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夏休み
しおりを挟む夏の風が、やわらかく町を包んでいた。高校二年生の大樹は、放課後の教室でぼんやりと窓の外を眺めていた。彼の目には、夏休みの始まりを告げる陽炎が揺れているように見えた。
「大樹、夏休みの計画はもう決めたの?」
隣の席の詩織が話しかけてくる。彼女はいつも元気で、大樹とは小さい頃からの幼なじみだった。
「うん、まだ何も考えてないんだ。詩織は?」
「私はね、家族で海に行くことになってるの。でもそれは最初の週だけ。あとはずっと暇そう。」
大樹は少し笑って、もう一度外を見た。詩織ともう少し一緒に遊べたらいいなと思ったが、そんなことを直接言う勇気はなかった。
夏休み初日、大樹は家でダラダラと過ごしていたが、ふとしたことから母親の古いアルバムを見つける。その中には、若い頃の母と見知らぬ男性が海辺で写っている写真があった。母にその写真のことを尋ねると、彼女は懐かしそうに語り始めた。
「この人はね、あなたの父さんじゃないけど、とても大切な人だったのよ。夏の終わりに会ったんだけど、その次の夏にはもう会えなくなってしまって…」
母の話は途切れ途切れで、大樹には少し切なく感じられた。それからの日々、大樹はその写真の場所を訪れることを決心する。詩織を誘って、二人でその海辺の町へと向かった。
到着した海辺は、想像していた以上に美しく、大樹は心からその景色に感動した。詩織と一緒に浜辺を歩きながら、大樹は母が感じたであろう切なさや、喜びを少しずつ理解していった。
「大樹、こうして私たちもいつかは写真に残るだけの思い出になるのかな」
詩織のその言葉に、大樹は強く頷いた。そして、彼は突然詩織の手を握りしめた。
「詩織、今のこの時間を大切にしたい」
詩織は少し驚いた後で、優しく笑ってその手を握り返した。夏の日差しの中、二人の影が長く伸びていた。
その夏の終わりまでに、大樹と詩織は何度もその海を訪れることになった。毎回、新しい発見があったし、二人の距離もぐっと縮まっていくのが感じられた。夏休みが終わる頃、大樹はもう一度母のアルバムを開いた。新たに一枚、自分たちの写真を加えることにした。画面の中で、大樹と詩織は幸せそうに笑っている。
「ねえ、来年の夏もまたここに来ようね」
「うん、約束だよ」
二人の約束は、新しい夏の物語の始まりを感じさせるものだった。夏休みの魔法は、彼らの心に深く刻まれた。
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