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第33話 ゼントVSセバスチャンの弟子、シュライナー①

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 1週間が経った。今日行われる、ゲルドン杯格闘トーナメント第2回戦第1試合は、俺とシュライナーだ。
 シュライナーはゲルドンの執事、セバスチャンの──弟子らしい。所属はもちろん、「G&Sトライアード」だ。世界最大の武闘家養成所──。

 対戦場所は、ライザーン中央地区の小スタジアム。中規模の試合会場だ。
 俺は控え室で、不安になっていた。

(ううっ……緊張するなぁ……)

 俺はエルサに武闘ぶとうグローブをつけてもらって、リングに向かった。

「大丈夫。ゼントの努力は、神様が見てくださっているからね」

 リングへの花道を歩きながら、エルサはニコッと俺に笑いかける。
 エルフ族は信心深いようだ。



 俺はリングに上がった。小スタジアムには、結構観客が入っている。
 目の前には、すでにシュライナーが立っていた。
 なかなか頭が良さそうな顔をしている。ひょろりとした体格で、あまり筋肉がない。

「セバスチャン先生が見ておられる。僕は負けるわけにはいかん」

 シュライナーが俺に言った。
 前列の客席を見ると、セバスチャンが腕組みして座っていた。俺をじっと見ている……。
 くそ、何だか観察されているみたいだ。

「だが、正々堂々、フェアに闘おうじゃないか」

 シュライナーが言った。
 ん? なかなか礼儀正しい選手だな。

 カーン!

 試合開始のゴングが鳴らされた。

「握手をしよう」とシュライナーが笑って、片手を出してきた。

 俺は迷ったが、シュライナーの手を握った──と思ったらいきなり!

 ゴスウッ

 シュライナーは自分の肘を上から振り下ろし、俺の右肩に肘を叩きつけた!

「くっ!」

 ……大丈夫だ、肩口に入っただけで、ダメージはない。だが、まともに鎖骨に入ったら、骨が砕かれていたはずだ。
 シュライナーは、「油断したな」と言ってニヤニヤ笑っている。
 
 こいつ! 確かに油断していた俺も悪いけど、汚いヤツだ!

「フフッ、僕の計算は正確無比せいかくむひだよ、奇襲攻撃も含めてね!」

 シュライナーは間合いを詰めてくる。

 シュパッ

 そんな音とともに、左ジャブ、右ストレートを放ってきた。無理はしない。細かくきざむようなパンチだ。
 俺は手でそれをはたきおとした。

「ゼント! 下よ! 下に気を付けて!」

 エルサの声がする。シュライナーは下に下がった右拳の甲を、そのまま上に上げてきた。

「クッ」

 シュッ

 危ねえっ! 俺はすんでのところで上体をひっこめ──つまりスウェーをして、攻撃をけた。

「フリッカー・ジャブよ!」

 エルサが声を上げた。こ、これがフリッカー・ジャブってパンチか? 名前は知ってるが。

「ゼント、相手はトリッキーな技を使ってくるとみたわ! 動きをちゃんと見て!」

 シュライナーは少し油断をしたのか、一瞬、動きが止まった。

 ここだ!

 ベシイッ
 
 俺は下段蹴りをシュライナーの足にくらわせる。

「ぐ、ぐぎっ!」

 シュライナーは声を出し、苦痛に顔をゆがめる。
 痛いはずだ。まともに右腿みぎももの内側に、蹴りが入ったんだ。あそこは筋肉できたえにくい場所だ。

 そうか! こいつは拳闘士! 蹴りに弱いのか?

 俺がまたも下段蹴りを放っていくと、彼はそれをけ、ニヤリと笑った。

「ほほう、僕の弱点が足と判断したわけだね。しかしそれは計算違いだ!」

 シュライナーは前進し、間合いをつめてくる。
 シュライナーの右ボディブロー!
 俺は肘で、叩き落す。
 シュライナーのアッパー!
 俺のアゴにかすったが、俺はスウェーで避ける!
 そして、シュライナーの右フック……!

 ガコッ

 俺の額に、何かかたい部分が当たったぞ?

 俺はくらくらしたが、一応ノーダメージだ。シュライナーはニヤリと不敵に笑う。

 く、くそ、こいつ! やりやがったな! ルール違反の頭突きだ! 故意──わざとのバッティングってやつだ!

 シュライナーはニヤニヤ笑って、素早く前進し、今度は右アッパーを繰り出してきた。
 俺はそのパンチはけたが──。
 
 ガツッ

 まただ、俺の側頭部そくとうぶに、シュライナーの額が当たった!

 俺は少しひるんだ。ダメージはないが……!

 シュライナーはアッパーを繰り出すと見せかけ、額を突き出したのだ。またしても、故意の頭突き! 反則攻撃だ!

「ゼント君、何を驚いているんだい?」

 シュライナーはクスクス笑っている。

「頭が当たったのかい? それはどうも、偶然だねえ?」

 くっ……こいつ! シラを切りやがって!

「審判! シュライナーは頭を当てにきました! バッティングです!」

 エルサがすぐに気付き、リング外の審判団にうったえた。
 シュライナーは、二度、俺にパンチを繰り出すと見せかけ、頭突きを繰り出してきたのだ。
 ルール上では、故意──わざとの頭突きは反則のはずだ。

 しかし!

「我々には確認できなかった」

 審判団長はそう言い、首を横に振っている。

 くそ、シュライナーのやつ、ケンカ慣れしている。審判に分からにように、上手くバッティングを繰り出すことができるらしい。

 シュライナー……! こいつ、とんでもない反則野郎だ!

 しかしシュライナーは余裕の表情で、その場をピョンピョン飛んでいる。

 客席のセバスチャンは、満足気な表情で試合を観ていた。

 シュライナー……! この反則野郎を……俺は必ず倒す!
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