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第4章

巫女さんはうちの前を歩いてはる。

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 せせらぎは、うちの横を流れ続けている。巫女さんはうちの前を歩いてはる。
「お気をつけください。」と彼女は足元の注意を促す。
「はい。」とうちは素直に返事しながらも、小石に蹴つまずく。
「大丈夫ですか。」と振り返った巫女さんはうちを気遣う。
「すみません。」おどおどしながら、うちは落としてしまった小リスを探した。
「どうしました。」と巫女さんが聞く。
「いえ、あの、うちの友達っていうか。リスなんですけど、逃げてしまって。」右往左往してるうちの横に彼女はやってくる。まるで霊のようにすーっと。
「ここにいますよ。」とうちの横で彼女は言って、すぐ足元にじっとしてるリスを抱き上げた。
「あ、ああ。」とうちは生返事する。リスのこともそうやけど、彼女の動きに気を取られた。
「お大事に。」と彼女は優しく微笑んだ。白くて美しい。月明かりのせい?黒髪に照るほのかな香り。一句読みたくなるくらい。
「その恰好って普段から。」と知らぬ間にうちは問いかけている。
「え、ああ、巫女はみなこうなんです。」と彼女は白い袴をさらりと触った。
「似合ってます。」とうちは訳の分からない褒め言葉を言った。巫女さんに巫女姿が似合ってるって。タクシーの運転手に運転うまいって言ってるようなもんやな。いや、下手なたとえやけど。
「ありがとうございます。あの。」と彼女は答えて、少し笑った。
「どうしました。」とうちは彼女に問いかけた。
「いえ、もしよかったら後で着ます?」と彼女は言った。
「え?」とうちは答える。
「どちらにしても、着てもらったほうがいいし。」と彼女は言った。
「どういう意味ですか。」とうちは聞く。
「いえ、お祓いをしてもらうなら。」と彼女は言った。
「ああ、そういうことか。」とうちは納得する。と、同時にホッとする。ようやくお祓いしてもらえるんや。
「と言っても、ここだけじゃお祓いできないのですが。」と彼女が言って、うちは思わずまたこけそうになる。
「お祓いしてもらえないんですか?」とうちは聞く。
「ええ、半分はうちで、残りの半分は鞍馬寺で。」と彼女が平気で言うので、うちは頭がくらくらする。
「なんでそんな。」面倒くさい、とは言えないけど。実際なんでやねん。
「ごめんなさい。」と巫女さんは言って、そそくさと歩いた。月明かりが消えないうちにとでもいうように。

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