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17 一生の宝物

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 部屋に戻った夕美は、用意していたクリスマスプレゼントを千影に渡した。

 自分の服を買いに行った際、彼に似合いそうなネクタイを購入したのだ。
 千影からもらった指輪には足元も及ばない値段だが、ありがとうありがとう本当にありがとうと彼は喜び、目には涙が浮かぶほどだった。

 大げさだよと夕美が笑っても、彼はしばらくネクタイを離そうとはせず、愛おしげにずっと眺めていた。

 互いのプレゼントを堪能したあとでサウナ着に着替え、プライベートサウナへ一緒に入って整う。それから交代で露天風呂に入ってゆったり過ごした。
 素晴らしく気持ちが良く、極上の心地でいた一方で、夕美は急に訪れた眠気との戦いに何度も負けそうになりながら耐えた。

 ――風呂上がりの彼の浴衣姿や、濡れた髪でいる姿を写真に収めたい。

 その必死な思いが眠気を覚ましてくれ、彼の了承も得て(怪しくならないように気を付けて)、無事に写真をゲットできた自分を褒めてあげたい。

 その後、宿のレストランで地元の食材を使った料理をいただく。素晴らしい美味しさに驚いて、しっかり目が覚めたのだが、そのあとがいけない。
 下田の地酒がとても美味しく、ひとくち、またひとくちと飲んでしまったのだ。それほど多い量ではないが、結局眠気が舞い戻ってくることに。

 食事を終えたふたりは、腹ごなしに館内を散歩する。
 エントランス横の部屋に入ると、大きな窓をしつらえたライブラリーが現われた。話題の書籍から文豪の文庫、洋書や雑誌もあり、ふたりでおしゃべりしながら写真集を手に取る。ゆったりしたソファに腰掛け、ふたりで一冊の本を眺めて、楽しい時を過ごした。

 ライブラリーを出たあとは、セレクトショップに入り、伊豆の特産品やリネン類、宿オリジナルのスキンケアグッズを眺める。

「これ、お部屋にあって使ったの。すごく良かったから、帰りにもう一度寄って買ってもいい?」

「どれを買うの?」

 そう問われて、夕美が「これとこれ」と指さしたスキンケアグッズを、千影が手にした。

「他には? 好きなの選んでいいよ」

「え、まさか千影さんが買うの? 自分で買うから大丈夫よ」

「買ってあげたいんだよ。僕のワガママだから、いいんだ。ほら、こっちも良さそうだよ」

「ありがとう、千影さん。でもこれだけで十分。すごく嬉しい」

 お礼を言ったとたん、千影は夕美の肩を抱き、自分に引き寄せた。

「ち、千影さん?」

「可愛すぎる。この店の物、全部買ってあげたいくらいだ」

 ぎゅーっとしながら耳元で囁かれ、彼の香りでいっぱいになる。恥ずかしさと照れくささで目の前がチカチカするほどだ。

(千影さん、というか神原社長のイメージが……! こんなに甘々な人だったなんて知らなかった……)

 周りに他の客はいなかったが、人目を憚ろうとしない千影の行動にドギマギする。スタッフは離れているところにいるので、たぶん見えていなりだろうとわかっていても。
 
 スキンケアグッズと伊豆の特産品を買い、部屋に戻る。
 千影は畳敷きの和室でノートPCを取り出し、仕事の確認を始めた。
 夕美はベッドに座ってSNSを見たり、メッセージなどをチェックする。そしてこっそり女性向けの「初体験」に関する情報を検索した。 昨日から何度も見過ぎていて、文章を覚えてしまっているくらいだ。

 そうしてスマホを眺めているうちに、また眠気が戻ってくる。

「よし、終わった。ちょっと酔い覚ましにテラスに出てくるね」

「えっ、あ、はい!」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないの。お仕事お疲れさまでした」

 ありがと、と微笑んだ千影は立ち上がり、テラスへ行く。しかし十秒も経たないうちに、彼は身を縮めながら部屋に戻ってきた。

「ダメだ、やっぱり夜は寒いね。一瞬で目が覚めたよ。ああ、ほんとに寒かった~」

 子どものようにはしゃぐ彼の貴重な姿も写真や動画に収めたかった夕美だが、先ほどとは違って、それどころではない。

「私もテラスに出てみようかな……」

「すごく寒いよ? ……もしかして眠いの?」

 ベッドに腰掛けていた夕美のとなりに、千影が座った。

「お酒のせいもあるんだけど、昨夜あんまり眠れなかったの。それで眠気がきちゃったから、目を覚ましてこようかなって」

「もしかして旅行に緊張してた?」

「それもあるし、嬉しかったから興奮しちゃったみたい。遠足前の子どもみたいな感じ」

 えへへと笑ってごまかす。
 緊張と楽しみ以上に、千影に抱かれてもいいという話しをどう切り出そうか悩んでいたことが、眠りを妨げていた一番の要因だったから。

「僕も嬉しくて寝られなかったから、一緒だね」

 クスッと笑った千影は立ち上がり、自分の荷物を探った。そして、先ほどドラッグストアで購入した箱をこちらへ見せる。

「そろそろ横になろうか」

「っ、はい!」

「これを見て、少しは目が覚めたんじゃない? でもね、夕美」

 箱の中を探りながら、彼がこちらへ近づいてくる。そして部屋の明かりを消し、間接照明だけを灯した。

「今夜、これは使わない」

 再び夕美の隣に座った千影は、包装されているゴムをこちらに見せて、口の端を上げた。
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