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第4章
「動く鉄。」と五右衛門は言った。
しおりを挟むうちらが駅に着くと、ほぼ最後と思わしき電車が向こうからやってくるではありゃしませんか。
「五右衛門、あれや。あれに乗ろ。」とうちは必死に走る。路面の上をカタコトと電車がやってくる。
「動く鉄。」と五右衛門は言った。そういえばさっきから車や信号を物珍しそうに眺めてはったな。
「そう、あれに乗るねん。馬より速いで。」うちは言った。
「馬より。」と五右衛門は感心しながら駆けて行く。
「そりゃそうや。」と言って、うちらは駅にたどり着く。うちの足も捨てたもんちゃうやろ。息は切れてるけど。
「これが最終です。」と優しそうな駅員さんが言う。
「乗ります。二人。」とうちはお金を払う。五右衛門を見て、駅員さんは少し笑った気がした。おそらく太秦の役者さんやと思ってるんちゃうかな。それにしてはすごい負傷してるけど。
「これに乗るのでござるな。」と五右衛門が言うのを聞いて、うちは答えた。
「そうやよ、お侍さん。」と同時に出発のベルが鳴る。うちは五右衛門の手を引っ張る。それにしても誰もお客さんおらへんな。さすがにこんな深夜に鞍馬に行く人なんておらんのやろうか。
「お腹がすき申した。」と五右衛門は言った。それはうちが言うセリフや、とうちは思ったけどさっき買ったおにぎりを取り出す。
「さ、食べよ。」とうちはリスにもあげようとしたら、小リスは再び眠りに落ちてはる。ま、夜やから動物は眠るもんかもしれん。
「いただき申す。」と五右衛門は言って、おにぎりをむしゃむしゃと食べた。しかし、この五右衛門は霊なのかな。それにしてはやけにリアルやん。うちは五右衛門の負傷した腕を見る。
「痛いん?」と聞いて、うちはそれが無用な質問やと気づいた。
「大丈夫でござる。」案の定、五右衛門はそのように答える。お侍さんが「痛い。」なんて答えるはずなかった。うちは自分の愚問を恥じ入る。
「霊っていうか、タイムスリップやんな。」とうちは言ってみる。時空の狭間から巨人も出てくるような時代やねんから、お侍さんがやってきてもおかしくはないやん。
「タイム…」と五右衛門はおにぎりを頬張りながら聞いてくる。
「もうええから。」うちはそんな五右衛門を見ながら、これが仲条さんやったらなぁとか思ってしまった。深夜の電車デートなんて。この電車のガタゴトいう音、心地いいし。月明かりもゆるやかに、お腹も満たされうちを夢の世界へと誘う。きっとそこでは幼きうちが、静と一緒に飛び跳ねてるんかもしれへん。
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