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第3章

 夜の河原を歩きながら、うちはその道中を味わっていた。

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 夜の河原を歩きながら、うちはその道中を味わっていた。夏草が香るような匂い、川のせせらぐ音、そしてどこかから聞こえてくる虫の声。何千年も前から京都ではこのような自然が、人々の暮らしとともににあったんやろか。京都は盆地に囲まれてるから、夏は暑いし冬は寒い。そやけど安全やから、昔の人たちはここに都を作った。そして神社や仏閣もたくさんできた。うちはその地面を見ながら歩いていく。ここには何もないようやけど、でもやっぱり五右衛門さんのようなお侍さんたちが歴史を作ってきたわけで。清少納言や紫式部さんなんかも、この京の町で和歌や日記をつづってきはったわけで。
「そろそろでござるな。」と後ろから五右衛門が言った。
「え、ああ。そうやね。」と考え事をしてるうちに、上賀茂神社の前まで来てた。
「ここまで来れば。」と五右衛門が言ったところで、後ろを振り返った。
「どうしたん。」とうちは思わず声を出す。
「走って。」と五右衛門は言ったかと思うと、また刀を抜いた。
「え、うそやん。」と後ろを見ながらうちは叫ぶ。そこには黒い影がワンサカと駆けている。
「中に。神社の中に。」と五右衛門は言いながら、刀で相手の攻撃を防ぐ。そしてうちの後ろを守ってくれる。
「あかん、うち、あかん。」と言いながら、全力で走る。今日何回目のダッシュなんやろ、ほんま嫌になる。
「そのおなごをよこせ。」という声が後ろの影から聞こえてくる。うそやろ、なんでうちが狙われてるん。おかしいやん。うちは清少納言が好きなフツーの女子やで。平和な京都の女の子やのに、なんでこんな悪党どもに追われなあかんの。
「町子殿、はやく。」という五右衛門の声が聞こえる中、うちは河原から神社の入り口へと猛スピードで走る。月が雲に隠れてて、あたりは見えない。
「珍獣を、殿下にお渡ししろ。」とか声が聞こえる。え、珍獣?うちのこと言うてるんやろか。誰が珍獣やねん、と最初は思ったけど、ちゃうやんな。やっぱりこの子や。この子が目的やったんや。
「逃げるな。」と、とうとううちの真向かいに、侍のような影がしゃしゃり出てきた。
「逃げる。」うちは何とかすぐそこの鳥居をくぐりたいねんけど、この首なし侍が邪魔で。
「それ以上逃げると、お命ちょうだい。」と相手は言った。そして黒い刀をパッと抜く。あかん、こんなとこで死にたくない。うちが一体何を悪いことしたって言うん。
「危ない。」と危機一髪のところで現れたのは、息を切らした五右衛門やった。相手の刀を跳ね返すと、そのまま刀を相手の胸元へ突き刺す。すごい、あんた。命の恩人。
「ありがとう。」うちはそう言うと、一瞬のすきをついて、神社の中に滑り込んだ。

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