17 / 52
17 一生の宝物
しおりを挟む部屋に戻った夕美は、用意していたクリスマスプレゼントを千影に渡した。
自分の服を買いに行った際、彼に似合いそうなネクタイを購入したのだ。
千影からもらった指輪には足元も及ばない値段だが、ありがとうありがとう本当にありがとうと彼は喜び、目には涙が浮かぶほどだった。
大げさだよと夕美が笑っても、彼はしばらくネクタイを離そうとはせず、愛おしげにずっと眺めていた。
互いのプレゼントを堪能したあとでサウナ着に着替え、プライベートサウナへ一緒に入って整う。それから交代で露天風呂に入ってゆったり過ごした。
素晴らしく気持ちが良く、極上の心地でいた一方で、夕美は急に訪れた眠気との戦いに何度も負けそうになりながら耐えた。
――風呂上がりの彼の浴衣姿や、濡れた髪でいる姿を写真に収めたい。
その必死な思いが眠気を覚ましてくれ、彼の了承も得て(怪しくならないように気を付けて)、無事に写真をゲットできた自分を褒めてあげたい。
その後、宿のレストランで地元の食材を使った料理をいただく。素晴らしい美味しさに驚いて、しっかり目が覚めたのだが、そのあとがいけない。
下田の地酒がとても美味しく、ひとくち、またひとくちと飲んでしまったのだ。それほど多い量ではないが、結局眠気が舞い戻ってくることに。
食事を終えたふたりは、腹ごなしに館内を散歩する。
エントランス横の部屋に入ると、大きな窓をしつらえたライブラリーが現われた。話題の書籍から文豪の文庫、洋書や雑誌もあり、ふたりでおしゃべりしながら写真集を手に取る。ゆったりしたソファに腰掛け、ふたりで一冊の本を眺めて、楽しい時を過ごした。
ライブラリーを出たあとは、セレクトショップに入り、伊豆の特産品やリネン類、宿オリジナルのスキンケアグッズを眺める。
「これ、お部屋にあって使ったの。すごく良かったから、帰りにもう一度寄って買ってもいい?」
「どれを買うの?」
そう問われて、夕美が「これとこれ」と指さしたスキンケアグッズを、千影が手にした。
「他には? 好きなの選んでいいよ」
「え、まさか千影さんが買うの? 自分で買うから大丈夫よ」
「買ってあげたいんだよ。僕のワガママだから、いいんだ。ほら、こっちも良さそうだよ」
「ありがとう、千影さん。でもこれだけで十分。すごく嬉しい」
お礼を言ったとたん、千影は夕美の肩を抱き、自分に引き寄せた。
「ち、千影さん?」
「可愛すぎる。この店の物、全部買ってあげたいくらいだ」
ぎゅーっとしながら耳元で囁かれ、彼の香りでいっぱいになる。恥ずかしさと照れくささで目の前がチカチカするほどだ。
(千影さん、というか神原社長のイメージが……! こんなに甘々な人だったなんて知らなかった……)
周りに他の客はいなかったが、人目を憚ろうとしない千影の行動にドギマギする。スタッフは離れているところにいるので、たぶん見えていなりだろうとわかっていても。
スキンケアグッズと伊豆の特産品を買い、部屋に戻る。
千影は畳敷きの和室でノートPCを取り出し、仕事の確認を始めた。
夕美はベッドに座ってSNSを見たり、メッセージなどをチェックする。そしてこっそり女性向けの「初体験」に関する情報を検索した。 昨日から何度も見過ぎていて、文章を覚えてしまっているくらいだ。
そうしてスマホを眺めているうちに、また眠気が戻ってくる。
「よし、終わった。ちょっと酔い覚ましにテラスに出てくるね」
「えっ、あ、はい!」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないの。お仕事お疲れさまでした」
ありがと、と微笑んだ千影は立ち上がり、テラスへ行く。しかし十秒も経たないうちに、彼は身を縮めながら部屋に戻ってきた。
「ダメだ、やっぱり夜は寒いね。一瞬で目が覚めたよ。ああ、ほんとに寒かった~」
子どものようにはしゃぐ彼の貴重な姿も写真や動画に収めたかった夕美だが、先ほどとは違って、それどころではない。
「私もテラスに出てみようかな……」
「すごく寒いよ? ……もしかして眠いの?」
ベッドに腰掛けていた夕美のとなりに、千影が座った。
「お酒のせいもあるんだけど、昨夜あんまり眠れなかったの。それで眠気がきちゃったから、目を覚ましてこようかなって」
「もしかして旅行に緊張してた?」
「それもあるし、嬉しかったから興奮しちゃったみたい。遠足前の子どもみたいな感じ」
えへへと笑ってごまかす。
緊張と楽しみ以上に、千影に抱かれてもいいという話しをどう切り出そうか悩んでいたことが、眠りを妨げていた一番の要因だったから。
「僕も嬉しくて寝られなかったから、一緒だね」
クスッと笑った千影は立ち上がり、自分の荷物を探った。そして、先ほどドラッグストアで購入した箱をこちらへ見せる。
「そろそろ横になろうか」
「っ、はい!」
「これを見て、少しは目が覚めたんじゃない? でもね、夕美」
箱の中を探りながら、彼がこちらへ近づいてくる。そして部屋の明かりを消し、間接照明だけを灯した。
「今夜、これは使わない」
再び夕美の隣に座った千影は、包装されているゴムをこちらに見せて、口の端を上げた。
20
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
【R18】イケメン御曹司の暗証番号は地味メガネな私の誕生日と一緒~こんな偶然ってあるんですね、と思っていたらなんだか溺愛されてるような?~
弓はあと
恋愛
職場の同期で隣の席の成瀬君は営業部のエースでメガネも似合う超イケメン。
隣の席という接点がなければ、仲良く話すこともなかった別世界の人。
だって私は、取引先の受付嬢に『地味メガネ』と陰で言われるような女だもの。
おまけに彼は大企業の社長の三男で御曹司。
そのうえ性格も良くて中身まで格好いいとか、ハイスぺ過ぎて困る。
ひょんなことから彼が使っている暗証番号を教えてもらう事に。
その番号は、私の誕生日と一緒だった。
こんな偶然ってあるんですね、と思っていたらなんだか溺愛されてるような?
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
セフレはバツイチ上司
狭山雪菜
恋愛
「浮気というか他の方とSEXするつもりなら、事前に言ってください、ゴムつけてもらいます」
「ぷっくく…分かった、今の所随分と他の人としてないし、したくなったらいうよ」
ベッドで正座をする2人の頓珍漢な確認事項が始まった
町田優奈 普通のOL 28歳
これから、上司の峰崎優太郎みねざきゆうたろう42歳に抱かれる
原因は…私だけど、了承する上司も上司だ
お互い絶倫だと知ったので、ある約束をする
セフレ上司との、恋
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる