんて」

 観客が騒いでいる。

(龍すくい投げとは、プロレス技の「ドラゴンスクリュー」の変形である。立ったまま相手の足を両手でつかみ、自分の体を回転させる。それとともに、相手の足を自分の腕でめながら、相手を投げ捨てる技)

 ドリューンは右足を抱えて、「うう~」とうなって、倒れている。

「いかん!」

 そんな声がした。白魔法医師たちはあわてて、リングに上がり、ドリューンのそばに駆け寄った。そして彼の右足を診て、すぐにリング外に向かって、手でバツの字を作った。

「骨折している!」

 カンカンカン!

 とゴングの音が鳴り響いた。

『5分20秒、ドクターストップで、サユリ・タナカの勝ち!』

 審判団が、魔導拡声器まどうかくせいきで、そう告げた。

 ウオオオオオッ

 観客たちが声を上げる。

「や、やべえ女だ……」
「強すぎる!」
「あんなかわいい子が?」

 俺も、サユリの強さに驚いていた。
 し、しかし危ない技だな。龍すくい投げか……。

「壊し技よ」

 隣のミランダさんは言った。

「サユリは、相手を怪我させるつもりで、放った技ってわけ」
「えっ……? サユリが? まさか」

 そんなバカな。あんなかわいい女の子が、わざと相手を怪我させるつもりだなんて。体重差があるから、危険な技を放っていく必要性があるかもしれないけど、わざと怪我させるなんて……?

「やあ、ミランダ先生。サユリはお見事でしたね」

 聞き覚えのある青年の声が、横から聞こえた。

「あなたの元弟子──サユリの強さ、才能はすごい。私も彼女に、格闘技を教えがいがあります」

 俺たちの席の横には、何と、あの大勇者ゲルドンの秘書兼執事、セバスチャンが立っていた。
 
(か、彼も観戦していたのか?)

 ん? 今、セバスチャンは、「サユリはミランダさんの元弟子」みたいなことを言わなかったか?

 今は、セバスチャンはサユリの格闘技の先生──師匠ししょう

「あなた、セバスチャン」

 ミランダさんがセバスチャンに言った。

「サユリから、もう離れて。サユリを洗脳しないで」

 え? ミランダさん、何を言っているんだ? せ、洗脳?

「おや、私がサユリを洗脳? 意味が分かりかねますが」

 セバスチャンは笑って、首をかしげながら言った。

「ミランダさん、私はサユリに格闘技を教えているだけですよ」

 すると──。

「セバスチャン先生!」

 サユリがリングから下り、笑顔でセバスチャンに近づいた。

「試合、観てくださいましたか」
「観ていましたよ。素晴らしい試合でした」
「……相手は、足を怪我してしまったみたいです。私はドリューンさんに謝罪しなければいけないですよね」

 サユリは申し訳なさそうに、リングの方を振り返った。あの勇ましいリング上の姿は、もうなかった。
 普通のかわいい、女の子の表情だ。

「いえいえ、謝罪なんて必要はありません。いつも言っているでしょう」

 セバスチャンはニコニコ笑って、サユリに言った。

「対戦相手は、容赦ようしゃなく叩きつぶせ……と。そのためには、相手の選手生命を奪ってもかまわない……とね」

 俺はギョッとして、セバスチャンとサユリを交互に見た。
 ミランダさんは黙っている。

「闘いはやるかやられるか。手加減など、無用ですよ。勝てば良いのです。どんな手を使ってもね……」
「は、はい! そ、そうでしたっ」

 サユリは顔を真っ赤にして、お辞儀をした。

「あっ……」

 ……その時サユリは、ミランダさんと目があったようだ。

「久しぶりね」

 ミランダさんはサユリに言った。
 しかしサユリは、ミランダさんにあわてたようにお辞儀をすると、逃げるように去って行った。

 何だ? 今の。

 すると、セバスチャンはミランダさんを見て言った。

「ミランダ先生。あなたは今でも、武闘家ぶとうかを代表する立場でもある」

 ミランダさんは、「それほどでも」と言って、セバスチャンをジロリと見た。

「明日、ミランダ先生に重要なことをお伝えしたいと思います。武闘家ぶとうか界全体に係わる、重要なことです。私の経営する、『G&Sトライアード』本社にお越しください」
「何かしら。今回のトーナメントに関すること?」
「詳しくは明日ということで」

 ミランダさんは、「……分かったわ」とだけ返事をした。

「では」

 セバスチャンは客席の奥の方に行ってしまった。

 俺が心配して、ミランダさんを見ていると、ミランダさんはため息をついて口を開いた。

「セバスチャンはね、『G&Sトライアード』という世界最大の武闘家ぶとうか養成所を、ゲルドンと創業したのよ。前はゲルドンが社長をしていたけど、今はセバスチャンが社長になったようね」
「そ、そうなんですか? そ、それで昔、一体何が?」
「セバスチャンは、わたしの大切な選手を──、サユリとともに8名も強奪ごうだつした」
「ご、強奪ごうだつ!」

 俺は思わず、声を上げた。強奪なんて……ど、どうやって?

「そして、もう一つ話さなければならないことはね」

 ミランダさんは決心したように言った。

「大勇者ゲルドンを裏であやつっているのは──。あのセバスチャンなのよ」

 俺は驚いてミランダさんを見た。ど、どういうことだ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...