プールの思い出

ちちまる

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月光のプール

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静寂が支配する夜、月明かりだけが古びたプールを照らしていた。かつて子供たちの歓声で賑わっていたその場所は今、時の流れに忘れ去られたかのように静まり返っていた。しかし、この夜、月光の下で一人の少女がプールサイドに立っていた。彼女の名前は結衣。このプールには、彼女にとって忘れられない思い出が詰まっている。

結衣がプールに来た理由は、幼い頃に亡くなった兄との約束を果たすためだった。兄と彼女はプールが大好きで、夏になると毎日のように通っていた。兄はいつも結衣に向かって、「いつか夜中にこっそりプールに忍び込んで、月明かりの下で泳ごう」と言っていた。それは二人にとっての小さな冒険だった。

兄が亡くなってから数年が経ち、結衣はようやくその約束を果たす決心をした。彼女は静かに水面に足を踏み入れると、冷たさに身震いしながらもゆっくりと泳ぎ始めた。水面を割る音と、自分の呼吸だけが夜の静寂を破る。彼女は泳ぎながら、兄と過ごした日々を思い出していた。その記憶は月光に照らされたプールの水面に、きらめく星のように輝いていた。

泳ぎ終えた結衣は、水から上がってプールサイドに座った。彼女は空を見上げながら、兄への思いを馳せた。「兄さん、見ててくれたかな。約束、果たせたよ」と心の中でつぶやいた。その時、風が彼女の頬を優しく撫でるように吹き、それが兄からの返事のように感じられた。

結衣はその夜、兄との美しい思い出と共に、新たな記憶を心に刻んだ。月光のプールは、彼女にとって特別な場所となり、兄への思いを繋ぎ止める大切な存在になった。

夜が明けて、世界が徐々に色を取り戻し始めると、結衣は静かにプールを後にした。彼女の背中には、これからの日々を生きていく力と、愛する人を想う温かな心があった。プールサイドのミラージュは、彼女の人生において消えることのない、輝かしい瞬間として残り続けるのだった。
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