32 / 80
第3章
「お姉ちゃん。」という静の声が、うちから離れていく。
しおりを挟む鬼がうちらを捕まえるその前に、あの桜の穴に滑り込もう。幼い静を背負って、必死にうちは走った。
「オイ。」という声とともに、鬼は大股でうちらの方向へやってくる。しかもめっちゃ速い。
「わ、わ、わ。」うちは声にならない声とともに、走る。それやのにうちの足は、思ったほど動いてくれへん。
「お姉ちゃん、がんばって。」と静が耳元でささやく。その静の体温を背中で感じながら、うちは桜の根元へと滑り込む。
「間に合った。」とうちはガッツポーズをしようとした。
「オイ。」という鬼の手が、その時小さい静を捕まえてしまう。
「お姉ちゃん。」という静の声が、うちから離れていく。
「し、静。」と言いながら、うちはすでに穴の中に吸い込まれていく。
「お姉ちゃん。」という静の声がもう一度、暗闇で浮かんでは消えた。
「静。」うちももう一度全力で叫ぶけど、それは声にならない声。うちの声は、穴の向こうに浮かんで消える。
「お姉ちゃん。」という静の声だけが、うちの頭の中で鳴っている。うちは暗闇の中をどこまでも落ちていく。助けてほしいのに誰も助けてくれへん。しかもうち自身、静を助けることもできへん。悔しさで涙があふれてきた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった
ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。
その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。
欲情が刺激された主人公は…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件
りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる