上 下
53 / 80
第4章

暗くてわかりにくいけど、それでも赤い鳥居がうちのことを待っててくれた。

しおりを挟む

 せせらぎのすぐ横に流れるその川のほとりに、貴船神社はあった。暗くてわかりにくいけど、それでも赤い鳥居がうちのことを待っててくれた。
「ここです。」と巫女さんは親切に教えてくれながら、さらに足元に気を付けるように言う。
「ありがとう。」と京都弁のイントネーションで言いながらも、京都人のうちは貴船神社に来るのは初めてやった。京都の人やから清水寺や金閣寺に行ったことがあると思ったら大間違いや。と、うちは誰に向かって叫んでるねん。いや清水寺は遠い昔に行った気もするけど。
「中へどうぞ。」と月明かりに照らされた境内へと、巫女さんに連れられうちはのそのそと入っていく。今や味方はこの手元のリスと、目の前の巫女さんだけや。この世に誰も味方はおーへん、深夜の山奥にいるとそんな気さえしてくる。
「よっこらせ。」と言って、うちは靴を脱ぐ。また上賀茂神社みたいなお坊さんが出てくるんやろか。とうちは思いながら、巫女さんの美しい後ろ姿に見とれている。
「こちらです。」と彼女が言った先には、白い袴姿の女性がいた。うっすらとしていて、亡霊のよう。
「どうも。」うちがおずおずと声を上げると、その白髪交じりの女性はこちらを向いた。老婆というほどではないけど、中年くらいやろうか。
「待っておりました。」と女性は言う。ゆっくりとした口調ながら断固とした響きがある。
「はい。」としかうちは答えることができへん。どこか相手の迫力に負けてる。
「大変な目にあいましたね。」とすべてを知ってるような口調で彼女は言った。
「そ、そうですね。」とうちは相槌を打ちながら、どう答えたらええのかわからへん。
「すべては、仕組まれたことでもありますから。」と低い声で、女性は言った。
「仕組まれた?」とうちはようやく口に出すことができた。
「こちらへ。」と彼女に促されて、もう一歩近づく。何が始まるんやろ、どちらにしてもお祓いしてもらわなあかんのはわかってるけど。
「お祓い、できますか。」とうちは勇気を振り絞って聞く。
「はい。」と相手は言った。
「どうしたら。」とうちは聞いた。もっと言えば、なんでこんな目にあってるのかも教えてほしかった。でもまずはお祓いが先や。
「月を読むのです。」と女性は言った。
「月を読む?」うちの頭の中ではクエスションマークが蝶々のように飛んでいった。もう少し余裕があったらその蝶々を、一匹づつ採集したいくらいや。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...