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第2章
彼女はこのカフェの店長さんで、この店に頻繁に来るうちもよくお世話になっている。
しおりを挟む「町子ちゃん、どうしたん。」と響さんは言った。彼女はこのカフェの店長さんで、この店に頻繁に来るうちもよくお世話になっている。
「いや、ちょっとこの子を見つけてん。」とうちは答える。その瞬間お腹が鳴った。うちの顔は赤くなる。
「え、かわいい。どうしたん。あ、お腹すいてるんやったら何か作ろうか。」と響さんは言ってくれる。店内ではヴァン・モリソンなんかの曲がかかってて、それは響さんの渋い趣味だ。
「ありがとうございます。じゃ、うちはロコモコと、この子にも何かありますか。」とうちは丁寧に聞く。そーやなーと響さんは、厨房を見る。厨房にはコックの真下くんがいる。この若いコックさんは響さんの彼氏でもあるのだから、この店は本当に響色だ。
「大丈夫、なにか用意しますよ。」と真下くんは閉店間際にもかかわらず快く応対してくれる。
「ありがと。」とうちは言って、小リスと一緒にソファに腰を掛ける。すると響さんが、水を持ってきてくれる。
「どこで拾ってきたん、この子。」と彼女は小リスをそっとなでる。小リスはようやく目覚めた赤ん坊のように、眠そうな目をうっすらと開く。
「なんか、植物園の近くの茂みにいてん。」とうちはウソをつく。さすがに夜の植物園に侵入したとは言えへん。
「へーリスなんているんや。誰かのペットかな?」と響さんに言われて、うちは初めてペットという可能性にぶち当たった。
「えーペットかな。それやったらますますどうしたらいいのかわからん。」うちは困惑してしまう。響さんは優しく小リスをなでる。
「そっかー。犬とかなら保健所とかに預けるんやろうけど。」彼女がそんなこと言うので、うちはビクっとなってしまう。保健所、なんかに預けてもらい手がいなかったらドキュンって殺されるんやろうか。
「銃じゃなで、最近は注射やろ。それか錠剤か。」と響さんは残酷なことをいとも平気に言ってのける。錠剤って、毒のことやんな。いややわ、ほんまに毒で殺すんやろか。ま、銃とか注射よりはマシかもしれんけど。って、すると真下くんが料理とリスのエサを持ってきてくれる。
「これ食べるかな。」と彼がお皿に置いたのは、ミルク&ピーナッツやった。わーこれなら食べそうやけど、もしかして毒盛られてへんやろな。うちは変な想像をしてしまう。でもリスはおかまいなしに動いて、ミルクをちゅぱちゅぱと飲んだ。
「あー飲んでる、飲んでる。」とうちらはリスの一挙手一投足に目を奪われる。あーこうしていとも簡単にリスって殺されるんやわ。とうちが真下くんをにらむと、変な顔で彼もうちのことを見た。
「ほら町子ちゃんも、ロコモコ冷めるで。」と響さんが言ってくれるので、うちはロコモコに手をつける。夜にこんなに食べて、うち大丈夫やろか。
「よかったら響さんも少し食べます?」とうちは自分だけ太るのを恐れて、スタイルのいい響さんを道連れにしようとする。
「いいのよ、あたしはさっき食べたところやから。」とあっけなくうちの計略がばれたのか知らんけど、断られる。
「どうするんですか、このリス?」と真下くんが、あらためて根本的な問題を提起して下さる。いやいや、わかってるねん、だからそれをこれから考えるねん、青年よ。うちはとにかくひたすらロコモコを食べながらも、ピーナッツをおいしそうにかじる小リスに熱い視線を送った。
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